有機溶剤とは、他の物質を溶かす性質を有する有機化合物をいい、
塗装・洗浄・印刷等の幅広い作業で使用されています。
その反面、取り扱いを誤ると作業に従事する労働者に障害を与えることがあり、
法・規則により厳しい規制が行われています。
今回、第1種有機溶剤(2014年11月1日より特定化学物質に格上げ)のトリクロロエチレンを使用し、
給油器の部品である銅パイプを洗浄する作業に従事した労働者が発症した
「腸管嚢腫様気腫症」という非常に珍しい病気を、
加古川労働基準監督署が10月14日付けで労災と認定しました。
トリクロロエチレンによる腸管嚢腫様気腫症の発症は、
以前から学会で多く報告されていますが、労災認定は今回の案件が全国で2例目です。
被災者のAさんは、2010年2月1日より、
明石市二見町にある会社で働き始めました。
担当したのは、給油器の部品である銅パイプを有機溶剤で洗浄する作業です。
Aさんは、2013年秋頃から便秘気味になり、ガスがよく出て、
トイレが近くなり、粘液も出るようになりました。
その為、はりま病院(加古郡播磨町)を受診しましたが原因が分からず、
さらにその後も症状が継続するため大腸内視鏡検査を実施したところ、
腸管嚢腫様気腫症(PCI)と診断されました。
そのため、6月3日から休職に入り、一旦職場に復帰したのですが、
体調が優れず6月末で会社を自主退職したのでした。
腸管嚢腫様気腫症(PCI)は、腸管壁に多数の嚢腫様気腫が発生する大変珍しい病気です。
トリクロロエチレンばく露とPCIの関連が最初に指摘されたのは1983年のこと。
その後、学会雑誌に研究結果が報告され、
産業医科大学の熊谷教授によるとその件数は47件にものぼり、
1980年代以降はトリクロロエチレン曝露とPCIの間には因果関係があると考えられるようになっています。
体調不良は有機溶剤の使用が原因と考えたAさんは、
7月末に個人加盟の労働組合・あかし地域ユニオンに相談。
ユニオンと当センターによるサポートを開始し、
合わせて産業医科大学の熊谷教授にもご協力をいただきました。
そして今回、10月14日付けで、加古川労働基準監督署より、
「あなたから今次請求のあった疾病名 腸管嚢腫様気腫症に係る労災請求に関しては、
業務と疾病との間に相当因果関係があると認められることから、業務上と判断しました。」
との通知が届いたのでした。
厚労省の資料によると、トリクロロエチレンによる腸管嚢腫様気腫症の労災認定件数は
昭和53年〜平成23年までの間に1件(平成20年度認定)だけです。
有機溶剤の使用による胆管がんが社会問題となったにもかかわらず、
ずさんな取り扱いが行われている労働現場があったのです。
労災認定が2例目という点でも、
Aさんと同じ作業に従事した労働者(既に退職した方も含む)、
そして全国で有機溶剤・特定化学物質を取り扱う作業に従事する労働者に注意を呼びかけます。
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