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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

倉庫内での運搬作業でアスベストにばく露 
石綿肺がん労災認定 山口署

2014/12/20
◆概要

日本通運の社員で、長年に渡り倉庫内での荷物の運搬作業に従事された方が、肺がんを発症された。病院の医師から「アスベストが原因」と言われたが、本人は全くアスベストとの接触が思い当たらない。センターとして労災申請のサポートをおこなっていたが、この度、山口署は業務上との決定をおこなった。


◆どこでアスベストにばく露したのか?

Aさんは、昭和34年から平成9年までの約40年間、日本通運に勤務し、防府の三田尻港営業所に約2年、その後は港近くにあったカネボウ防府工場営業所で荷物の運搬作業に従事されました。昨年秋の検診において肺がんが見つかり、山口宇部医療センターを紹介され治療を受けておられる際に、医師から「アスベストが原因」との説明がありました。ところがAさんは、アスベストと接触した記憶が一切なく、アスベスト患者と家族を通じて、当センターへ相談が入ってきました。今年の2月のことでした。


◆すでに労災認定事例が有った

さっそくAさんに聞き取りを行ったのですが、三田尻港営業所では岸壁に着く船から荷物を下す作業と、船に積み込む作業でした。船は鹿児島便だったので、下す荷物はイモ、積み込む荷物は杉の木だったそうです。次のカネボウ営業所での作業は、船や国鉄で運ばれてくる原料(パルプ・スフ・アクリル)を工場内に運搬する作業でした。カネボウ防府工場は毛布やカーテンなどを製造する工場で、その原料を日本通運の社員が運搬を担当していたのでした。船・電車・運搬した荷物…と作業内容について色々と聞き取りを行っても、アスベストとの接触が考えられませんでした。居住歴を聞いても、石綿製品を製造する会社は全く見当たりません。

頭を抱えていたところ、「同じ職場で働いていた人が数年前にアスベストが原因の病気で亡くなっている」とのお話がありました。そこで、「石綿ばく露作業による労災認定事業場一覧表」を検索すると、日本通運防府支店で中皮腫1名の認定が確認されました。石綿ばく露作業状況については、「吹付け石綿のある部屋・建物・倉庫での作業」と記されていました。


◆工場内は埃の多い作業環境だった

Aさんは、倉庫内での荷物の運搬作業の際はとても埃が多い作業環境だったと記憶されていましたが、石綿の吹付けがあったかどうかの記憶は有りませんでした。また、中皮腫で亡くなられた元同僚に関しても、名前は知っているがそれ以上の情報については知っていませんでした。

しかし、元同僚のBさん近くに住んで居られることが解り、お話しを聞くことにしました。Bさんは昭和47年から平成14年まで日本通運防府支店に勤務し、Aさんと同じ作業を行っていました。Bさんのお話によると、カネボウの工場は第1から第3工場まで大きな建屋が3つありました。第1と第3工場は毛布などの製品を製造していましたが、真ん中に位置する第2工場内は、製造設備は撤去され、工場の半分は倉庫として使用されていました。船や引込み線で運ばれてきた原料のパルプなどを、日通の従業員と下請け会社の従業員とでトラックに積み込み、第2工場に運び込む作業を行っていました。また、第2工場に保管しているパルプなどの原料を、第1と第3工場に運び込む作業も行っていたのでした。


◆保温材を巻いた配管が縦横無尽に

Bさんは工場内の様子もハッキリと覚えておられました。カネボウの工場には大きなボイラーがあり、蒸気を送る配管が工場内を縦横無尽に走っており、その配管には保温材が巻かれていたそうです。配管は、日通の従業員が作業を行っていた第2工場内の天井や壁側にも通っていたそうです。荷物を第2工場に運び込む作業の歳や、荷物を積み上げる作業の際、そして荷物を運び出す作業において、天井や壁や配管に触れることもあったのでした。

また、昭和60年頃からは、フォークリフトの使用台数が増えました。フォークリフトが工場内を走り回り、アクセルを踏み込むたびに排気のために埃が勢いよく舞い上がり、工場内は誇りっぽい環境だったと話してくれたのでした。

また、中皮腫を発症された同僚のCさんについても、平成12年頃まで防府工場において一緒に働き、同じ作業を行っていたことを証言してくれました。


◆ばく露記憶が不明の相談が増

主治医からは、「胸部画像で、容易に指摘できる明瞭かつ広範囲の石灰化プラークを認め、一定以上の石綿ばく露が明らかである」との意見をいただきました。カネボウ防府工場そのものが閉鎖されているため、工場に吹付け石綿が有ったのか無かったのかをこれ以上調査することが出来ず、工場内を縦横無尽に張り巡らされていた配管には保温材が使用されていたことがBさんのお話しから確認できたため、5月末に山口労働基準監督署に労災申請を行ったのでした。日本通運からは労災申請に関して全く協力を得ることが出来ませんでしたが、監督署の精力的な調査により業務上と決定されました。調査官も、「フォークリフト等を利用し、原料を工場に運び込み、積み上げ、積み下ろし、運び出しする作業において、壁や配管等に接触等することにより、はがれ落ちた石綿が喚起の悪い工場内に飛散しばく露した。」と判断しました。

当初からAさんは「私の場合は無理でしょう」との言葉を繰り返しておられましたが、認定の通知を受け取られホッとした様子の顔がとても印象的でした。