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ゴム手袋の再利用作業で悪性中皮腫を発症した元看護師
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昨年8月、医療用ゴム手袋をガス滅菌し再利用するための作業工程において、アスベストにばく露した元准看護師(山口県)が、悪性胸膜中皮腫を発症し、労災認定されました。今回、新たに東大阪市の元看護士が中皮腫で死亡した件についても、東大阪労基署が労災と認定しました。
◆常態化していたゴム手袋の再利用作業
以前は、医療用のゴム手袋をガス滅菌したうえで再利用している病院が多くありました。ガス滅菌を行うための作業工程において、「打ち粉」としてタルクが使用されていましたが、そのタルクにはアスベストが混入していました。
タルクとは滑石ともよばれる白い石です。産業用には原石を粉砕して非常に細かい粉にして使用することが多く、ゴム製造、製紙、農薬・医療品製造、化粧品製造など多くの分野で利用されています。また、ベビーパウダーや「おしろい」は、まさにタルクそのものです。白い色をしているので顔料などにも使用されます。
昨年の1例目の労災認定事案を受け、同じ作業に従事した看護師・看護助手の方々のアスベスト被害の拡大が懸念されていましたが、残念ながら二人目の被害が確認されました。
◆Kさんの報道を通じ記憶が蘇る
今回、悪性胸膜中皮腫を発症されたTさんは、広島県や大阪府の病院に看護師として約40年間勤務されました。そのうち約12年間(S58年~H7年)は、東大阪市にある病院の手術室と中央材料室に勤務し、ゴム手袋の再利用の作業に従事されました。その間に、タルクに混入していたアスベストにばく露されたのでした。
Tさんは、2012年春に悪性胸膜中皮腫と診断されました。Tさんは、居住歴や家庭内においても石綿ばく露はありません。ご本人もどこでアスベストにばく露したのかわからず、ご主人が建設会社の営業職をされていたので、ご主人の作業着に付着した石綿が原因ではないかと疑われていました。
昨年8月の山口県のKさんの報道を通じ、同じ作業を行っていた記憶が蘇ったのでした。病院の医師の勧めで環境保全機構への申請を行っていたのですが、「山口県内の産婦人科の診療所で働いておられた元准看護師のKさんの記事を読ませていただき、私も昭和58年から約10年間手術室と中央材料室に勤務していて、ゴム手袋再利用の為、タルクを取り扱っていました。何年間取り扱っていたのか記憶がはっきりしないのですが、数年間は取り扱ったと思います。」との手紙を添えられました。
そして、昨年9月には、東大阪労働基準監督署に労災申請を行ったのでした。残念ながら、労災申請の結果を聞くことができないまま、本年1月に他界されました。
Tさんの件は、監督署では判断できず、労働局を通じ本省協議案件となっていました。本省の専門検討会を経て、東大阪労基署は5月13日付けで休業と療養の労災認定を行い、5月22日付けで遺族年金と葬祭料の請求を労災と認めました。Tさんが待ち望んだ認定通知が、最初にご遺族の元に届いたのは5月20日でした。
◆中央材料室は、まさに粉じん職場
今回の労災請求に当たり、Tさんの同僚の協力がありました。「ゴム手袋の再利用作業を一緒に行った。当時の医療現場では手袋の再利用が当たり前で、その際にはタルクを用いていた」と証言されました。昨年8月に、日本で初めて看護師がタルクにばく露し中皮腫発症した事例が労災と認定されましたが、今回の事例からも、また同僚の証言からも、昨年の労災認定が特別な案件ではなかったことが明らかとなりました。
Tさんは、看護師の仕事に誇りを持ち、後輩の育成を常に気を配られていたそうです。中皮腫を発症され、タルクに含まれるアスベストの危険性を知ってからは、同僚の健康を気遣い、全国の看護師や看護助手の方々の石綿関連疾患の発症を懸念されていました。そうした思いも有り、5月26日に関西労働者安全センターにおいて、労災認定されたことを伝える記者会見を行いました。
会見においてご家族は、「肩にちょっと触るだけでも激痛が走るほど苦しんでいた。石綿による中皮腫は潜伏期間が長く、これから症状が出る看護婦もいるのではないか」と危惧され、「妻は、今回の労災認定を通じて、同じ仕事をしていた同僚や後輩たちが大丈夫なのか、身をもって問題提起した」と話されていました。また、会見では、同僚の証言をもとにタルクをまぶす作業を再現しましたが、白い粉が煙のようにもうもうと立ちこめる状態であり、粉じん職場といってもおかしくない状況が明らかとなりました。
マスコミの報道を通じて、同じ作業に従事された方は不安を抱えており、元看護士の方からの相談が続いています。今後も、患者と家族の会の皆さん、全国センターの皆さんと共に、被害者の掘り起しと、行政への働きかけを強めていきます。