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労災職業病・安全衛生の取り組み
震災と心のケアを考えるシンポジウム
2014/03/20
◆はじめに
3
月
9
日、神戸市勤労会館において「震災と心のケアを考えるシンポジウム」が開催され、
100
名の参加がありました。当センターなどで構成する「震災と労働を考える実行委員会」の主催で、
1
月の「震災とアスベストを考えるシンポジウム」に続き開催されたものです。
◆阪神・淡路の教訓を東日本で
私たちは、未曾有の被害を発生させた阪神・淡路と東日本の二つの大震災を経験しました。阪神淡路大震災から
20
年目を迎えましたが、改めて震災の経験教訓化し、働く者の立場から語り継ぐ課題は何なのかを考え会う必要があります。そのため、昨年秋に「震災と労働を考える実行委員会」を結成し、二つの課題を考えるシンポジウムを企画しました。
一つ目の課題はアスベスト問題であり、二つ目の課題は惨事ストレスと位置づけました。阪神・淡路大震災の救援現場の過酷さは、その直後から報道されました。消防隊員、警察官、医療関係者などの災害救援者が、現場活動をとおして受ける通常とは異なる精神ストレスを惨事ストレスといいますが、これは阪神・淡路大震災を契機に注目されるようになりました。そして、消防署員の手記が神戸市消防局の機関誌に掲載されたこともあり、大きな社会的関心を集めました。また、医療関係者やボランティア、あるいは行政関係者の精神保健上の問題の大きさも、様々に取り上げられたのでした。
昨年
1
月には、東日本大震災の復興支援のために、宝塚市から岩手県大槌町へ派遣されていた職員が「宿舎として利用していた仮設住宅で自殺していることがわかった」と報道されました。一昨年
10
月から大槌町の地域整備課に配属され職務を遂行されていたのですが、現地の同僚には「自分は役に立っているのだろうか」と漏らし、「不安や無気力感に襲われていた」と報じられました。
阪神・淡路大震災の時から「心のケア」の必要性が言われ始めましたが、この経験が東日本大震災の復興支援や被災者の救援活動にどう引き継がれているのでしょうか。そこで、震災と復興支援における心のケアの問題を検証したいと考え、今回のシンポジウムを企画しました。
◆苦いカルテを活かす
シンポジウムは二部構成で進められ、第一部は兵庫教育大学教授の岩井圭司氏より「復興期の心のケア-阪神淡路の経験から-」をテーマに講演が行われました。岩井氏は、兵庫県立光風病院などを経て、阪神・淡路大震災後に設立された被災者援助機関「こころのケアセンター」に勤務し、震災直後から復興期にかけての心のケア問題に取り組まれました。この度の東日本大震災においても、被災地への支援を続けておられます。
岩井氏からは、「医師の世界では、『苦いカルテを活かす』という言葉が有る。良くも悪くも経験を反面教師として、どう活かすのかが大切。その意味で、阪神淡路の苦いカルテが活かされず、成功例だけが踏襲されているのではないか。」との指摘がありました。
復興期の心のケアに関して、「心の病気も体のケガも、時間の経過と共に治りますが、災害後のストレスは時間がたつほど増えていきます。災害後のストレスが続くと『燃え尽き』やすくなります。燃え尽き対策として、休息が必要ですし、体験共有や労い合いが必要です。弱音を吐くことは大切で、言わなければ自分を欺くことになるからです。」と話され、「孤立無援感を防ぐことと『気にかけているよ』というメッセージを送ることが大切」と訴えられました。そして最後に、「不安を抱えている人たちに、不安を取り除くことなんて出来ないから、不安なままで安心しなさい。」との言葉を送られていました。
◆「励ましやメールが嬉しかった」
基調講演を受けて第二部では、阪神淡路大震災における心のケア対策を検証しながら、東日本の被災地で働く労働者の心のケア問題をテーマに、パネルディスカッションが行われました。パネラーは、岩手県の職員として働く及川隆浩氏、兵庫県神河町から宮城県山元町に派遣されている平岡民雄氏、元神戸市職員で阪神・淡路大震災の際に灘区役所で被災者対応に追われた三木平氏、そして神戸新聞の記者として阪神・淡路大震災を経験し東日本の被災地の取材活動を行っている長沼隆之氏の
4
名。そして、いじめメンタルヘルス労働者支援センターの千葉茂氏の司会で進められました。
まず、震災直後、被災地で働く労働者はどの様な状況に置かれているのかについて、パネラーから発言がありました。及川氏は「不眠不休で被災者の支援にあたった。
4
日~
5
日、自宅に帰らず支援にあたった人もいる。現在でも夜の
1
時に帰ったら早い方」、平岡氏は「仮設のプレハブ庁舎で
176
名が働いているが、その内の
99
