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公務災害
保育士の精神疾患 公務上災害と認定
2015/06/20
◆災害発生の状況と経過
2007
(平成
19
)年
6
月
29
日、保育士の
A
さんが乳児用トイレのオムツ交換台にてオムツを交換中、子供から目を離した隙に、子供が交換台から落下し負傷する事故が発生しました。
この事故を契機に、保護者から人格や人間性を否定されるような嫌がらせを受け、市当局より落下事故の責任を厳しく問われるという出来事が次々と継続して起きました。事故後
A
さんは、所長から保育業務を外され掃除等の雑用を指示されたほか、事故にあった子供の保護者への謝罪を本人一人での対応とされました。
そのため、受診した心療内科で「心的外傷」と診断され療養することになりました。約
2
ヵ月後に職場に復帰したものの、相変わらず、保護者から罵倒・背迫を受け、保護者から被害届が出されたため警察・検察での取り調べを受け、さらには職場で上司から叱責等のパワハラ行為が続き、体調を崩し「不安抑うつ状態」と診断され再び休職することとなりました。
保護者が届け出た被害届は不起訴処分となりましたが、市は
A
さんに対して戒告処分を発令し、マスコミに発表したのでした。戒告処分は、過去の事故等に対する処分発令に比べ、あまりにも重い処分であったため、家族や友人の協力により公平委員会に対する不服申し立てを行うことになりました。その結果、公平委員会より同処分は取り消されたのですが、市は再び訓告処分を発令したのでした。
◆処分撤回から公務災害申請へ
休職していた
A
さんに戒告処分が発令されたのは、
2008
(平成
20
)年
8
月でした。処分の理由書には、「安全ベルトの使用ができないことを知っていたにもかかわらず、乳児から目を離し…事故を起こした。」「事故の発生状況についても、当初誤った報告をしたため…市民に行政に対する不信感を抱かせる原因となった。」と書かれていました。
しかし、この処分理由には事実誤認があり、公平委員会へ処分の取り消しを求め不服申立を行ったのでした。
2009
(平成
20
)年
5
月、公平委員会は「オムツ交換台のどこにも使用禁止の張り紙は貼られていなかった」とし、設備上の不備を知りながら放置した当局の嘘を明快に認定し、「戒告処分取り消し」の裁決を出しました。
ところが、翌年
2010
(平成
21)
年
2
月、公平委員会で取り消された戒告処分の代わりに、「訓告」処分が発令されました。しかも処分理由は、前回の戒告処分と同様のものでした。休職しているにも関わらず、次々と精神的に負荷のかかる出来事が次々と引き起こされたのでした。
そのため、
2012
(平成
24
)年
3
月、地方公務員災害補償基金兵庫県支部に、公務災害認定請求を行ったのでした。
◆5年間に及ぶ精神的負荷
誤って園児を落下させてしまった事故を契機に、
A
さんは、保護者から「警察に言う」「やろうと思えば保育士の免許を取り上げることができる」「子供の前で手錠をかけてもらう」といった骨迫をうけました。そして、保護者が警察への刑事告訴を行ったため、生まれて初めて警察及び検察での取り調べを受けました。
また、所長からは、「公務員だから(事故を起こしても)働けているのよ」と非難され、歩き方や姿勢などを細かく指摘され、ついには言葉で話しかけることなく、机をバンバンと叩いてにらみつけながら指示をされるようになりました。人事課から
A
さんにかかってきた電話を伝えるのに、言葉でなく机をバンバン叩いて知らされるなどの行為がとられたのでした。
そして、市から戒告処分を受け、市が誤ったマスコミ発表を行ったため、「うそつきの不良保育士」として社会的にレッテルを貼られたのでした。他にも、保護者との対応に関しても、姫路市からは「自分で考えろ」と言われるだけで、全て
A
さん一人で対応させられ、精神的な負担となりました。
◆基金支部の判断
基金支部は、本年
3
月
26
日付け通知書で、「一部公務災害」と認定しました。通知書には、「施設上の瑕疵があることを知りながら、本人に対して一人で保護者に対して複数回、数時間にわたり説明等の対応をさせ、当該指示以外に職場から本人に対する支援等があったことは確認できないことから…相当程度の精神的負荷があったと考えられる」との判断で、認定要件を満たすとしています。
ただ、認定された期間は
2007
年
6
月から翌年の
4
月までとされ、それ以降の出来事については「休業中の出来事であり、公務に従事したことによる精神的負荷ということはできない」と判断したのでした。
◆新基準での判断ではあったが…
厚労省が
2011
(平成
23)
年
12
月に「心理的負荷による精神障害の認定基準」を新たに定めたことを受け、公務災害においても
2012
(平成
24)
年
4
月より「精神疾患等の公務災害の認定について」に基づく運用が開始されました。
今回の請求においては、事務連絡で積極的に活用するようにとされている「業務負荷の分析表」に則り、「保護者から人格や人間性を否定するような嫌がらせを受けた」「上司等からの業務指導等の範囲を逸脱し、人格や人間性を否定するような嫌がらせ、いじめを受けた」「業務に支障を生じさせる失敗をした。失敗の責任を厳しく問われた」との項目に関する詳細な申し立てをおこなったのでした。
しかし、基金支部は「一部公務災害」と判断したものの、
5
年間に及び精神的負荷は一連のものであるとする主張は認めませんでした。しかも、「休業中の出来事は、公務に従事したことによる精神的負荷ということはできない」との判断は、あまりにも形式的過ぎるといえますし、休業中の出来事に関する評価を避けたことは大変残念です。
とはいえ、今回の公務災害認定の意義は、
A
