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< 地震・石綿・マスク支援プロジェクト
地震・石綿・マスク支援プロジェクト
シンポジウム震災とアスベスト- 1.17から3.11へ
2013/01/12
◆概 要
阪神・淡路大震災から
18
年、東日本大震災からまもなく
2
年になろうとしている
1
月
12
日、神戸と宮城県石巻市を
2
元中継で結ぶ、シンポジウム「震災とアスベスト
―1.17
から
3.11
へ」を開催した。立命館アスベスト研究プロジェクトと
NPO
法人ひょうご労働安全衛生センターの主催で、石巻会場は東京労働安全衛生センターとアスベストセンターが担当。
2
会場で
240
人以上の参加者があった。神戸会場のロビーでは、マンガ「石の綿」の原画展を開催したが、多くの方が足を止めて見入っている姿が印象的であった。
◆作業員の8割が防じんマスク着用なし
はじめに、阪神・淡路大震災で倒壊建物物の解体や瓦礫の分別・運搬・処理などに従事した作業員に対してアンケートを行った立命館大学の南慎二郎研究員から報告があった。震災時に作業経験がある
128
名の内、防じんマスクを着用していたのは約
18
%しかなく、約
80
%は防じんマスクを着用していなかったと回答。ガーゼマスクやタオルの使用は約
55
%であった。
粉じん飛散状況でも、「非常に粉じんがひどかった」が約
27
%、「いつもほこりっぽかった」が約
47
%で、合わせると約
74
%にも上り、毎日、粉じんの舞う環境下での作業であったことが明らかとなった。南さんは、「厳密に震災ばく露と限定はできないが」と前置きをされ、「
6
名の方が、現在の呼吸器疾患に罹患し、アスベスト関連の所見があるとの回答があった。
20
名に
1
名の割合となる。復旧作業に従事したことにより呼吸器疾患の発症リスクが高まっており、東日本大震災の瓦礫を扱う復旧作業でも同様なことが想定される」と警鐘を鳴らした。
◆労働実態に迫るパネルディスカッション
倒壊した建物の解体や瓦礫処理等の復旧・復興作業に従事した労働者が、相次いで中皮腫を発症している。そこで、復旧作業といっても様々な業務があり、当時どの様な作業が行われていたのかを検証するパネルディスカッションを行った。
大工の
O
さんは、「太陽が霞むほど粉じんが舞っていた中で作業をしたことがある。大工の仕事は家を建てることだか、その前に壊れた家屋を解体しないといけない。アスベストの存在は知っていても、目の前にある建材の含有物まで知る由もない。どうするわけにもいかなかった」と当時を振り話された。また、港湾労働者の
T
さんからは、「市街地からの運ばれた瓦礫を、
24
時間体制で、ポートアイランドの二期処分地
(
現在の先端医療センターの地区
)
で分別、破砕・粉砕・焼却する作業に従事した」と話された。「大量の廃材等の瓦礫を早く処理するため、パワーシャベル等の重機を使い破砕・粉砕を行い、手作業で分別した」と話された。煤煙や粉じんは、
50m
ほど離れた場所に設けられた仮設現場事務所の食堂のテーブルの上が真っ白になるほどだったと報告があった。
さらに、明石市職労の
Y
さんからは、ゴミ収集における粉じん作業の生々しい実態が話された。「震災直後から、清掃車で市内を走り回り、家庭系のごみ以外にも壊れた建材やスレート材などの瓦礫も収集した」「清掃車の回転板で瓦礫を破壊しながら収集するため、大量の粉じんが舞い上がる状況だった」「収集したゴミが重いので、作業員がパッカー車の収納スペースに潜り込み、スコップで瓦礫を掻き出していた」「使い捨てのマスクを
2
枚重ねても鼻の中まで真っ黒になった」と報告された。
そして、「今、同僚が中皮腫で苦しんでいる。震災復旧での瓦礫処理しかばく露歴が見当たらない。行政にしっかりと対策を講じてほしい。私たちは危険性を知らされていなかった。知らなかった」と涙ながらに訴えられた。
最後に、震災後の解体現場での監督業務に従事し、中皮腫発症を発症し労災認定された芦屋市の
G