名が派遣された職員。仕事以外のスペースはなく、食事をとるスペースもない」、三木氏は「震災直後、区役所に市民がドンドン駆け込んできた。遺体の運搬依頼も次々とあり、何体の遺体と何人のけが人を搬送したか覚えていないが、おそらく
50
を超えていただろう」との発言がありました。
心のケア対策については、及川氏は「以前の
2.5
倍~
3
倍の予算執行を、人員が増えない中で対応している。当局はセルフチェックを行っているが、薬を服用している人や『休みたい』という声が増えている」、平岡氏は「派遣された課では、心の問題で
4
名が休職中。雇用形態・出身地・待遇・得意分野の違う立場の人たちが一緒に働くなかで、違いや仕事が出来ない部分に目が向くようになっている。元職の人から励ましやメールをもらうと、嫌なことが有っても一人でないと確認できた」、長沼氏は「人を救うのは人でしかない。被災者・職員そして被災地を応援している人たちをいかに支えるか」と訴えられていました。
最後に、岩井氏が「弱いから病気になるのではなく、まじめな方や使命感・責任感の強い人が、使命や責任を果たせなかったと感じるから病気になる。」「被災地全体がストレスフルになっている。復興にはまだまだ時間がかかるし、支援が必要です。支援する人を支援しないと復興は進みません」との問題提起がされました。
◆「人を救うのは人でしかない」
今回のシンポジウムを通じて、私たちは阪神・淡路大震災における惨事ストレス問題や復興期における心のケア問題について、まだまだ教訓をくみ取っていないと実感しました。「苦いカルテを活かす」前に、経験そのものを集め、伝えることが出来ていないのです。
シンポジウムを通じて考え合いたい課題は、①阪神淡路大震災における惨事ストレス対策と心のケア対策の教訓、②東日本大震災での惨事ストレス対策と心のケア対策の現状、③救援者のストレス解消対策、についてでした。こうした課題は、更に引き続き検討することが必要であると認識できたシンポジウムでした。また、参加者の感想として、「テーマがテーマだけに、非常時・災害時の話題が中心になりましたが、日頃から労働者の心のケア体制がどうなっているかということが気になりました。平時に不十分なものが非常時に十分になることはありえないと思います。」「組合として、どの様に対応していくのかをもう少し議論して欲しかった」との声が寄せられました。ぜひ、引き続き考え合いたいと思います。
東日本の被災地の復興には、まだまだ時間が必要です。長期間の復興支援が求められており、心のケア対策についても、経験をつなぎ合わせる継続的な取り組みが必要です。
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3月9日、神戸市勤労会館において「震災と心のケアを考えるシンポジウム」が開催され、100名の参加がありました。当センターなどで構成する「震災と労働を考える実行委員会」の主催で、1月の「震災とアスベストを考えるシンポジウム」に続き開催されたものです。
◆阪神・淡路の教訓を東日本で
私たちは、未曾有の被害を発生させた阪神・淡路と東日本の二つの大震災を経験しました。阪神淡路大震災から20年目を迎えましたが、改めて震災の経験教訓化し、働く者の立場から語り継ぐ課題は何なのかを考え会う必要があります。そのため、昨年秋に「震災と労働を考える実行委員会」を結成し、二つの課題を考えるシンポジウムを企画しました。
一つ目の課題はアスベスト問題であり、二つ目の課題は惨事ストレスと位置づけました。阪神・淡路大震災の救援現場の過酷さは、その直後から報道されました。消防隊員、警察官、医療関係者などの災害救援者が、現場活動をとおして受ける通常とは異なる精神ストレスを惨事ストレスといいますが、これは阪神・淡路大震災を契機に注目されるようになりました。そして、消防署員の手記が神戸市消防局の機関誌に掲載されたこともあり、大きな社会的関心を集めました。また、医療関係者やボランティア、あるいは行政関係者の精神保健上の問題の大きさも、様々に取り上げられたのでした。
昨年1月には、東日本大震災の復興支援のために、宝塚市から岩手県大槌町へ派遣されていた職員が「宿舎として利用していた仮設住宅で自殺していることがわかった」と報道されました。一昨年10月から大槌町の地域整備課に配属され職務を遂行されていたのですが、現地の同僚には「自分は役に立っているのだろうか」と漏らし、「不安や無気力感に襲われていた」と報じられました。
阪神・淡路大震災の時から「心のケア」の必要性が言われ始めましたが、この経験が東日本大震災の復興支援や被災者の救援活動にどう引き継がれているのでしょうか。そこで、震災と復興支援における心のケアの問題を検証したいと考え、今回のシンポジウムを企画しました。
◆苦いカルテを活かす
