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港湾での石綿被害 三井倉庫裁判 勝利判決が確定
2014/03/20
◆概要
神戸の高台から港を見下ろすと、眼下に飛び込んでくる港湾倉庫群。三井・三菱・住友・篠崎…、日本でも有数の港、神戸港。昭和
51
年には石綿輸入量が日本一となり、全国の総輸入量の三分の一の取扱量がありました。多くの人の手を経て港湾を通過した石綿。それらは、手鉤で持ち上げられ、放り投げられ、また「捲り返し」といった乱雑な荷役方法がとられました。貨物船の中、艀の中、パレットに積み上げ、フォークリフトで運び、倉庫に積み上げ、こぼれた石綿を掃き集め、数量を数えた人々。
三井倉庫事件は、安全配慮義務違反等を理由にして、損害賠償請求訴訟を提起した事件です。被災者の故
N
さんは、昭和
26
年から約
27
年間三井倉庫に勤務。運搬用のトラクターに石綿を積載し岸壁から倉庫への搬入などに従事。退職後の平成
9
年頃、悪性胸膜中皮腫と診断され、治療を続けるも平成
11
年に
77
歳で死亡しました。
◆裁判の経過
平成
19
年
2
月神戸地裁に、原告である妻と長男が提訴。
6
年
9
ヵ月の裁判闘争でした。裁判では、三井倉庫が「石綿の取扱量が少ない」と主張し石綿ばく露を争い。さらに、中皮腫発症を予見できたのは昭和
56
年以降であると反論し、予見可能性も激しく争われましたが、地裁は疾病と業務の因果関係を認め、会社側の安全配慮義務違反を認定しました。
高裁では、「じん肺法の解釈では三井倉庫側の主張に分があると思う」と一瞬ヒヤリとする場面もありましたが、これは裁判官のダメ押し、より確固としたものを狙ったものと思われます。判決は「昭和
35
年制定の『じん肺法』によって危険性は予見できた」と一審判決を支持し、故Nさんが業務で石綿粉じんにばく露して死亡したことを認め。報道や法規制等によって、昭和
35
年のじん肺法制定時には健康被害についての十分な予見可能性があったと認定しました。さらに、日本有数の総合物流業者であるとして、労働者の安全を配慮する社会的責務がより大きいことも指摘しました。
◆最高裁の裁判官5人が全員一致
三井倉庫は上告しましたが、平成
25
年
11
月
21
日、最高裁第一小法廷は、裁判官
5
人の全員一致で「上告申立を受理しない」旨を決定し、約
3,600
万円の支払いを命じた平成
23
年
2
月
25
日の高裁判決が確定しました。これは港湾アスベスト被害に関する初めての最高裁決定であり、他のアスベスト訴訟にも大きな影響を与えることは間違いないでしょう。
原告の
F
(長男)さんは、「活動を続けているうちに神戸港でアスベスト被害にあわれた方々と面識を持ち、私の活動を支えて頂ける多数の方々と知り合うことができた。こんなにも問題意識を持つ人が多くいることを知った。苦しんでおられる方も多いのに驚いたのを覚えている。私が負ければ港湾裁判だけでなく、いま闘っている多くの方への影響は必須。絶対に、苦しんで逝った父の無念のために、負けてはならないとの信念で闘い続けた。」と感想を述べておられます。
弁護団長の松村弁護士は、「すばらしい成果を得た。しかし、三井倉庫は今なお謝罪も反省もしていない。この裁判の成果を港湾関係等のアスベスト被害の救済に大いに活用していただくことが、無反省な三井倉庫を一層追い詰めていくことになるのではないか」と決意を新たにされています。
弁護団の伊藤弁護士は、「提訴から
6
年
9
ヵ月、うち
2
年
9
ヵ月が最高裁判所待ちの長い闘いでした。奥さんが御健在のうちに勝訴の報告ができたことに心底ホッとしています。主張立証を補充したお蔭で、結果的には、地裁判決を上回る高裁判決となりました。意見陳述や、多くの方々が証人や証拠探しに協力して下さり、地裁・高裁とも毎回多くの方に傍聴支援を頂きました。今回の成果が港湾アスベスト被害の救済につながることを願って止みません」と振り返っておられます。
◆実効ある早期の補償、解決策を
安全センターも、当時の資料や証人探し、傍聴などの裁判闘争を積極的に支援しました。高度成長期を一生懸命働き、働いたがゆえにアスベスト疾患に発症されました。誰しも天命を全うする権利があります。しかし、その命が強制的に奪われるのであります。呼吸器疾患。「呼吸ができなくなって初めて空気のありがたさを知る」と言われます。ほんとうに苦しい日々だっただろうと御推測します。一呼吸、一呼吸。空気のありがたみをかみしめ、生き抜いた身体の代償として支払われる命の値段。裁判の勝利は、被災者本人、それを支えたご家族の勝利。しかし、生命の尊さ、命の値段があまりにも粗末に扱われてはいないでしょうか。補償のあり方、速やかな解決策も問われることでしょう。
何故、頑なに企業は、裁判を引き延ばしたのでしょうか。国、企業は、アスベスト被害者への二重三重の過ちを繰り返してはいないでしょうか。港湾アスベスト被害は、倉庫、元請、エーゼントや荷役作業をする作業会社、港運会社などがあり、作業会社や検数員に多くの被害が発生し、現在その発症期を迎えていると思われます。