さんから報告があった。「重機で建物を崩す度にものすごい粉じんが舞いあがり、放水作業をしていた私にも粉じんが容赦なく押し寄せ、全身が真っ白になった」「震災後はスピードが一番に要求され、安全性を声高に主張することは、復興のスピートを遅らせることになるという雰囲気があった」「アスベストがこれ程恐ろしいものと知っていれば万全の装備をしていた。東日本被災地で復旧作業に携わっている方には、万全の装備をしてほしい」と体験を交えて話された。
◆リスク試算―石綿死200万人中30人
震災時の労働実態の報告をうけ、国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センターの寺園淳室長より「阪神・淡路大震災におけるアスベスト飛散実態の検証」と題して基調講演が行われた。震災後の
1995
年
2
月から、環境庁は
17
地点で一般大気中の石綿濃度の調査を行い、最大で大気
1
リットル中石綿繊維が
6
本検出されたと報告されている。しかし、
NGO
の調査では解体現場近くで
160
本から
240
本の石綿が確認されており、大きな隔たりがある。
寺園室長によると、
1
リットル中
1
本の石綿繊維を
75
年間吸い続けると、
10
万人当たり
22
人の死亡リスクがあるといわれ、これを基に阪神淡路大震災のアスベスト被害状況を算出すると、
200
万人中
30
人のリスクがあると提言された。ただ、倒壊建物の解体・撤去作業などに従事した労働者は、大量にアスベストにばく露している可能性があり、「一般大気よりも健康被害を受けやすく、別途検討する必要がある」と注意を呼びかけられた。
◆東日本大震災被災のアスベスト問題
第
2
部は、「阪神淡路の教訓から東日本大震災の課題を考える」をテーマに、パネルディスカッションを行った。パネラーは、東京労働安全衛生センターの外山尚紀さん、河北新報石巻総局長の大江秀則さん、立命館大学教授の石原一彦さん、石巻赤十字病院の矢内勝医師の
4
名で、伊藤明子弁護士のコーディネートにより進められた。
インターネットを使い神戸と石巻会場をつなぐ
2
元中継での企画であったが、音響機器に不具合が発生したため、聞き取りにくい時間が続き、参加者には大変申し訳なかった。外山さんからは、「被災地におけるアスベスト飛散の現状と対策」について報告があり、「大気中のアスベスト濃度は最も高いところでも国の基準を下回ったものの、解体作業でむき出しのアスベストが散乱していた場所があった」「解体にあたっては、事前に建物のアスベスト含有調査を行うことや、粉じんを確実に防ぐマスクの着用を徹底させる必要がある」と訴えられた。
大江さんからは、「被災地の復旧状況と今後の課題」について報告があり、「自宅再建との兼ね合いで、解体の結論を出しかねる住民も多く、ましてや水没地域では状況確認もままならなず、解体作業が長期化している」「石巻地方のガレキ処理は
3
割程度にとどまっている」との現状が話され、長期的な視点での粉じん対策の必要性が訴えられた。矢内医師からは、「被災地で多発する呼吸器疾患の課題」に関して報告が行われた。震災後
1
週間で
4,000
人の救急患者が来院した石巻赤十字病院では、肺炎を含む呼吸器疾患の患者が多数を占めた。患者の約半数は避難所で暮らす方で、避難生活による活動性の低下が肺炎の要因ではないかと指摘された。また、震災後に喫煙を再開する人が増えており、将来的に粉じん対策とともに禁煙・防煙対策が重要であると訴えられた。
神戸会場の石原一彦教授は、阪神淡路のアスベスト問題の教訓として、①環境省計測だけでは、解体現場近くのアスベスト濃度がわからない、②被災建物のアスベスト含有実態が確実に把握されていない、③平時からのアスベスト対策が重要、と訴えられた。そして、東日本の被災地においてはまだまだアスベスト被害への理解が広がっておらず、数多くのボランティアや瓦礫処理に携わる労働者の健康への影響を懸念された。
◆誰でもがばく露する危険性がある
ディスカッションでは、たった
2
ヵ月間の瓦礫処理で中皮腫を発症し労災認定された方の遺族が、東北で作業に従事する人たちに向け、マイクを握った。「今日、私は、東北の被災地の方々に、主人のようになってほしくないと言いたくて、会場に来させていただきました。病気は自分持ちです。アスベストの病気は、何年後かに発症するとされるだけに、被災地で復興作業に従事されている方は、自分の身体は自分で守って下さい」と訴えられた。
