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労災事故・障害補償・審査請求
中皮腫 治療中の休業補償、不支給処分の取消し 長崎
2020/10/10
◆休業補償給付の長崎労基署の判断
悪性胸膜中皮腫を発症し療養中のMさんが、本年3月に、2019年12月1日から2020年2月29日まで91日分の休業補償給付の長崎署に請求したところ、4月17日付けで「91日の休業補償の請求を受けましたが、通院日以外は療養のため労働できない状態と認められず、日数を通院日数の1日へ減じて決定しております」との通知が届いた。
4月下旬に、患者さんのご家族から、「働きたくても動けないので、自宅で養生しています。今後どうすれば、以前のように休業補償を受けることができますか?」と相談があった。そこで、審査請求の準備を行いながら、今回の判断を行った理由を知るため復命書の開示請求を行った。開示された資料は「聴取記録書・復命書」(令和2年2月10日決済)が1枚と、「傷病の状態等に関する届の診断書」(主治医が作成した令和2年1月28日付け文章)2枚、そして休業補償請求用紙3枚の合計6枚であった。資料は実質的には3枚であり、この調査内容をみても、調査が尽くされたとは到底いえない。
長崎署が通院日のみと判断したのは、主治医が1月に提出した診断書に、「日常生活の状況として揚げられた9項目について全て『可』とされ、今後における治療の適否及びその概要については『否』と判断している」と記載されていたことを根拠としている。また、地方労災医員の意見を聴取し、医員も「経過観察中の休業の必要性について疑問を呈している」として、医療機関へ受診した日以外は労働が可能な状態であったと判断したのであった。
◆治療の経過について
Mさんは、2018年に山口県の病院において、左肺の胸膜切除・剥離術(PD)を受けた。その後、自宅により近い専門医療機関としてN大学病院を紹介され、2018年12月27日以降、受診していた。
Mさんは、悪性胸膜中皮腫という疾患の特殊性から1ヵ月間隔の受診を希望したのであったが、2020年1月16日に受診した際に、自宅により近い医療機関への転院を薦められたのだった。大学病院での継続した治療を希望したのだが、担当医の強い薦めがあったため、自宅から近いI病院に転院することとなった。
ところが、Mさんが、3月12日にN大学病院を受診した際に胸水の貯留が認められ、3月30日にI病院を受診した際にも右肺の異常を指摘され、5月14日に再びN大学病院を受診したところ、担当医から「悪性胸膜中皮腫が右肺に再発している」ことを告げられたのであった。
◆労災保険審査官の判断
長崎署の処分に納得がいかず、長崎労働者災害補償保険審査官に審査請求を行い(6月17日受理)、審査官による調査が開始された。そして、9月28日付けで、長崎署がなした処分を取り消す決定が出された。
審査官の判断は明快で、以下のような当たり前の内容であった。
ア.N大学病院の主治医は、療養のため労働することができないと認められる期間として、令和元年12月1日から令和2年2月29日まで91日間のうち91日と証明している。
イ.N大学病院の主治医作成の令和2年1月28日付け診断書では、呼吸困難第Ⅲ度(平地でも健康者なみに歩くことができない)と診断され、労作時の呼吸困難の症状が認められる。
ウ.主治医が提出した診断書は傷病補償年金の支給の要否(傷病等級第1級から第3級までのいずれか該当するか否か)を決定するためのもので、9項目の全てが「可」であることをもって、直ちに労務に服することができることを意味するものではない。
エ.令和2年1月16日にCTにて胸水貯留が指摘され、令和2年3月12日には胸痛と訴え、歩行時の呼吸困難も増強し、XPにて胸水が認められる。
オ.N大学病院の主治医は、就労の制限は認められ、令和2年5月の再発は、現実的にはもっと早い時期に再発していたと考えられると意見を述べている。
カ.以上を総合的に勘案すると、請求のあった期間の全部について、業務上の疾病により療養のため労働することができなかったと判断する。通院日のみ支給するとした処分は妥当ではなく、取り消されるべきである。
◆休業補償の通院日のみ判断が続く
中皮腫は、根治療法がなく、また進行が速いため、予後は大変不良である。私たちは、中皮腫の患者さんとご家族を支援しているが、患者さんの共通の思いは補償も必要だが欲しいのは治癒の診断である。
ところが、今回のMさんの事例だけでなく、今年2月3日付けで久留米労働基準監督署が中皮腫で治療中の方の労災申請を業務上と判断した案件も、休業補償については治療の途中から受診日のみと決定した(発症日2017年11月9日、2019年9月以降は受診日のみの判断)。この案件についても、現在、福岡労働者災害補償保険審査官に不服申立てを行っている。今年に入り、九州において、労働基準監督署が同じ様な判断を2件続けて行った事が大変気にかかる。
10
月9日、本件の処分取消しについて、長崎県庁にて記者会見を行った。Mさんは、「医師から余命2年と宣告されたが、手術を行い2年が過ぎた。一日一日が奇跡だと思って生きているのに、監督署のこのような補償の打ち切りは許せない。中皮腫の患者がどういう気持ちで生きているのか、監督署はもっと考えるべき。アスベストの病気をもっと勉強すべきだ」と訴えていた。
中皮腫という病気に対して、労働基準監督署の認識に変化があるのか、医師の認識の変化なのか気にかかる。今回は、審査官の適切な判断により不支給処分が取り消されたが、全国の労働基準監督署において業務上外の判断に当たってはより丁寧で慎重な調査を行うよう求める。
