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石綿小体数が1,845本で、認定基準の5,000本を下回るとの理由で労災が不支給となった案件の取消し訴訟で、国側が「胸膜プラークが有る」として一転労災と認定。石綿肺がんの新認定基準をめぐる初の訴訟であったが、国側が自庁取消しを行ったため、訴訟は終結しました。
◆事件の概要
岡山県井原市に住むAさんは、1968年3月から2007年8月まで、主に大工として建築作業に従事しました。木造建築では石綿含有建材の加工・裁断作業に、鉄骨建築では石綿が吹き付けて有るそばでの作業において石綿にばく露したのです。
2008年11月に近院での胸部画像撮影において異常陰影を指摘され、倉敷中央病院を受診したところ肺がんと診断されました。その後、左肺上葉切除術を受け、抗がん剤治療を続けていましたが、2014年1月21日に亡くなられました。
Aさんは、生前に療養補償給付と休業補償給付の請求を行いました。調査を行った笠岡署は2012年6月6日付で「労災の認定基準に至らなかったため」との理由で、労災と認めませんでした。労災申請が認められなかった理由は、肺内から検出されて石綿小体の数が1,845本で、5,000本に満たないということが大きな理由でした。
その後、おかやま労働安全衛生センターに相談があり、足田・西山が不服申立の代理人を務めることになりました。しかし、岡山労働者災害補償保険審査官は2013年2月12日付で請求を棄却し、労働保険審査会も同年12月11日付で請求を棄却したのでした。そのため、労災不支給処分の取り消しを求め、2014年6月10日に岡山地裁に提訴となりました。
◆新認定基準を巡り全国で初めて訴訟
今回の提訴は、石綿肺がんの認定基準における石綿小体の評価を争う裁判でした。特に、2012年の新認定基準をめぐっては全国で初めての訴訟であり、労災不支給処分の取り消しを求めるなかで、認定基準(2012年基準)のあり方、石綿小体・石綿繊維の数と肺がん発症リスクが争点でした。そうした意味で、石綿小体の本数議論に終止符を打つための重要な裁判でもありました。
昨年6月10日に岡山地裁に提訴した裁判は、9月30日に第1回期日が開かれ、原告の口頭意見陳述が行われました。その際、原告は「主人は、肺がんになり、労災の申請をしたのに認められず『くやしい、情けない』と言い残して、先に旅立ちました。私は,主人の思いを引き継いでいくことが供養だと思い、提訴に踏み切ることに致しました。主人が、長年にわたってアスベストを扱う仕事をしてきたことは確かです。本数だけではなく、主人の仕事の内容や労働環境などを、きちんと評価して判断していただきたい」と涙ながらに訴えられました。
第2回目の期日が今年の2月3日に指定され、その前段として1月14日に進行協議が設定されていました。進行協議において、突然国側から「遺族補償請求の調査の過程で、CT画像に胸膜プラークが見つかった」の見解が示され、業務上としての処理を進めているとの表明がありました。
労災請求から再審査請求までの3回の調査において「胸膜プラークなし」との判断されたていたにもかかわらず、一転「プラーク有り」となったのです。寝耳に水とはまさにこのことでした。
◆もっと早く認定を
2月9日、福山労基署の労災課長が原告の自宅に決定通知を届けに来ました。これまで、最終ばく露職場は自営のA建設(労災保険に特別加入)だとして調査が行われ不支給決定も行われました。当センターが係った審査請求の段階から、A建設での石綿ばく露は近年のことであり微量であるとし、その前の労働者の時代の方が高濃度ばく露であると主張していました。
今回、国側の再調査の結果、A建設時よりも労働者期間の方が高濃度ばく露であったと判断され、特別加入時の岡山・笠岡署から労働者時代の広島・福山署に移送され、決定が行われたのでした。そのため、給付日額も特別加入の4,000円から約2.5倍となり決定されました。
ただ、原告の思いは、被災者の生前中の労災認定の通知でした。これまで「胸膜プラークなし」と判断しておきながら、訴訟になったら「胸膜プラーク有り」では到底納得ができません。プラークが有ったのなら、もっと早く業務上との判断を示すべきだったのです。
◆石綿小体の評価をめぐる争いは先送り
福山労基署の労災認定を受け、原告は訴訟を取り下げ、国側も取下げに合意し、訴訟は収束することとなりました。
今回の国側の取下げを受け、毎日新聞は「石綿肺がんの新認定基準をめぐる初の訴訟だが、取り下げられ、国側の『不戦敗』となった」と報じました。石綿小体数の評価をめぐる争点論争に入る前に自庁取消しとなったわけで、「不戦敗」との表現は的を得ているのではないでしょうか。
石綿肺がんは中皮腫の2倍といわれていますが、中皮腫の労災認定件数よりも、肺がんの認定が少ない状況が続いています。そして、認定基準が変更となって以降も、肺がんの認定が進んでいないことが数字からも解ります。
石綿肺がんの新認定基準により、プラーク要件等で以前の基準に比べて補償救済につながる改訂も行われましたが、石綿小体数の要件では以前より厳しくなっています。石綿肺がんの労災認定が進まない要因の一つに石綿小体問題があると考えます。
結果的に、石綿小体の本数と肺がん発症リスクをめぐる争いは先送りとなりました。先送りされたことで、石綿肺がんの救済が今後どうなるのか気になるところです。