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腰痛・上肢障害・振動障害
炭マキ運搬作業で頚肩腕障害 審査請求で逆転認定
2013/03/20
◆炭・マキを手作業で運搬する業務に2年
「労災申請したのですが認められませんでした。どうしたらいいのでしょうか?」と、Aさん(女性)からの相談電話が有ったのは、昨年の夏前でした。不支給となった理由を確認することと、諦めず審査請求ができることを説明し、センターとして協力することを伝えました。
Aさんは、当センターンのすぐ近くにあるB社に
2009
年
7
月に入社し、商品である炭やマキを販売する業務に就きました。炭は一箱が
10
㎏、
12
㎏、
15
㎏の種類が有り、マキも一束
10
㎏から
12
㎏の重さがあります。Aさんは、販売業務に伴い、炭やマキの入荷や出荷作業、在庫整理の作業にも従事していました。
2011
年
11
月
8
日、Aさんは会社倉庫内で入荷した炭を運搬中に、右手に違和感を覚え、同時に右第
5
指の末関節周辺に激痛が走りました。その際は、捻挫か突き指程度と思い、そのまま放置していたところ、疼痛と痺れが激しくなり、近院を受診したところ「右肘部管症候群」と診断されました。その後受診した医院では「右胸郭出口症候群」と診断され、現在通院している診療所では「頚肩腕障害」と診断されたのでした。
そこで、神戸東労働基準監督署に労災申請したのですが、「特に過重な業務に就労したとは認められない」との理由で、不支給扱いとなったのでした。
◆神戸東署の調査方法
B社における炭・マキの運搬作業は、そのほとんどをAさんと同僚Cさん(男性)の二人で行っていました。
1
日の仕事の流れは、午前中は入荷した炭の荷卸しと整理作業、午後は
1
日に
5
件から
10
件ぐらいの得意先等への配達作業でした。
また、月に数回マキの入荷作業があり、週
1
回程度の倉庫内の整理作業、月
1
回の棚卸し作業がありました。同僚の
C
さんはフォークリフトを用いた移動作業を行いますが、Aさんは全て手作業で炭・マキを移動させていました。
監督署は、会社から提出があったAさんの発症前
1
年間の資料を基に業務量を検討しました。まず、Aさんの
1
年間の作業日数(出勤日数)を計算し、
271
日と確定しました。そして、月当たりの取り扱い数(箱数)を合計し、年間で
49,685
箱と断定しました。そのデーターを基に、Aさんの
1
ヵ月当たりの取り扱い個数を
4,140
個、一日当たりの取り扱い個数を
183
個であると、作業量の平均値を算出したのでした。
この平均値をもとに発症前
6
ヵ月間をみたとき、発症
1
ヵ月前については平均取扱数量を僅かに下回っているがほぼ平均取扱数量、
1
日当たりの取扱数量は発症
5
ヵ月前及び
1
ヵ月前についてはほぼ平均取扱数量となっていると判断したのでした。また、
1
日の業務量が概ね
20
%以上増加し、その状態が
1
ヵ月のうち
10
日値度認められ、この状態が
3
ヵ月程度継続していることは確認できないとし、不支給処分を決定したのでした。
◆作業実態に即して上肢への負担重量を算出
審査請求に当たり、Aさんの作業内容を詳しく聞き取りしました。すると、監督署の調査方法の不備が明らかになってきたのでした。つまり、監督署はAさんが運搬した箱数を持って判断しているのですが、実際の作業形態においては何度も炭の箱やマキを上げ下ろししたり、商品を台車にのせて押す作業や、無理な体制での運搬作業が見落とされていたのです。
そこで、Aさんの作業内容に沿って、炭やマキの上げ下ろし作業回数と運搬個数から、移動した総重量を計算し直しました。例えば、出荷作業においては、①倉庫内の置き場から台車に積む、②台車を押して運搬用の車まで移動する(約
200
㎏)、③台車から車に積み込む、④積み込んだ荷物の並び替え、⑤得意先に着き、車から台車に下す、⑥台車を押して配達先へ運ぶ、⑦配達先の納品場所に商品を納める、との手順になります。この場合、配達先へ
15
㎏の炭を
50
ケース運んだ場合、上肢にかかる重量負荷は
2,250
