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地震・石綿・マスク支援プロジェクト

阪神・淡路大震災から20年 東日本へのメッセージ

2014/01/18
◆概要

阪神淡路大震災から20年目を迎えた118日、神戸市勤労会館において「震災とアスを考えるシンポジウム」が開催され130名の参加があった。阪神淡路大震災後の復旧・復興工事に従事された5名の労働者が、中皮腫を発症したことが明らかになっており、今後の防災対策や健康対策について考え合うために、当センターなどで構成する「震災と労働を考える実行委員会」が主催。


◆被災住民登録を

シンポジウムは神戸ワーカーズユニオンの小林るみ子さんの司会で進められ、冒頭に阪神・淡路と東日本の被災者への哀悼を込め黙祷をささげた。

まず、「阪神・淡路の復旧・復興工事とアスベスト飛散」をテーマに熊本学園大学教授の中地重晴氏より基調講演が行われた。中地氏は、アスベスト根絶ネットワーク(アスネット)の中心として古くから活動をされており、阪神淡路大震災の直後も粉じん飛散の調査や問合せに対応されてきた。そして、「被災地のアスベスト対策を考えるネットワーク」を市民やボランティアの皆さんと共に結成し、解体現場のパトロールや行政への申し入れ、学習会の開催、情報発信に取り組まれた。

中地氏からは、当時のテレビニュースでアスベスト問題が取り上げられた映像が紹介された。粉じんが舞う中で作業が行われ、その中を通勤・通学する市民や子どもたちの姿が映し出され、参加者は当時の記憶が鮮明によみがえった。

また、芦屋の自宅を拠点に被災地を回り写された写真も紹介されたが、鉄骨や天井にアスベストが吹き付けられた写真が次々と映し出され、アスベスト飛散の事実が実感として伝わってきた。そして、今後の提言として、①平時から吹き付けアスベストを除去する②災害時用のマスクの備蓄を行う③地域防災計画にアスベスト対策の項目を設ける④アスベストの環境モリタリングを継続する、ことの必要性が訴えられた。さらに、今後の健康被害に対応するためにも被災住民登録の必要性を強調されていた。


◆アスベスト被害にどう備えるか

後半は、忍び寄る震災アスベスト被害にどう備えればいいのかをテーマに、パネルディスカッションが行われた。パネラーは、阪神・淡路の復旧・復興作業に従事された峯榮二氏(峰工務店・代表取締役)、東日本大震災におけるアスベスト飛散調査を取り組まれている南慎二郎氏(立命館大学・研究員)、アスベスト被害を伝えるため・マンガプロジェクトを取り組んでおられる松田毅氏(神戸大学・教授)の3名。コーディネーターの加藤正文氏(神戸新聞社・記者)の進行で討論が行われた。峯氏からは、「当時は、建物の点検と応急処置に被災地を走りまわったが、アスベストの危険性に関する認識はなかった。」「尼崎(クボタショック)の問題が起きて初めて認識が拡がった。震災当時に危険性を知っていたなら対応をとったと思う。」「倒壊した建物にアスベストが吹き付けて有っても、養生のしようがない。壊れた建物に含まれる石綿含有建材は、剥がす、割る、砕くしかなく作業時に吸い込んでしまう。」、そして「神戸の二の舞を、東日本で踏まないようにして欲しい」と訴えられた。

南氏からは、東日本大震災の被災地でのアスベスト問題をテーマに、これまでの現地調査を元に報告が行われた。「津波によって倒壊した建物が混在化したガレキとなり、ガレキそのものが石綿含有廃棄物となり、全地域に拡散してしまった。」「そのため、災害廃棄物におけるアスベストの分別は目視に頼らざるを得ず、困難となった。」と指摘され、「平時から注意喚起をしていても、復旧・復興が優先される傾向にあり」「局地的・瞬間的なアスベストばく露がいくつも発生していたことが予想される」「不適切な工事による飛散事故も完全に回避できていない」ため、「今後の健康被害の発生が懸念される」と結ばれた。

松田氏からは、アスベストの被害とリスクをどう伝えていくのかをテーマに、報告があった。「この間、若い人たちにどう関わってもらい、被害をどう伝えていくのかを意識し、取り組みを進めてきた。」「世代を超えたリスクコミュニケーションが重要であると考え、そのためのツールとしてマンガを取り入れた。」「精華大学のマンガ研究科と連携し『石の綿 マンガで読むアスベスト問題』を出版し、現在は『震災とアスベスト』ブックレットを作成中で、震災によるアスベスト・リスクを警告・啓発するために活用したい」との思いが伝えられた。