また、昨年
10
月に中皮腫で亡くなられた直木賞作家・藤本義一さんの長女である
N
さんは、「父の中皮腫のばく露歴がわかりません。もしかしたら、震災の時に被災地を走り回ってボランティア活動を行っていたので、それが原因かもしれない」と話され、「ガレキ作業に携わっている人だけの問題はなく、その周辺の人や家族の人にも影響があります。アスベストはどこにでも使用されています。誰でもがばく露する危険性があります。どうぞ、健診を受けてください。」と訴えられた。
◆マスクプロジェクトからの提案
最後に、神戸大学の大学院生により、取り組みを進めているマスクプロジェクトについての説明と、アスベスト用マスクの正しい装着方法の実演が行われた。参加者からは、「いつどこで地震は発生するかわかりませんから、すぐ使用出来るように各自が防じんじんマスクを準備するべきだと思います。大学生がというのも新鮮でした。これから世の中を背負って行く若い方々が関心を持って取り組んでいる姿が素晴らしく頼もしく思いました。」との感想が寄せられていた。
◆復旧・復興作業の実態から健康対策へ
阪神淡路大震災の復旧・復興作業に従事された労働者が、相次いで中皮腫を発症している事態を受け、当時の作業実態を検証し、その教訓を東日本大震災の被災地に活かすことが今回の目的であった。この検証作業は始まったばかりであり、我々が問題意識を持ち主体的に取り組む以外に明らかにならない事実があることを、改めて認識することとなった。
石巻会場には、市民の方や、実際に復旧・復興作業に従事されている方など約
40
人もの参加があり、アスベストや粉じんに関心を持っておられることがわかった。音響の不備で、石巻会場に神戸の教訓がどれだけ伝わったか気がかりであるが、継続して取り組む必要を感じている。被災地では復興が最優先され、発症まで数十年かかる石綿対策はなおざりになってしまう恐れがある。原発事故に伴う放射能汚染だけでなく、瓦礫に含まれる粉じんに命を侵すアスベストが潜んでいることを伝えなければならない。石綿禍が身近にあること、「復興災害」とも言える神戸の現実を、将来の東北で起きる予言にしてはならない。
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阪神・淡路大震災から18年、東日本大震災からまもなく2年になろうとしている1月12日、神戸と宮城県石巻市を2元中継で結ぶ、シンポジウム「震災とアスベスト―1.17から3.11へ」を開催した。立命館アスベスト研究プロジェクトとNPO法人ひょうご労働安全衛生センターの主催で、石巻会場は東京労働安全衛生センターとアスベストセンターが担当。
2会場で240人以上の参加者があった。神戸会場のロビーでは、マンガ「石の綿」の原画展を開催したが、多くの方が足を止めて見入っている姿が印象的であった。
◆作業員の8割が防じんマスク着用なし
はじめに、阪神・淡路大震災で倒壊建物物の解体や瓦礫の分別・運搬・処理などに従事した作業員に対してアンケートを行った立命館大学の南慎二郎研究員から報告があった。震災時に作業経験がある128名の内、防じんマスクを着用していたのは約18%しかなく、約80%は防じんマスクを着用していなかったと回答。ガーゼマスクやタオルの使用は約55%であった。
粉じん飛散状況でも、「非常に粉じんがひどかった」が約27%、「いつもほこりっぽかった」が約47%で、合わせると約74%にも上り、毎日、粉じんの舞う環境下での作業であったことが明らかとなった。南さんは、「厳密に震災ばく露と限定はできないが」と前置きをされ、「6名の方が、現在の呼吸器疾患に罹患し、アスベスト関連の所見があるとの回答があった。20名に1名の割合となる。復旧作業に従事したことにより呼吸器疾患の発症リスクが高まっており、東日本大震災の瓦礫を扱う復旧作業でも同様なことが想定される」と警鐘を鳴らした。
◆労働実態に迫るパネルディスカッション
