NPO法人 ひょうご労働安全衛生センター

労災・職業病・労働環境など
お気軽にご相談ください

TEL 078-382-2118
相談無料・秘密厳守
月〜金: 9:00-18:00

アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

悪性胸膜中皮腫 「ばく露なし」で労災不支給
審査請求で逆転認定 大阪

2014/04/20
◆はじめに

中皮腫を発症し労災申請を行ったが不支給となる案件が増えている。センターに寄せられた相談のうち、長崎署が不支給とした案件は審査請求において逆転認定となり、今回、大阪・淀川署が不支給とした案件が審査請求で逆転認定となった。中皮腫の労災申請における問題点を報告したい。


◆職歴でばく露が認められないと不支給

宮崎県にお住いのAさんのご家族に最初にお会いしたのは、20127月、鹿児島市で開催した「アスベスト患者と家族の集い」でした。Aさんは、高校を卒業したあと大阪にあるBガラス製品製造会社に勤務し、その後は営業の仕事を転々とされ、退職後は実家の宮崎で過ごされていました。20117月の健康診断で肺の異常を指摘され、宮崎大学病院で悪性胸膜中皮腫と診断され治療を続けていたのですが、20126月に亡くなられました。

補償に関しては息子さんが手続きを行い、環境保全機構からは認定決定されたのですが、淀川労基署は201110月末に業務以外の処分を決定しました。その理由は、「被災者が発症した傷病は悪性胸膜中皮腫であることが認められるが、職歴において石綿にばく露したことが認められない」でした。そのため、アスベスト患者と家族の会と当センターで支援することになりました。


◆「石綿は使用していない」との虚偽報告

Aさんは、昭和373月から昭和459月までB会社に勤務し、そのうち昭和37年から13ヵ月間はガラス製造の現場作業に従事しました。炉などに使用されている断熱材に含まれていた石綿粉じんを吸ったと申請したのですが、淀川署の担当者がB社に問い合わせたところ、「石綿は使用していない」との回答でした。

B社の石綿対策担当者やOB等からの、「Aさんが入社当時現場作業に携わった事については、数名の申述から確認できるが、その従事期間については、各々の記憶に相違があり確定できない。」「被災者が携わっていたBS炉では、隙間を埋める断熱材には石綿を使っていない。Aさんが出入りしたと考えられる場所にある電気炉やその周辺に石綿は使われていなかった」「普通の軍手をし、服も作業着があったような気がしますが、私服で作業していたような気もします。特に、断熱服や耐火手袋等は使用していませんでした。」という情報を基に、淀川署は「石綿ばく露作業に従事したという事実は確認できない。」と判断したのでした。

また、B社から提出された「石綿にかかる健康障害についての報告書」には、「Aさんの基本は営業担当で、現場に配属されたことはない」「金物を持って現場へ行ったりしていたが、手伝うことはあっても希。当社でじん肺対象作業者も、じん肺の判定を受けたことはない」と記載されていました。会社は「石綿対策担当者」が設けているのに、石綿の使用が無かったと言い張ったのでした。


◆労働組合には石綿使用を認めていた

会社側が石綿の使用を認めないため、Aさんのご家族と一緒にB社の同僚を探したのですが、協力を得る方を探し出すことが出来ずにいました。そうしたなか、審査官がこの案件を参与会にかける直前に、日本板硝子の川崎工場が、B社と同じガラス製品を製造し同じ作業環境であることが判明したのでした。しかも、日本板硝子共闘労働組合の皆さんが、B社の労働組合と親交があることが解ったのでした。

さっそく、日本板硝子共闘労働組合川崎支部の書記長に、製造工程におけるアスベストの使用実態と作業環境に関する陳述書を作成していただきました。また、B社の労働組合で長年に渡り役員をされていたCさんからも協力を得ることが出来ることとなりました。

Cさんは陳述書で、「Aさんは営業の仕事をされていましたが、時には製造に夜遅くまで立ち会われていたこともありました。」「炉の内外・周辺にアスベストが断熱材として使われていました。」「私が委員長当時、会社とアスベスト問題を交渉しました。40歳以上の社員と退職者への年1回の健康診断を行うことで労使合意しました。」とB社の状況を証言してくれたのでした。また、昔の組合ニュースを審査官に提供し、会社が石綿の使用を認めていることを明らかにしてくれました。


◆虚偽報告は労災隠し

本年1月16日付けの決定書が送付されてきました。主文は、「支給しない旨の処分は、これを取り消す」でした。決定書を読んで驚いたのは、審査官の問合せに対してB社が、炉の内外及び周辺でのアスベスト使用状況に関して全て「不明」と回答していたのでした。しかも、B社が審査官に元従業員を紹介し、その元従業員が「石綿は使用されていなかった」と繰り返し意見を述べていたのです。会社のこうした行為は、労災隠しといえます。

今回は労働組合の協力を得ることができ、石綿の使用状況に関する実態を明らかにすることが出来ましたが、会社側が「使用していない」と言い張れば、労基署はその意見に引っ張られ、今回のように不幸な経過をたどることになるのです。会社側が「不明」「使用していない」と主張するなら、断熱対策として何を使用していたのかを調査する力が、監督署には求められています。

中皮腫の労災請求に関して、2012年度は労災保険で40件、石綿救済法による時効救済で39件が業務外と判断されています。病気が中皮腫なく違う病名であったケースも含まれていますが、「職歴において石綿にばく露したことが認められない」との理由で業務外になるケースが増えています。アスベスト疾患はばく露から発症までの潜伏期間が長いため、調査に困難を伴うこともありますが、被災者の救済を最優先に調査・決定を行うべきです。