会場からも、震災当時ポートアイランドでガレキの分別作業に従事した全港湾弁天浜支部の戸崎氏、同僚が中皮腫を発症した明石市職員の吉田氏、泉南アスベスト訴訟弁護団の伊藤弁護士、建設国賠大阪訴訟団の北山団長からの発言があった。また、大阪市立大名誉教授の宮本憲一氏は、「行政に震災と石綿疾患発症の関係を認めさせ、被害の全体像を明らかにしないといけない」と訴えられた。


◆アスベスト飛散状況の再検証を

阪神・淡路大震災から19年が経過し20年目を迎えた今、アスベストによる疾病の発症が本格化する時期に入ったといえる。阪神淡路大震災後の復旧・復興工事に従事された5 名の労働者が、中皮腫を発症したことが明らかになっており、被害の拡がりが懸念される。震災当時の労働実態や粉じんばく露実態を明らかにし、アスベスト飛散状況の再検証が求められている。そこで、立命館大学・神戸大学・神戸新聞社と当センターで「震災アスベスト研究会」(仮称)をつくり、震災20年に向けた活動を開始している。また、阪神淡路大震災の被災地の住民を対象として健康診断が実施できるよう、行政への働きかけを強める必要がある。環境省が実施している「石綿の健康影響に関する調査」に、当面、神戸市・芦屋市・西宮市が参加するよう取り組みを強めていくことにしている。

そして、阪神・淡路の過ちを東日本の被災地で繰り返させないためにも、教訓を活かし拡げる取り組みが求められている。「震災と労働を考える実行委員会」では、39日にも「震災と心のケア」を考えるシンポジウムを開く。ぜひご参加いただきたい。


◆神戸市・芦屋市・西宮市に「石綿リスク調査」への参加を要請

123日、国が行っているリスク調査への参加を求め、要請行動をおこなった。2005年のクボタショックを受け、環境省は2006年から「石綿の健康影響に関する調査(リスク調査)」を開始した。2006年度の開始年度については、3地域(尼崎市、大阪府泉南地域等、鳥栖市)であった。その翌年の2007年度に開始した3地域(横浜市鶴見区、羽島市、奈良県)は、自治体の同調査への参加要望に基づいて追加選定されたが、「自治体の参加要望」の基礎には、当該地域の住民・被害者団体からの当該自治体への要求が背景にある。その後、2009年度からは北九州市門司区が参加したが、これは環境省からの打診によって新たに参加したものある。

リスク調査は平成22年(2010年)度からは5ヵ年の第2期調査として取り組まれているが、この第2期リスク調査は、対象人員をそれまでの2倍にする計画のところ、達成対象人員は現状では半分に止まっている。


◆リスク調査のメリット

阪神・淡路大震災においては、阪神間の地域全体が倒壊した建物から飛散したアスベストに汚染されたといえる。県内では既に5名の労働者が中皮腫を発症していることからも、被災地域の住民への健康対策が求められている。

リスク調査は、石綿の健康影響を調べるという目的が立てられている。ただ、実質的には、かつて石綿の環境への飛散があったとみられる地域の住民等の健康管理対策の一環として、無料健康診断の実施というニーズに応えるものとなっている。阪神・淡路大震災におけるアスベスト飛散による健康影響に対応するため、元・現地域住民の検診ニーズに応え、同時に、実態調査をするということを目的とするならば、早急にリスク調査に参加することが現実的な選択肢だといえる。

なぜならば、検診に要する費用については国負担であり、原則的に初回にCT画像検査を実施することから「胸膜プラーク」の見落としが少なく、複数の専門家による読影が行われることから一定水準の診断精度が確保されているからである。


◆今年からの参加に向けて

123日、当センターと尼崎センター、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会の尼崎支部とひょうご支部の4団体の連名で、申し入れ行動を行った。まず午前10時に芦屋市を訪れ、山口美佐恵市議と前田辰一市議にも同席していただき、申し入れを行った。芦屋市は建築指導課の課長と保健センターの課長が対応。続いて午後1時からは、小林るみ子神戸市議の協力を得て神戸市への申し入れを行った。神戸市は、環境保全指導課と健康づくり支援課が対応し、「何もない人が何度もレントゲンを受ける可能性もあり、被ばくの点も含めて何がメリットか調査検討したい」との意見が述べられた。最後に、西宮保健所において西宮市への申し入れを行った。保健所の健康増進課の3名が対応し、「他市の動向を注視しながら部内で検討する」との対応であったが、住民の不安解消にもつながる施策であり関心を寄せていた。4団体では、今年からリスク調査に参加できるよう、3月中に各自治体が参加の意思を決定するよう更に要請を強めることにしている。