さんが発症した疾病の発端は業務によりものであると認めたことです。
A
さんの一日も早い回復と職場への復帰を願う次第です。
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2007(平成19)年6月29日、保育士のAさんが乳児用トイレのオムツ交換台にてオムツを交換中、子供から目を離した隙に、子供が交換台から落下し負傷する事故が発生しました。
この事故を契機に、保護者から人格や人間性を否定されるような嫌がらせを受け、市当局より落下事故の責任を厳しく問われるという出来事が次々と継続して起きました。事故後Aさんは、所長から保育業務を外され掃除等の雑用を指示されたほか、事故にあった子供の保護者への謝罪を本人一人での対応とされました。
そのため、受診した心療内科で「心的外傷」と診断され療養することになりました。約2ヵ月後に職場に復帰したものの、相変わらず、保護者から罵倒・背迫を受け、保護者から被害届が出されたため警察・検察での取り調べを受け、さらには職場で上司から叱責等のパワハラ行為が続き、体調を崩し「不安抑うつ状態」と診断され再び休職することとなりました。
保護者が届け出た被害届は不起訴処分となりましたが、市はAさんに対して戒告処分を発令し、マスコミに発表したのでした。戒告処分は、過去の事故等に対する処分発令に比べ、あまりにも重い処分であったため、家族や友人の協力により公平委員会に対する不服申し立てを行うことになりました。その結果、公平委員会より同処分は取り消されたのですが、市は再び訓告処分を発令したのでした。
◆処分撤回から公務災害申請へ
休職していたAさんに戒告処分が発令されたのは、2008(平成20)年8月でした。処分の理由書には、「安全ベルトの使用ができないことを知っていたにもかかわらず、乳児から目を離し…事故を起こした。」「事故の発生状況についても、当初誤った報告をしたため…市民に行政に対する不信感を抱かせる原因となった。」と書かれていました。
しかし、この処分理由には事実誤認があり、公平委員会へ処分の取り消しを求め不服申立を行ったのでした。2009(平成20)年5月、公平委員会は「オムツ交換台のどこにも使用禁止の張り紙は貼られていなかった」とし、設備上の不備を知りながら放置した当局の嘘を明快に認定し、「戒告処分取り消し」の裁決を出しました。
ところが、翌年2010(平成21)年2月、公平委員会で取り消された戒告処分の代わりに、「訓告」処分が発令されました。しかも処分理由は、前回の戒告処分と同様のものでした。休職しているにも関わらず、次々と精神的に負荷のかかる出来事が次々と引き起こされたのでした。
そのため、2012(平成24)年3月、地方公務員災害補償基金兵庫県支部に、公務災害認定請求を行ったのでした。
◆5年間に及ぶ精神的負荷
誤って園児を落下させてしまった事故を契機に、Aさんは、保護者から「警察に言う」「やろうと思えば保育士の免許を取り上げることができる」「子供の前で手錠をかけてもらう」といった骨迫をうけました。そして、保護者が警察への刑事告訴を行ったため、生まれて初めて警察及び検察での取り調べを受けました。
また、所長からは、「公務員だから(事故を起こしても)働けているのよ」と非難され、歩き方や姿勢などを細かく指摘され、ついには言葉で話しかけることなく、机をバンバンと叩いてにらみつけながら指示をされるようになりました。人事課からAさんにかかってきた電話を伝えるのに、言葉でなく机をバンバン叩いて知らされるなどの行為がとられたのでした。
そして、市から戒告処分を受け、市が誤ったマスコミ発表を行ったため、「うそつきの不良保育士」として社会的にレッテルを貼られたのでした。他にも、保護者との対応に関しても、姫路市からは「自分で考えろ」と言われるだけで、全てAさん一人で対応させられ、精神的な負担となりました。
◆基金支部の判断
基金支部は、本年3月26日付け通知書で、「一部公務災害」と認定しました。通知書には、「施設上の瑕疵があることを知りながら、本人に対して一人で保護者に対して複数回、数時間にわたり説明等の対応をさせ、当該指示以外に職場から本人に対する支援等があったことは確認できないことから…相当程度の精神的負荷があったと考えられる」との判断で、認定要件を満たすとしています。
ただ、認定された期間は2007年6月から翌年の4月までとされ、それ以降の出来事については「休業中の出来事であり、公務に従事したことによる精神的負荷ということはできない」と判断したのでした。
◆新基準での判断ではあったが…
厚労省が2011(平成23)年12月に「心理的負荷による精神障害の認定基準」を新たに定めたことを受け、公務災害においても2012(平成24)年4月より「精神疾患等の公務災害の認定について」に基づく運用が開始されました。
今回の請求においては、事務連絡で積極的に活用するようにとされている「業務負荷の分析表」に則り、「保護者から人格や人間性を否定するような嫌がらせを受けた」「上司等からの業務指導等の範囲を逸脱し、人格や人間性を否定するような嫌がらせ、いじめを受けた」「業務に支障を生じさせる失敗をした。失敗の責任を厳しく問われた」との項目に関する詳細な申し立てをおこなったのでした。
しかし、基金支部は「一部公務災害」と判断したものの、5年間に及び精神的負荷は一連のものであるとする主張は認めませんでした。しかも、「休業中の出来事は、公務に従事したことによる精神的負荷ということはできない」との判断は、あまりにも形式的過ぎるといえますし、休業中の出来事に関する評価を避けたことは大変残念です。
とはいえ、今回の公務災害認定の意義は、Aさんが発症した疾病の発端は業務によりものであると認めたことです。Aさんの一日も早い回復と職場への復帰を願う次第です。