シンポジウムは二部構成で進められ、第一部は兵庫教育大学教授の岩井圭司氏より「復興期の心のケア-阪神淡路の経験から-」をテーマに講演が行われました。岩井氏は、兵庫県立光風病院などを経て、阪神・淡路大震災後に設立された被災者援助機関「こころのケアセンター」に勤務し、震災直後から復興期にかけての心のケア問題に取り組まれました。この度の東日本大震災においても、被災地への支援を続けておられます。
岩井氏からは、「医師の世界では、『苦いカルテを活かす』という言葉が有る。良くも悪くも経験を反面教師として、どう活かすのかが大切。その意味で、阪神淡路の苦いカルテが活かされず、成功例だけが踏襲されているのではないか。」との指摘がありました。
復興期の心のケアに関して、「心の病気も体のケガも、時間の経過と共に治りますが、災害後のストレスは時間がたつほど増えていきます。災害後のストレスが続くと『燃え尽き』やすくなります。燃え尽き対策として、休息が必要ですし、体験共有や労い合いが必要です。弱音を吐くことは大切で、言わなければ自分を欺くことになるからです。」と話され、「孤立無援感を防ぐことと『気にかけているよ』というメッセージを送ることが大切」と訴えられました。そして最後に、「不安を抱えている人たちに、不安を取り除くことなんて出来ないから、不安なままで安心しなさい。」との言葉を送られていました。
◆「励ましやメールが嬉しかった」
基調講演を受けて第二部では、阪神淡路大震災における心のケア対策を検証しながら、東日本の被災地で働く労働者の心のケア問題をテーマに、パネルディスカッションが行われました。パネラーは、岩手県の職員として働く及川隆浩氏、兵庫県神河町から宮城県山元町に派遣されている平岡民雄氏、元神戸市職員で阪神・淡路大震災の際に灘区役所で被災者対応に追われた三木平氏、そして神戸新聞の記者として阪神・淡路大震災を経験し東日本の被災地の取材活動を行っている長沼隆之氏の4名。そして、いじめメンタルヘルス労働者支援センターの千葉茂氏の司会で進められました。
まず、震災直後、被災地で働く労働者はどの様な状況に置かれているのかについて、パネラーから発言がありました。及川氏は「不眠不休で被災者の支援にあたった。4日~5日、自宅に帰らず支援にあたった人もいる。現在でも夜の1時に帰ったら早い方」、平岡氏は「仮設のプレハブ庁舎で176名が働いているが、その内の99名が派遣された職員。仕事以外のスペースはなく、食事をとるスペースもない」、三木氏は「震災直後、区役所に市民がドンドン駆け込んできた。遺体の運搬依頼も次々とあり、何体の遺体と何人のけが人を搬送したか覚えていないが、おそらく50を超えていただろう」との発言がありました。
心のケア対策については、及川氏は「以前の2.5倍~3倍の予算執行を、人員が増えない中で対応している。当局はセルフチェックを行っているが、薬を服用している人や『休みたい』という声が増えている」、平岡氏は「派遣された課では、心の問題で4名が休職中。雇用形態・出身地・待遇・得意分野の違う立場の人たちが一緒に働くなかで、違いや仕事が出来ない部分に目が向くようになっている。元職の人から励ましやメールをもらうと、嫌なことが有っても一人でないと確認できた」、長沼氏は「人を救うのは人でしかない。被災者・職員そして被災地を応援している人たちをいかに支えるか」と訴えられていました。
最後に、岩井氏が「弱いから病気になるのではなく、まじめな方や使命感・責任感の強い人が、使命や責任を果たせなかったと感じるから病気になる。」「被災地全体がストレスフルになっている。復興にはまだまだ時間がかかるし、支援が必要です。支援する人を支援しないと復興は進みません」との問題提起がされました。
◆「人を救うのは人でしかない」
今回のシンポジウムを通じて、私たちは阪神・淡路大震災における惨事ストレス問題や復興期における心のケア問題について、まだまだ教訓をくみ取っていないと実感しました。「苦いカルテを活かす」前に、経験そのものを集め、伝えることが出来ていないのです。
シンポジウムを通じて考え合いたい課題は、①阪神淡路大震災における惨事ストレス対策と心のケア対策の教訓、②東日本大震災での惨事ストレス対策と心のケア対策の現状、③救援者のストレス解消対策、についてでした。こうした課題は、更に引き続き検討することが必要であると認識できたシンポジウムでした。また、参加者の感想として、「テーマがテーマだけに、非常時・災害時の話題が中心になりましたが、日頃から労働者の心のケア体制がどうなっているかということが気になりました。平時に不十分なものが非常時に十分になることはありえないと思います。」「組合として、どの様に対応していくのかをもう少し議論して欲しかった」との声が寄せられました。ぜひ、引き続き考え合いたいと思います。
東日本の被災地の復興には、まだまだ時間が必要です。長期間の復興支援が求められており、心のケア対策についても、経験をつなぎ合わせる継続的な取り組みが必要です。