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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺
タールとアスベストの複合ばく露で肺がん発症
2014/10/20
◆概要
コークス炉の周辺において、
1
年
6
ヵ月間だけ機械の保守・点検等の作業に従事した労働者が発症した肺がんについて、尼崎労働基準監督署は業務上との決定をおこなった。作業において「タール様物質」と「粉じん」と「石綿」のばく露が認められ、それぞれへの「ばく露が相まって肺がん発症リスク
2
倍に達していたものと考える」との判断がなされた。
◆鼻の穴まで真っ黒になる作業環境
A
化学は、大手製鋼会社の下請けで、製鉄用コークスとガスの製造と配給を行っていた。高校を卒業したBさんは、昭和
61
年
4
月から
A
化学で働き始め、設備部保全課に配属され、工場内の電気設備の保全・修理、機械の点検等を行う作業に従事することとなった。
B
さんが主に従事した業務は、コークス製造時に発生するガス・タール・軽油などを送る配管を保温するための石綿テープを巻き替える作業であった。また毎日、コークス炉の周りの機器を点検し、設備の保全作業を行うために、作業場所はコークス炉の上部や炉周りであった。
「
1
日の作業が終わると、マスクや作業着で保護されていない体の部分は真っ黒となり、鼻の中まで真っ黒になっていた」という作業環境であった。しかも、コークス炉上部での作業は特に高温であるため、健康に不安を覚え、昭和
62
年
9
月にA社を退職された。
◆主治医から労災申請を勧められる
その後、部品の検査業務の仕事や食品製造会社等に勤務し働いていたのであるが、
2011
(平成
23
)年の春先から微熱と咳が出現し、病院を受診したところ肺がんと診断されたのである。発症時は
44
歳であった。
そして、主治医から、「石綿による肺がんの可能性が高い」と言われ、労災申請を勧められたのである。実は、開胸生検の際に主治医が、肺内から数か所で胸膜プラークを認めていたのであった。
B
さんが労災申請したところ、「粉じん」「石綿」「タール様物質」それぞれからのばく露が認められるため、監督署は各認定基準に沿って調査を行ったのである。
◆粉じん・石綿・タールにばく露
B
さんが
A
社で従事した「炭素製品を製造する場所における作業」は、粉じん作業と認められる。じん肺作業に従事した労働者が発症した肺がんは、合併症として取り扱われる。ただし、じん肺管理区分が管理
2
以上の所見が認められることが必要である。監督暑が調査したところ、地方労災医員から「明らかな粒状影・網状影を認めず、じん肺所見はない」との意見があり、石綿確定診断委員会からも「第
1
型以上の石綿肺の所見を認めない」との意見があり、粉じんを飛散する場所における業務による疾病とは認められないと判断された。
次に、「石綿にさらされる業務による肺がん」としての調査が行われた。その場合、①石綿肺の所見、②胸膜プラークが認められる、③石綿小体又は石綿繊維が認められる、④びまん性胸膜肥厚を発症している者に併発したもの、のいずれかの医学的所見が必要である。
石綿肺に関しては、地方労災医員と石綿確定診断委員会の意見から、「石綿肺(じん肺)の所見がない」と判断された。胸膜プラークに関しては、主治医が「開胸生検の際に認めた」と意見したものの、石綿確定診断委員会は「胸部エックス線、胸部CT画像からは胸膜プラークは認められない。」と意見が分かれた。
そして、「タール様物質による疾病の認定基準について」の検討が行われた。「コークス又は発生炉ガスを製造する工程における業務による肺がん」については、①肺がんが原発性のものであること、②コークス炉上若しくはコークス炉側又はガス発生炉上において行う業務に
5
年以上従事した労働者に発症したものであること、が認定要件である。また、業務の従事歴が
5
年未満の労働者については、本省にりん伺(協議)となっている。
B
さんの場合、
1
年
6
ヵ月間従事したコークス製造に関係する業務は、コークス炉上部及びコークス炉側で配管施設の保温のために石綿テープを巻く作業であり、認定基準上の作業の要件を満たしている。ただ、従事歴が
1
年
6
ヵ月であり認定要件の
5
年に達していない。そのため、本省りん伺の扱いとなったのであった。
◆各々のばく露が相まって発症リスクが2倍
調査結果復命書によると、本省りん伺(協議)の結果は、以下のように書かれている。
「被災労働者は、石綿含有保温材を取り扱う作業に従事し、開胸生検時胸腔内に胸膜プラークが認められており、石綿への相応のばく露があったものと考える。
他方、被災労働者はコークス炉上及び炉側の作業時にタール様物質にもばく露していたことが認められる。このため、被災労働者は、石綿へのばく露とタール様物質へのばく露が相まって肺がん発症リスクが
2
倍に達していたものと考えるのが妥当である。」「したがって業務上の疾病に該当するものとして取り扱われたい。」
「なお、本件は石綿へのばく露とタール様物質へのばく露が相まって肺がんを発症したものであるが、ばく露の状況等からタール様物質が主たる要因となっていると考えられる。そのため、タール様物質へのばく露によって発症した肺がんとして事務処理を行うこと。」と。
監督署の調査結果からも、慎重に調査が行われたことが伺われる。
僅か
1
年
6
ヵ月の作業で肺がんを発症する作業環境だったのである。だが
A