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悪性胸膜中皮腫を発症し療養中のMさんが、本年3月に、2019年12月1日から2020年2月29日まで91日分の休業補償給付の長崎署に請求したところ、4月17日付けで「91日の休業補償の請求を受けましたが、通院日以外は療養のため労働できない状態と認められず、日数を通院日数の1日へ減じて決定しております」との通知が届いた。
4月下旬に、患者さんのご家族から、「働きたくても動けないので、自宅で養生しています。今後どうすれば、以前のように休業補償を受けることができますか?」と相談があった。そこで、審査請求の準備を行いながら、今回の判断を行った理由を知るため復命書の開示請求を行った。開示された資料は「聴取記録書・復命書」(令和2年2月10日決済)が1枚と、「傷病の状態等に関する届の診断書」(主治医が作成した令和2年1月28日付け文章)2枚、そして休業補償請求用紙3枚の合計6枚であった。資料は実質的には3枚であり、この調査内容をみても、調査が尽くされたとは到底いえない。
長崎署が通院日のみと判断したのは、主治医が1月に提出した診断書に、「日常生活の状況として揚げられた9項目について全て『可』とされ、今後における治療の適否及びその概要については『否』と判断している」と記載されていたことを根拠としている。また、地方労災医員の意見を聴取し、医員も「経過観察中の休業の必要性について疑問を呈している」として、医療機関へ受診した日以外は労働が可能な状態であったと判断したのであった。
◆治療の経過について
Mさんは、2018年に山口県の病院において、左肺の胸膜切除・剥離術(PD)を受けた。その後、自宅により近い専門医療機関としてN大学病院を紹介され、2018年12月27日以降、受診していた。
Mさんは、悪性胸膜中皮腫という疾患の特殊性から1ヵ月間隔の受診を希望したのであったが、2020年1月16日に受診した際に、自宅により近い医療機関への転院を薦められたのだった。大学病院での継続した治療を希望したのだが、担当医の強い薦めがあったため、自宅から近いI病院に転院することとなった。
ところが、Mさんが、3月12日にN大学病院を受診した際に胸水の貯留が認められ、3月30日にI病院を受診した際にも右肺の異常を指摘され、5月14日に再びN大学病院を受診したところ、担当医から「悪性胸膜中皮腫が右肺に再発している」ことを告げられたのであった。
◆労災保険審査官の判断
長崎署の処分に納得がいかず、長崎労働者災害補償保険審査官に審査請求を行い(6月17日受理)、審査官による調査が開始された。そして、9月28日付けで、長崎署がなした処分を取り消す決定が出された。
審査官の判断は明快で、以下のような当たり前の内容であった。
ア.N大学病院の主治医は、療養のため労働することができないと認められる期間として、令和元年12月1日から令和2年2月29日まで91日間のうち91日と証明している。
イ.N大学病院の主治医作成の令和2年1月28日付け診断書では、呼吸困難第Ⅲ度(平地でも健康者なみに歩くことができない)と診断され、労作時の呼吸困難の症状が認められる。
ウ.主治医が提出した診断書は傷病補償年金の支給の要否(傷病等級第1級から第3級までのいずれか該当するか否か)を決定するためのもので、9項目の全てが「可」であることをもって、直ちに労務に服することができることを意味するものではない。
エ.令和2年1月16日にCTにて胸水貯留が指摘され、令和2年3月12日には胸痛と訴え、歩行時の呼吸困難も増強し、XPにて胸水が認められる。
オ.N大学病院の主治医は、就労の制限は認められ、令和2年5月の再発は、現実的にはもっと早い時期に再発していたと考えられると意見を述べている。
カ.以上を総合的に勘案すると、請求のあった期間の全部について、業務上の疾病により療養のため労働することができなかったと判断する。通院日のみ支給するとした処分は妥当ではなく、取り消されるべきである。
◆休業補償の通院日のみ判断が続く
中皮腫は、根治療法がなく、また進行が速いため、予後は大変不良である。私たちは、中皮腫の患者さんとご家族を支援しているが、患者さんの共通の思いは補償も必要だが欲しいのは治癒の診断である。
ところが、今回のMさんの事例だけでなく、今年2月3日付けで久留米労働基準監督署が中皮腫で治療中の方の労災申請を業務上と判断した案件も、休業補償については治療の途中から受診日のみと決定した(発症日2017年11月9日、2019年9月以降は受診日のみの判断)。この案件についても、現在、福岡労働者災害補償保険審査官に不服申立てを行っている。今年に入り、九州において、労働基準監督署が同じ様な判断を2件続けて行った事が大変気にかかる。
10月9日、本件の処分取消しについて、長崎県庁にて記者会見を行った。Mさんは、「医師から余命2年と宣告されたが、手術を行い2年が過ぎた。一日一日が奇跡だと思って生きているのに、監督署のこのような補償の打ち切りは許せない。中皮腫の患者がどういう気持ちで生きているのか、監督署はもっと考えるべき。アスベストの病気をもっと勉強すべきだ」と訴えていた。
中皮腫という病気に対して、労働基準監督署の認識に変化があるのか、医師の認識の変化なのか気にかかる。今回は、審査官の適切な判断により不支給処分が取り消されたが、全国の労働基準監督署において業務上外の判断に当たってはより丁寧で慎重な調査を行うよう求める。