倒壊した建物の解体や瓦礫処理等の復旧・復興作業に従事した労働者が、相次いで中皮腫を発症している。そこで、復旧作業といっても様々な業務があり、当時どの様な作業が行われていたのかを検証するパネルディスカッションを行った。
大工のOさんは、「太陽が霞むほど粉じんが舞っていた中で作業をしたことがある。大工の仕事は家を建てることだか、その前に壊れた家屋を解体しないといけない。アスベストの存在は知っていても、目の前にある建材の含有物まで知る由もない。どうするわけにもいかなかった」と当時を振り話された。また、港湾労働者のTさんからは、「市街地からの運ばれた瓦礫を、24時間体制で、ポートアイランドの二期処分地(現在の先端医療センターの地区)で分別、破砕・粉砕・焼却する作業に従事した」と話された。「大量の廃材等の瓦礫を早く処理するため、パワーシャベル等の重機を使い破砕・粉砕を行い、手作業で分別した」と話された。煤煙や粉じんは、50mほど離れた場所に設けられた仮設現場事務所の食堂のテーブルの上が真っ白になるほどだったと報告があった。
さらに、明石市職労のYさんからは、ゴミ収集における粉じん作業の生々しい実態が話された。「震災直後から、清掃車で市内を走り回り、家庭系のごみ以外にも壊れた建材やスレート材などの瓦礫も収集した」「清掃車の回転板で瓦礫を破壊しながら収集するため、大量の粉じんが舞い上がる状況だった」「収集したゴミが重いので、作業員がパッカー車の収納スペースに潜り込み、スコップで瓦礫を掻き出していた」「使い捨てのマスクを2枚重ねても鼻の中まで真っ黒になった」と報告された。
そして、「今、同僚が中皮腫で苦しんでいる。震災復旧での瓦礫処理しかばく露歴が見当たらない。行政にしっかりと対策を講じてほしい。私たちは危険性を知らされていなかった。知らなかった」と涙ながらに訴えられた。
最後に、震災後の解体現場での監督業務に従事し、中皮腫発症を発症し労災認定された芦屋市のGさんから報告があった。「重機で建物を崩す度にものすごい粉じんが舞いあがり、放水作業をしていた私にも粉じんが容赦なく押し寄せ、全身が真っ白になった」「震災後はスピードが一番に要求され、安全性を声高に主張することは、復興のスピートを遅らせることになるという雰囲気があった」「アスベストがこれ程恐ろしいものと知っていれば万全の装備をしていた。東日本被災地で復旧作業に携わっている方には、万全の装備をしてほしい」と体験を交えて話された。
◆リスク試算―石綿死200万人中30人
震災時の労働実態の報告をうけ、国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センターの寺園淳室長より「阪神・淡路大震災におけるアスベスト飛散実態の検証」と題して基調講演が行われた。震災後の1995年2月から、環境庁は17地点で一般大気中の石綿濃度の調査を行い、最大で大気1リットル中石綿繊維が6本検出されたと報告されている。しかし、NGOの調査では解体現場近くで160本から240本の石綿が確認されており、大きな隔たりがある。
寺園室長によると、1リットル中1本の石綿繊維を75年間吸い続けると、10万人当たり22人の死亡リスクがあるといわれ、これを基に阪神淡路大震災のアスベスト被害状況を算出すると、200万人中30人のリスクがあると提言された。ただ、倒壊建物の解体・撤去作業などに従事した労働者は、大量にアスベストにばく露している可能性があり、「一般大気よりも健康被害を受けやすく、別途検討する必要がある」と注意を呼びかけられた。
◆東日本大震災被災のアスベスト問題
第2部は、「阪神淡路の教訓から東日本大震災の課題を考える」をテーマに、パネルディスカッションを行った。パネラーは、東京労働安全衛生センターの外山尚紀さん、河北新報石巻総局長の大江秀則さん、立命館大学教授の石原一彦さん、石巻赤十字病院の矢内勝医師の4名で、伊藤明子弁護士のコーディネートにより進められた。
インターネットを使い神戸と石巻会場をつなぐ2元中継での企画であったが、音響機器に不具合が発生したため、聞き取りにくい時間が続き、参加者には大変申し訳なかった。外山さんからは、「被災地におけるアスベスト飛散の現状と対策」について報告があり、「大気中のアスベスト濃度は最も高いところでも国の基準を下回ったものの、解体作業でむき出しのアスベストが散乱していた場所があった」「解体にあたっては、事前に建物のアスベスト含有調査を行うことや、粉じんを確実に防ぐマスクの着用を徹底させる必要がある」と訴えられた。
