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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

石綿ばく露期間が16ヵ月で肺がん発症 労災認定
長崎署

2014/07/20
◆概要

2012年(平成24年)3月、石綿による疾病の認定基準が改訂された。石綿肺がん認定要件のうち胸膜プラークに関する部分は、以前の基準より緩和されたといえる。今回、わずか16ヵ月間だけ石綿ばく露作業に従事した男性が発症した肺がんについて、長崎労働基準監督署は労災であるとの認定を行った。これほど短期間での石綿ばく露による肺がん発症事案を、労災と認めたケースは珍しい。


◆石綿ばく露作業は、わずか16ヵ月間

昨年10月、長崎労働基準監督署が不支給とした中皮腫案件が、審査請求で逆転認定となったことが毎日新聞西部本社版で大きく報じられました(機関誌128号に掲載)。その記事内に当センターの電話番号が掲載されており、新聞を読まれたAさん(長崎市在住)のご家族から相談が寄せられたのでした。Aさんは、2012年の年末に受診した病院で肺がんと診断され、長崎大学病院に転院し治療を開始されました。大学病院の主治医から、「肺に石綿が有る」と説明され、労災申請を勧められたのでした。しかし、Aさんの記憶では、石綿と接触したのは、19673月から681月(10ヵ月間)まで石綿製の配管用保温材を倉庫から出し入れする作業と、19687月から691月(6ヵ月間)まで造船所において配管に石綿を被覆する作業の合計16ヵ月間だけでした。その後の40年間は、トラックとタクシーの運転業務に従事され、整備作業に従事することもなく、石綿と接触する機会は有りませんでした。

そのため、「20134月に長崎署に申請を行ったが、調査が長引き、結果がなかなか出ない」という相談が寄せられたのでした。


◆2012年認定基準と胸膜プラーク

石綿による疾病の認定基準は、20123月に改訂されました。石綿肺がんの認定要件では、①石綿紡織品製造作業、石綿セメント製品製造作業、石綿吹付け作業に5年以上従事した労働者の場合は医学的所見が不要。②胸膜プラークが確認できる明らかな陰影が認められる場合、又は胸壁内側の14以上のものは石綿ばく露作業の従事期間が1年、に変更となったことが特徴でした。

これまで肺がんの場合、石綿ばく露作業への従事期間が10年とされており、10年未満については本省協議扱いとなっていました。2012年基準においては、高濃度ばく露が推認でき、広範囲に胸膜プラークが認められる場合は、従事期間要件が大きく緩和されたのでした。


◆広範囲の胸膜プラーク

Aさんの場合は、石綿ばく露作業への従事期間がわずか16ヵ月しかないため、エックス線写真において胸膜プラークと確認できる明らかな陰影又は胸壁内側の14以上のプラークの所見が必要でした。監督署が調査したところ、長崎大学病院の主治医は、「『明らかな陰影及び14以上のプラーク』には該当しないが胸膜プラーク有」との意見でした。一方、長崎労働局地方労災医員は、「左側の胸部CT画像上、胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで、その広がりが胸壁内側の3分の1程度であると認められる」と意見で、認定基準の「胸壁内側の4分の1以上のもの」に該当すると判断しました。そして、Aさんの画像を水嶋医師に読影を依頼したところ、「胸膜プラーク。胸壁の14周以上の拡がりを有する。」との意見をいただきました。

ところが長崎署は、主治医と労災医員の意見に相違があるからとの理由で、石綿確定診断委員会に判断を委ねたため、調査が長引くことになったのです。結局、ご家族の元に決定通知書が届いたのは、3月の初めでした。認定基準の改訂が良い結果に結びついた事例ですが、高濃度ばく露の場合は医学的所見が不要であることや、広範囲の胸膜プラーク所見が有る場合はばく露作業が1年で認定されることの周知はまだまだ行われておらず、埋もれている石綿肺がん患者が多いことは十分推認できます。


◆進まぬ肺がんの補償救済

71日、厚生労働省は、平成25年度の石綿による疾病の請求・決定状況を発表しました。請求件数は全国で1,113件となっており支給決定件数は1,008件でした。疾病別の支給決定件数は、中皮腫が528件、肺がんが383件、びまん性胸膜肥厚が53件、良性石綿胸水が44件、石綿肺が77件(1,008件とは別カウント)です。

中皮腫であっても労災認定件数は約半数という状況で、「石綿肺がんは中皮腫の2倍」と言われているにも関わらず、中皮腫よりも少ないという傾向が続いています。肺がんの認定者数は、平成21年度480人、平成22年度424人、平成23年度400人、平成24年度402人となっており、今回の結果をみても減少傾向が続いています。埋もれている被害者の掘り起しと、認定基準改訂の十分な周知が必要です。そして何よりも、ばく露作業を重視した認定基準への改正が求められています。