㎏となります。こうした作業は、同僚のCさんとの二人作業ですが、Cさんはフォークリフトに乗るため、手作業の割合は
4
対
6
の割合でAさんが多くなるのでした。
このようにして、入荷作業・配達作業・在庫整理など全ての作業内容についても、上肢への負担を数量で分かるように算出し直し、新たな資料として審査官に提出したのでした。
◆「作業実態は過重であった」
審査官は、「筋力を要する反復作業によって上肢等に負担がかかることからすれば、請求人及び代理人の考え方は妥当である」と判断し、提出した資料に基づき検討を行ったのでした。そして、「請求人の取扱重量比率をみた場合、平成
23
年
9
月が
41.9
%、
10
月が
61.4
%、
11
月が
34.3
%であり、平均すれば
45.8
%となり…他の従業員と比べ一人で相当の重量を取り扱っていることになり、とりわけ発症
1
ヵ月前の
10
月においては、
60
%を超える比率に至っている」「女性である請求人は、男性労働者の
1.5
倍の重量を取り扱っていることになる」と断定したのでした。
また、「平均の
20
%を超えた日数は
9
月で
8
日間、
10
月で
5
日間認められ、発症
6
日前の平成
23
年
11
月
2
日には、平均の
232
%増という突出した取扱重量が認められた。さらに発症日も
20
%増を超え、その後も
20
%増超えが
2
日間認められた。」と判断したのでした。そして、「過重な業務への就労と発症までの経過が、医学的妥当なものと認められる」として、「監督署長が請求人に対してなした不支給処分は妥当ではなく、取り消されるべきである」と結論したのでした。
審査官は、Aさんの一日当たりの平均作業量を約
4,595
㎏と確定しました。そして、発症前には
1
日で
10,704
㎏を手作業で運搬していたのです。この数値からも、男性労働者であっても過酷な労働であることは明確です。監督官が労働実態をしっかり把握し、運搬した個数計算ではなく、運搬した重量・回数に着目し調査していれば、ここまで苦労する必要はなかったでしょう。審査請求にあたり、Aさんは膨大な量の資料作成に挑みましたが、その頑張りが認定へとつながったといえます。発症から認定まで約
1
年半かかりましたが、仕事を離れAさんの体調が日ごとに回復しているのがなによりです。
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「労災申請したのですが認められませんでした。どうしたらいいのでしょうか?」と、Aさん(女性)からの相談電話が有ったのは、昨年の夏前でした。不支給となった理由を確認することと、諦めず審査請求ができることを説明し、センターとして協力することを伝えました。
Aさんは、当センターンのすぐ近くにあるB社に2009年7月に入社し、商品である炭やマキを販売する業務に就きました。炭は一箱が10㎏、12㎏、15㎏の種類が有り、マキも一束10㎏から12㎏の重さがあります。Aさんは、販売業務に伴い、炭やマキの入荷や出荷作業、在庫整理の作業にも従事していました。
2011年11月8日、Aさんは会社倉庫内で入荷した炭を運搬中に、右手に違和感を覚え、同時に右第5指の末関節周辺に激痛が走りました。その際は、捻挫か突き指程度と思い、そのまま放置していたところ、疼痛と痺れが激しくなり、近院を受診したところ「右肘部管症候群」と診断されました。その後受診した医院では「右胸郭出口症候群」と診断され、現在通院している診療所では「頚肩腕障害」と診断されたのでした。
そこで、神戸東労働基準監督署に労災申請したのですが、「特に過重な業務に就労したとは認められない」との理由で、不支給扱いとなったのでした。
◆神戸東署の調査方法
B社における炭・マキの運搬作業は、そのほとんどをAさんと同僚Cさん(男性)の二人で行っていました。1日の仕事の流れは、午前中は入荷した炭の荷卸しと整理作業、午後は1日に5件から10件ぐらいの得意先等への配達作業でした。
また、月に数回マキの入荷作業があり、週1回程度の倉庫内の整理作業、月1回の棚卸し作業がありました。同僚のCさんはフォークリフトを用いた移動作業を行いますが、Aさんは全て手作業で炭・マキを移動させていました。