大江さんからは、「被災地の復旧状況と今後の課題」について報告があり、「自宅再建との兼ね合いで、解体の結論を出しかねる住民も多く、ましてや水没地域では状況確認もままならなず、解体作業が長期化している」「石巻地方のガレキ処理は3割程度にとどまっている」との現状が話され、長期的な視点での粉じん対策の必要性が訴えられた。矢内医師からは、「被災地で多発する呼吸器疾患の課題」に関して報告が行われた。震災後1週間で4,000人の救急患者が来院した石巻赤十字病院では、肺炎を含む呼吸器疾患の患者が多数を占めた。患者の約半数は避難所で暮らす方で、避難生活による活動性の低下が肺炎の要因ではないかと指摘された。また、震災後に喫煙を再開する人が増えており、将来的に粉じん対策とともに禁煙・防煙対策が重要であると訴えられた。
神戸会場の石原一彦教授は、阪神淡路のアスベスト問題の教訓として、①環境省計測だけでは、解体現場近くのアスベスト濃度がわからない、②被災建物のアスベスト含有実態が確実に把握されていない、③平時からのアスベスト対策が重要、と訴えられた。そして、東日本の被災地においてはまだまだアスベスト被害への理解が広がっておらず、数多くのボランティアや瓦礫処理に携わる労働者の健康への影響を懸念された。
◆誰でもがばく露する危険性がある
ディスカッションでは、たった2ヵ月間の瓦礫処理で中皮腫を発症し労災認定された方の遺族が、東北で作業に従事する人たちに向け、マイクを握った。「今日、私は、東北の被災地の方々に、主人のようになってほしくないと言いたくて、会場に来させていただきました。病気は自分持ちです。アスベストの病気は、何年後かに発症するとされるだけに、被災地で復興作業に従事されている方は、自分の身体は自分で守って下さい」と訴えられた。
また、昨年10月に中皮腫で亡くなられた直木賞作家・藤本義一さんの長女であるNさんは、「父の中皮腫のばく露歴がわかりません。もしかしたら、震災の時に被災地を走り回ってボランティア活動を行っていたので、それが原因かもしれない」と話され、「ガレキ作業に携わっている人だけの問題はなく、その周辺の人や家族の人にも影響があります。アスベストはどこにでも使用されています。誰でもがばく露する危険性があります。どうぞ、健診を受けてください。」と訴えられた。
◆マスクプロジェクトからの提案
最後に、神戸大学の大学院生により、取り組みを進めているマスクプロジェクトについての説明と、アスベスト用マスクの正しい装着方法の実演が行われた。参加者からは、「いつどこで地震は発生するかわかりませんから、すぐ使用出来るように各自が防じんじんマスクを準備するべきだと思います。大学生がというのも新鮮でした。これから世の中を背負って行く若い方々が関心を持って取り組んでいる姿が素晴らしく頼もしく思いました。」との感想が寄せられていた。
◆復旧・復興作業の実態から健康対策へ
阪神淡路大震災の復旧・復興作業に従事された労働者が、相次いで中皮腫を発症している事態を受け、当時の作業実態を検証し、その教訓を東日本大震災の被災地に活かすことが今回の目的であった。この検証作業は始まったばかりであり、我々が問題意識を持ち主体的に取り組む以外に明らかにならない事実があることを、改めて認識することとなった。
石巻会場には、市民の方や、実際に復旧・復興作業に従事されている方など約40人もの参加があり、アスベストや粉じんに関心を持っておられることがわかった。音響の不備で、石巻会場に神戸の教訓がどれだけ伝わったか気がかりであるが、継続して取り組む必要を感じている。被災地では復興が最優先され、発症まで数十年かかる石綿対策はなおざりになってしまう恐れがある。原発事故に伴う放射能汚染だけでなく、瓦礫に含まれる粉じんに命を侵すアスベストが潜んでいることを伝えなければならない。石綿禍が身近にあること、「復興災害」とも言える神戸の現実を、将来の東北で起きる予言にしてはならない。