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アスベストが原因で肺がんを発症したとして労災申請したが、国が労災と認めなかったため、労災不支給処分の取り消しを求め争っていた訴訟の判決が、5月12日(月)に神戸地裁で言い渡されました。裁判長は、「神戸西労働基準監督署が原告に対してなした支給しないとの処分を取り消す。」と読み上げ、肺がんによる死亡は労災であると判断したのです。
◆事件の概要
Eさんは、約36年(昭和42年から平成15年)にわたり型枠大工としてビル・マンション・大型店舗等の建築作業に従事し、2008年3月24日に肺がんで亡くなられました。
Eさんのお兄さん(Mさん)は、約44年(昭和38年から平成19年)に渡り同じ型枠大工として建築作業に従事し、2007年10月3日に肺がんで亡くなられました。二人は、長男が社長であるF組の従業員として働き、作業現場もほぼ同じでした。二人は同時期に肺がんを発症し同じ病院で肺がんの治療を受けたのですが、兄弟が同時期に肺がんを発症したことに疑問を抱いた主治医が、職歴から石綿との関連を疑い労災申請を薦めたのでした。そこで、2008年3月、EさんとMさんのご遺族は、神戸西労働基準監督署に労働災害の申請を行いました。
ところが、神戸西署は2009年8月31日に、Eさんの労災申請については不支給、Mの申請については認定という異なった決定を行ったのでした。そのため、Eさんのご遺族が、労災の不支給処分の取り消しを求め、2011年7月8日に神戸地裁に提訴し、争われてきたのでした。
◆肺がん認定基準と医学的所見
石綿による肺がんの認定基準(平成18年度認定基準)は、①第1型以上の石綿肺、②胸膜プラーク+石綿ばく露作業10年以上、③石綿小体又は石綿繊維+石綿ばく露作業10年以上、となっていました。厚生労働省の事務通達では、「作業内容、ばく露形態、石綿の種類…等を勘案し、総合的に判断する」としているのですが、実際には機械的な判断が行われ、石綿小体が5,000本/g以下の場合はほぼ不支給とされていました。
石綿ばく露により肺内に吸入された比較的繊維の長い石綿繊維は、鉄アレイのような形をした石綿小体を形成します。石綿小体の表面に鉄蛋白質が付着して雪だるまのように太った鉄アレイ状になるのです。この石綿小体は、核が青石綿(クロシドライト)や茶石綿(アモサイト)の場合は頻繁に見られますが、白石綿(クリソタイル)の場合は稀にしか確認されません。白石綿は、青・茶石綿に比べ、肺内でより細かくなって消失しやすいという性質が影響していると言われています。日本に輸入された石綿のうち圧倒的に使用量が多いのは白石綿で、建材として使用されてきた石綿の多くは白石綿なのです。
建築労働者であるEさんとMさんの場合、石綿小体はMが410本で弟のEさんが918本でした。そこで、神戸西署は石綿繊維の数を検討したのでした。お兄さんの石綿繊維(1μm)数はほぼ500万本認められることから労働災害と認定し、弟のEさんの石綿繊維が認定基準に満たないから労働災害と認めなかったのでした。神戸西署は、石綿繊維の本数のみをもって、Eさんの労災申請を不支給としたのでした。
◆労災不支給訴訟では連勝
この間、石綿肺がんの認定要件である石綿小体をめぐる訴訟に関しては、本機関誌において何度も掲載しましたが、原告勝訴の判決が続いています。H裁判(石綿小体741 本、2013年2月・大阪高裁)、KO裁判(石綿小体1,230本、2013年6月・東京高裁)、日航整備士(石綿小体469本、2014年1月・東京地裁)、大阪・建設大工(石綿小体998本、2014年3月・大阪地裁)の4件が確定しました。また、KI裁判(神戸地裁・石綿小体2,551本)については、結審直前に国側が労災と認める判断を行ったため、訴訟を取り下げることになりましたが、実質的には勝訴と同じ結果です。労災請求を行い不支給となった案件で、訴訟を行えば患者側が勝利する結果が5件続いていたのです。
今回の神戸地裁判決は、これまでの確定判決と同じく、「石綿小体数を基準に判断することに合理性はない」と指摘しました。そして、「ばく露した石綿は石綿小体を形成しづらいものが主体だった」としたうえで、「一般人より明らかに高いとされる1,000本に近い石綿小体が検出されており、業務に起因すると認めるのが相当」と判断したのでした。
判決後の会見で、原告は「何度も諦めかけたが、労災と認められて、今は感謝で一杯」と話されていました。今回の判決を含め、司法の判断に従えば、救済される肺がん患者はもっと沢山あるはずです。しかし現実には、労災不認定の結果が出れば諦めるケースが圧倒的であり、審査請求や再審査請求の手続きを経なければ提訴できないため、多くはこの過程で泣き寝入りすることになるのです。国側は司法の判断を重く受け止めるべきで、本数を重視する認定基準を改正する必要があります。
◆少なすぎる石綿肺がんの救済
世界の医学会では、石綿による疾病は、中皮腫1に対して石綿肺がんはその2倍であるというのがコンセンサスとなっています。アスベスト問題が社会問題化する中で、中皮腫の患者・家族への救済は一定進んでいますが、日本における石綿肺がんの患者・家族の救済は中皮腫以下というのが現状です。
石綿肺がんの救済が進まない原因は、労災の認定基準のハードルが高すぎることが影響しており、「ばく露状況等を総合的に判断」するとしながらも、石綿小体・石綿繊維の本数についての数字のみで判断してきた事が原因としてあげられます。
そうした中、国は石綿肺がんの労災認定基準を2012年3月に改訂しました。2012年基準は、これまでの認定基準を緩和した箇所も有りますが、石綿小体数に関しては「総合的に判断する」とされていたものが、「1,000本以上5,000本未満」の案件については労働基準監督署ではなく全て本省で判断されることとなったのでした。石綿小体・石綿繊維に関する問題点は改正されず、より厳しくなったというのが実情です。