監督署は、会社から提出があったAさんの発症前1年間の資料を基に業務量を検討しました。まず、Aさんの1年間の作業日数(出勤日数)を計算し、271日と確定しました。そして、月当たりの取り扱い数(箱数)を合計し、年間で49,685箱と断定しました。そのデーターを基に、Aさんの1ヵ月当たりの取り扱い個数を4,140個、一日当たりの取り扱い個数を183個であると、作業量の平均値を算出したのでした。
この平均値をもとに発症前6ヵ月間をみたとき、発症1ヵ月前については平均取扱数量を僅かに下回っているがほぼ平均取扱数量、1日当たりの取扱数量は発症5ヵ月前及び1ヵ月前についてはほぼ平均取扱数量となっていると判断したのでした。また、1日の業務量が概ね20%以上増加し、その状態が1ヵ月のうち10日値度認められ、この状態が3ヵ月程度継続していることは確認できないとし、不支給処分を決定したのでした。
◆作業実態に即して上肢への負担重量を算出
審査請求に当たり、Aさんの作業内容を詳しく聞き取りしました。すると、監督署の調査方法の不備が明らかになってきたのでした。つまり、監督署はAさんが運搬した箱数を持って判断しているのですが、実際の作業形態においては何度も炭の箱やマキを上げ下ろししたり、商品を台車にのせて押す作業や、無理な体制での運搬作業が見落とされていたのです。
そこで、Aさんの作業内容に沿って、炭やマキの上げ下ろし作業回数と運搬個数から、移動した総重量を計算し直しました。例えば、出荷作業においては、①倉庫内の置き場から台車に積む、②台車を押して運搬用の車まで移動する(約200㎏)、③台車から車に積み込む、④積み込んだ荷物の並び替え、⑤得意先に着き、車から台車に下す、⑥台車を押して配達先へ運ぶ、⑦配達先の納品場所に商品を納める、との手順になります。この場合、配達先へ15㎏の炭を50ケース運んだ場合、上肢にかかる重量負荷は2,250㎏となります。こうした作業は、同僚のCさんとの二人作業ですが、Cさんはフォークリフトに乗るため、手作業の割合は4対6の割合でAさんが多くなるのでした。
このようにして、入荷作業・配達作業・在庫整理など全ての作業内容についても、上肢への負担を数量で分かるように算出し直し、新たな資料として審査官に提出したのでした。
◆「作業実態は過重であった」
審査官は、「筋力を要する反復作業によって上肢等に負担がかかることからすれば、請求人及び代理人の考え方は妥当である」と判断し、提出した資料に基づき検討を行ったのでした。そして、「請求人の取扱重量比率をみた場合、平成23年9月が41.9%、10月が61.4%、11月が34.3%であり、平均すれば45.8%となり…他の従業員と比べ一人で相当の重量を取り扱っていることになり、とりわけ発症1ヵ月前の10月においては、60%を超える比率に至っている」「女性である請求人は、男性労働者の1.5倍の重量を取り扱っていることになる」と断定したのでした。
また、「平均の20%を超えた日数は9月で8日間、10月で5日間認められ、発症6日前の平成23年11月2日には、平均の232%増という突出した取扱重量が認められた。さらに発症日も20%増を超え、その後も20%増超えが2日間認められた。」と判断したのでした。そして、「過重な業務への就労と発症までの経過が、医学的妥当なものと認められる」として、「監督署長が請求人に対してなした不支給処分は妥当ではなく、取り消されるべきである」と結論したのでした。
審査官は、Aさんの一日当たりの平均作業量を約4,595㎏と確定しました。そして、発症前には1日で10,704㎏を手作業で運搬していたのです。この数値からも、男性労働者であっても過酷な労働であることは明確です。監督官が労働実態をしっかり把握し、運搬した個数計算ではなく、運搬した重量・回数に着目し調査していれば、ここまで苦労する必要はなかったでしょう。審査請求にあたり、Aさんは膨大な量の資料作成に挑みましたが、その頑張りが認定へとつながったといえます。発症から認定まで約1年半かかりましたが、仕事を離れAさんの体調が日ごとに回復しているのがなによりです。