港湾に被災者救済の補償基金が設立されたと聞いていますが。生前に一日でも早くこのような補償制度の救済措置が適用されることが望まれます。
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神戸の高台から港を見下ろすと、眼下に飛び込んでくる港湾倉庫群。三井・三菱・住友・篠崎…、日本でも有数の港、神戸港。昭和51年には石綿輸入量が日本一となり、全国の総輸入量の三分の一の取扱量がありました。多くの人の手を経て港湾を通過した石綿。それらは、手鉤で持ち上げられ、放り投げられ、また「捲り返し」といった乱雑な荷役方法がとられました。貨物船の中、艀の中、パレットに積み上げ、フォークリフトで運び、倉庫に積み上げ、こぼれた石綿を掃き集め、数量を数えた人々。
三井倉庫事件は、安全配慮義務違反等を理由にして、損害賠償請求訴訟を提起した事件です。被災者の故Nさんは、昭和26年から約27年間三井倉庫に勤務。運搬用のトラクターに石綿を積載し岸壁から倉庫への搬入などに従事。退職後の平成9年頃、悪性胸膜中皮腫と診断され、治療を続けるも平成11年に77歳で死亡しました。
◆裁判の経過
平成19年2月神戸地裁に、原告である妻と長男が提訴。6年9ヵ月の裁判闘争でした。裁判では、三井倉庫が「石綿の取扱量が少ない」と主張し石綿ばく露を争い。さらに、中皮腫発症を予見できたのは昭和56年以降であると反論し、予見可能性も激しく争われましたが、地裁は疾病と業務の因果関係を認め、会社側の安全配慮義務違反を認定しました。
高裁では、「じん肺法の解釈では三井倉庫側の主張に分があると思う」と一瞬ヒヤリとする場面もありましたが、これは裁判官のダメ押し、より確固としたものを狙ったものと思われます。判決は「昭和35年制定の『じん肺法』によって危険性は予見できた」と一審判決を支持し、故Nさんが業務で石綿粉じんにばく露して死亡したことを認め。報道や法規制等によって、昭和35年のじん肺法制定時には健康被害についての十分な予見可能性があったと認定しました。さらに、日本有数の総合物流業者であるとして、労働者の安全を配慮する社会的責務がより大きいことも指摘しました。
◆最高裁の裁判官5人が全員一致
三井倉庫は上告しましたが、平成25年11月21日、最高裁第一小法廷は、裁判官5人の全員一致で「上告申立を受理しない」旨を決定し、約3,600万円の支払いを命じた平成23年2月25日の高裁判決が確定しました。これは港湾アスベスト被害に関する初めての最高裁決定であり、他のアスベスト訴訟にも大きな影響を与えることは間違いないでしょう。
原告のF(長男)さんは、「活動を続けているうちに神戸港でアスベスト被害にあわれた方々と面識を持ち、私の活動を支えて頂ける多数の方々と知り合うことができた。こんなにも問題意識を持つ人が多くいることを知った。苦しんでおられる方も多いのに驚いたのを覚えている。私が負ければ港湾裁判だけでなく、いま闘っている多くの方への影響は必須。絶対に、苦しんで逝った父の無念のために、負けてはならないとの信念で闘い続けた。」と感想を述べておられます。
弁護団長の松村弁護士は、「すばらしい成果を得た。しかし、三井倉庫は今なお謝罪も反省もしていない。この裁判の成果を港湾関係等のアスベスト被害の救済に大いに活用していただくことが、無反省な三井倉庫を一層追い詰めていくことになるのではないか」と決意を新たにされています。
弁護団の伊藤弁護士は、「提訴から6年9ヵ月、うち2年9ヵ月が最高裁判所待ちの長い闘いでした。奥さんが御健在のうちに勝訴の報告ができたことに心底ホッとしています。主張立証を補充したお蔭で、結果的には、地裁判決を上回る高裁判決となりました。意見陳述や、多くの方々が証人や証拠探しに協力して下さり、地裁・高裁とも毎回多くの方に傍聴支援を頂きました。今回の成果が港湾アスベスト被害の救済につながることを願って止みません」と振り返っておられます。
◆実効ある早期の補償、解決策を
安全センターも、当時の資料や証人探し、傍聴などの裁判闘争を積極的に支援しました。高度成長期を一生懸命働き、働いたがゆえにアスベスト疾患に発症されました。誰しも天命を全うする権利があります。しかし、その命が強制的に奪われるのであります。呼吸器疾患。「呼吸ができなくなって初めて空気のありがたさを知る」と言われます。ほんとうに苦しい日々だっただろうと御推測します。一呼吸、一呼吸。空気のありがたみをかみしめ、生き抜いた身体の代償として支払われる命の値段。裁判の勝利は、被災者本人、それを支えたご家族の勝利。しかし、生命の尊さ、命の値段があまりにも粗末に扱われてはいないでしょうか。補償のあり方、速やかな解決策も問われることでしょう。
何故、頑なに企業は、裁判を引き延ばしたのでしょうか。国、企業は、アスベスト被害者への二重三重の過ちを繰り返してはいないでしょうか。港湾アスベスト被害は、倉庫、元請、エーゼントや荷役作業をする作業会社、港運会社などがあり、作業会社や検数員に多くの被害が発生し、現在その発症期を迎えていると思われます。
港湾に被災者救済の補償基金が設立されたと聞いていますが。生前に一日でも早くこのような補償制度の救済措置が適用されることが望まれます。