大阪府泉南地域にあったアスベスト関連工場の元労働者や遺族89人が、
国が対策を怠ったため肺がんなどになったとして
損害賠償を求めた大阪・泉南アスベスト国家賠償請求訴訟の上告審は、
10月9日、最高裁第1小法廷(白木勇裁判長)で判決が言い渡されました。
判決内容は、国が1958年〜71年まで発生粉じんを除去する局所排気装置の設置を義務付けなかったことに対し、
国の責任を認めました。
しかし、71年以降の粉じん濃度規制の強化や
労働者に防じんマスクを使用させることを事業者に義務付けなかったことについては、
「いちじるしく合理性を欠くとまではいえない」と違法性を認めませんでした。裁判官5人全員一致の意見。
この判決により、2審の2陣54人の勝訴が確定。
2審敗訴の1陣28人については、賠償額を確定させるために審理を差し戻しました。
71年以降に作業に従事した7人については、国の責任はないとして敗訴が確定。
7人のうち濃度規制強化とマスク着用義務化の遅れを理由に賠償が認められていた2陣の1人は逆転敗訴です。
泉南の石綿工場はもともと零細のうえ、すでに廃業しており、
企業責任の追及は困難であるため、国家賠償請求として取り組みが進められてきました。
同訴訟は2006年5月に元労働者や周辺住民らが提訴(第1陣)しました。
第1陣、第2陣ともに大阪地裁では勝訴したものの第1陣の高裁判決では、
工業技術の発達や産業社会の発展を優先し、原告逆転敗訴の内容となりました。
一方、第2陣の高裁判決は、国の責任を認めるとともに高等裁判所として
初めてアスベスト被害に対する国の責任を認め、国の責任の有無について判断が分かれ、双方が上告していました。
「経済や産業の発展が労働者の生命より優先されるのか」が問われた判決でしたが、
最高裁は国民の生命と健康がこそが至高の価値であると認めました。
最高裁がアスベスト被害の国の責任について判断するのは初めてであり、
今後のアスベスト被害訴訟へ大きな影響を与えるものと言えます。
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