社は、労働基準監督署が業務上との決定を行った後でも、「安全教育を行い、防じんマスクの着用を義務付けていた。」「石綿テープの巻く作業は年に数回であり、石綿にもタールにもばく露した可能性は低い」と豪語する。被害の実態から目を背ける会社に、安全を語る資格はない。
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コークス炉の周辺において、1年6ヵ月間だけ機械の保守・点検等の作業に従事した労働者が発症した肺がんについて、尼崎労働基準監督署は業務上との決定をおこなった。作業において「タール様物質」と「粉じん」と「石綿」のばく露が認められ、それぞれへの「ばく露が相まって肺がん発症リスク2倍に達していたものと考える」との判断がなされた。
◆鼻の穴まで真っ黒になる作業環境
A化学は、大手製鋼会社の下請けで、製鉄用コークスとガスの製造と配給を行っていた。高校を卒業したBさんは、昭和61年4月からA化学で働き始め、設備部保全課に配属され、工場内の電気設備の保全・修理、機械の点検等を行う作業に従事することとなった。
Bさんが主に従事した業務は、コークス製造時に発生するガス・タール・軽油などを送る配管を保温するための石綿テープを巻き替える作業であった。また毎日、コークス炉の周りの機器を点検し、設備の保全作業を行うために、作業場所はコークス炉の上部や炉周りであった。
「1日の作業が終わると、マスクや作業着で保護されていない体の部分は真っ黒となり、鼻の中まで真っ黒になっていた」という作業環境であった。しかも、コークス炉上部での作業は特に高温であるため、健康に不安を覚え、昭和62年9月にA社を退職された。
◆主治医から労災申請を勧められる
その後、部品の検査業務の仕事や食品製造会社等に勤務し働いていたのであるが、2011(平成23)年の春先から微熱と咳が出現し、病院を受診したところ肺がんと診断されたのである。発症時は44歳であった。
そして、主治医から、「石綿による肺がんの可能性が高い」と言われ、労災申請を勧められたのである。実は、開胸生検の際に主治医が、肺内から数か所で胸膜プラークを認めていたのであった。
Bさんが労災申請したところ、「粉じん」「石綿」「タール様物質」それぞれからのばく露が認められるため、監督署は各認定基準に沿って調査を行ったのである。
◆粉じん・石綿・タールにばく露
BさんがA社で従事した「炭素製品を製造する場所における作業」は、粉じん作業と認められる。じん肺作業に従事した労働者が発症した肺がんは、合併症として取り扱われる。ただし、じん肺管理区分が管理2以上の所見が認められることが必要である。監督暑が調査したところ、地方労災医員から「明らかな粒状影・網状影を認めず、じん肺所見はない」との意見があり、石綿確定診断委員会からも「第1型以上の石綿肺の所見を認めない」との意見があり、粉じんを飛散する場所における業務による疾病とは認められないと判断された。
次に、「石綿にさらされる業務による肺がん」としての調査が行われた。その場合、①石綿肺の所見、②胸膜プラークが認められる、③石綿小体又は石綿繊維が認められる、④びまん性胸膜肥厚を発症している者に併発したもの、のいずれかの医学的所見が必要である。
石綿肺に関しては、地方労災医員と石綿確定診断委員会の意見から、「石綿肺(じん肺)の所見がない」と判断された。胸膜プラークに関しては、主治医が「開胸生検の際に認めた」と意見したものの、石綿確定診断委員会は「胸部エックス線、胸部CT画像からは胸膜プラークは認められない。」と意見が分かれた。
そして、「タール様物質による疾病の認定基準について」の検討が行われた。「コークス又は発生炉ガスを製造する工程における業務による肺がん」については、①肺がんが原発性のものであること、②コークス炉上若しくはコークス炉側又はガス発生炉上において行う業務に5年以上従事した労働者に発症したものであること、が認定要件である。また、業務の従事歴が5年未満の労働者については、本省にりん伺(協議)となっている。
Bさんの場合、1年6ヵ月間従事したコークス製造に関係する業務は、コークス炉上部及びコークス炉側で配管施設の保温のために石綿テープを巻く作業であり、認定基準上の作業の要件を満たしている。ただ、従事歴が1年6ヵ月であり認定要件の5年に達していない。そのため、本省りん伺の扱いとなったのであった。
◆各々のばく露が相まって発症リスクが2倍
調査結果復命書によると、本省りん伺(協議)の結果は、以下のように書かれている。
「被災労働者は、石綿含有保温材を取り扱う作業に従事し、開胸生検時胸腔内に胸膜プラークが認められており、石綿への相応のばく露があったものと考える。他方、被災労働者はコークス炉上及び炉側の作業時にタール様物質にもばく露していたことが認められる。このため、被災労働者は、石綿へのばく露とタール様物質へのばく露が相まって肺がん発症リスクが2倍に達していたものと考えるのが妥当である。」「したがって業務上の疾病に該当するものとして取り扱われたい。」
「なお、本件は石綿へのばく露とタール様物質へのばく露が相まって肺がんを発症したものであるが、ばく露の状況等からタール様物質が主たる要因となっていると考えられる。そのため、タール様物質へのばく露によって発症した肺がんとして事務処理を行うこと。」と。
監督署の調査結果からも、慎重に調査が行われたことが伺われる。
僅か1年6ヵ月の作業で肺がんを発症する作業環境だったのである。だがA社は、労働基準監督署が業務上との決定を行った後でも、「安全教育を行い、防じんマスクの着用を義務付けていた。」「石綿テープの巻く作業は年に数回であり、石綿にもタールにもばく露した可能性は低い」と豪語する。被害の実態から目を背ける会社に、安全を語る資格はない。