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パワハラ・うつ病・精神疾患
石綿肺を苦に自死 労災不支給処分の取消し訴訟
岡山地裁 労災と認める
2012/10/20
石綿肺を発症した夫がうつ病となり自死したのは、闘病苦が原因であると労基署の労災不支給処分の取り消しを求めた訴訟の判決が、
9
月
26
日に岡山地裁であった。古田裁判長は「
10
年以上にわたる症状悪化や石綿疾患による同僚らの死で心理的ストレスが過重だった」と認め、遺族補償年金の不支給処分を取り消した。その後、国は控訴を断念し、判決が確定した。
◆患者と家族の会の相談会から
私たちがご遺族のAさんと最初にお会いしたのは、
2008
年
6
月でした。アスベスト・患者と家族の会岡山支部が取り組んだ相談会に来られたAさんから、「石綿肺(じん肺管理区分
4
)に罹患し、労災補償給付を受給していた夫が自殺した件について、遺族補償年金を請求したところ不支給となった」との、相談を受けたのがはじまりでした。
Aさんのご主人は、建材メーカーの社員として、
1959
年から
1978
年までアスベストの吹付け作業に従事しました。そのため石綿肺を発症し、
1995
年に管理区分
2
の決定を受け、
1996
年に管理区分
3
イの決定を受け、
2002
年には続発性気管支炎を合併し労災と認定されたのでした。その際に、「いよいよ来たか」「アスベストで入院したら大体
1
年半でおわりじゃ」と言い、元気がなくなり、同時期にうつ病と診断されたのでした。
その後も石綿肺の症状は悪化し、
2006
年には良性石綿胸水と診断され、
2007
年
1
月には管理区分
4
となり、さらに肺炎と続発性気胸を発症し入院したのでした。そして
5
月、「もうこれ以上耐えられない。弱い父親で申しわけない」「これ以上生きていてもお母さんに大変負担をかけるばかりだ」との遺書を記し、自死されたのでした。
◆短期間の出来事で判断する指針の不備
倉敷労働基準監督署は、Aさんの遺族補償年金・葬祭料の請求に対して、「精神障害発症
6
ヵ月の間に、石綿肺の重症化等の変化がみられない」とし、「自殺直前まで症状の急変等の特別な出来事は認められず、自殺直前においても総合評価が「強」となる程の心理的負荷は認められない」と判断し、不支給決定処分を行ったのでした。監督署の判断は、労災と認定された
2002
年の時点からうつ病を発症していたが、自殺時まで治癒することなく症状も継続していたと判断し、心理的負荷の総合評価は「中」であるとしたのでした(「強」にならないと労災と認められない)。
そのため、不支給決定処分の取り消しを求め審査請求を行いましたが棄却され、再審査請求も棄却されました。そこで、過労死弁護団の松丸先生と生越先生の協力を得て、
2010
年
2
月に岡山地裁に提訴したのでした。
人間は母親の胎内から生み出された瞬間から呼吸を開始し、呼吸と共に成長してゆくと言っても過言ではありません。呼吸という人間の存在に必須の行為がおびやかされた時、人間は存在を危うくさせる病気におののき、激しい恐怖を抱きます。
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時間絶えず続く呼吸に障害を持つということは、人間としての存在が危ういということの象徴であり、その状態が続けばストレス状態となって体調の不調や精神的な落ち込み、抑うつ状態を招いてもなんら不思議はありません。呼吸に不具合があると絶えず死との隣り合わせの感情を持ち、生きる希望、将来への不安感、孤独、悲哀感を持つことはじん肺患者、とりわけ中皮腫・肺がん等、死に直結する合併症を高率で発症させる石綿肺患者にとっては当然のことです。
提訴にあたりAさんは、「夫が自殺せずにそのまま石綿の病気で亡くなっていたら問題なく労災が出るのに、うつ病になって自殺したら労災が出ないということには納得がいきません。夫の自殺について労災を否定する国側の感覚は社会から見ると全く外れている」と思いを語っていました。
◆長期的な視点で総合的に判断すべき
「
10
年以上の期間にわたり続く咳や痰の症状や、次第に悪化していく息切れなどの症状は、心理的負荷を与え続け、かつその心理的負荷は次第に大きくなっていったものということができる。
悲惨な姿で死んでいった同僚らの姿を通じて認識せざるを得ない状況にあり、石綿肺の症状が悪化していく度に、一生続くであろう苦しみや死に対する恐怖を強く感じていたというべきである」と指摘し、「継続するだけでなく次第に悪化していく石綿肺の病状や、石綿肺が与える死への恐怖等に鑑みれば、石綿肺の短期間での顕著な重症化等がないことをもって、石綿肺の症状等による心理的負荷が強度のものでなかったということはできない」とし、「本件処分は違法であるから、取り消されるべきである」と結論付けました。
つまり、悪化し続ける石綿肺の進行性を踏まえ、石綿肺発症からうつ病発症、自殺までを一連の過程と捉え、徐々に迫る死への恐怖を長期的な視点で総合的に受け止め判断すべきとの見解が示されたのです。また、判決は事実を一つ一つ積み重ねる形で書かれており、精神疾患の認定基準に関する評価は無く、ごくごく当たり前の「シンプルな判決」文でした。闘病苦で自殺に至るケースは多くありますが、遺族が訴訟をためらうことも多く、被害の実態は埋もれていると思われます。そうしたことからも、今回の判決は救済につながりますし、精神疾患の業務上外の判断においては
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ヵ月に限定せず、長期的な視点で総合的に判断することが必要であると警鐘を鳴らしています。
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◆患者と家族の会の相談会から
私たちがご遺族のAさんと最初にお会いしたのは、2008年6月でした。アスベスト・患者と家族の会岡山支部が取り組んだ相談会に来られたAさんから、「石綿肺(じん肺管理区分4)に罹患し、労災補償給付を受給していた夫が自殺した件について、遺族補償年金を請求したところ不支給となった」との、相談を受けたのがはじまりでした。
Aさんのご主人は、建材メーカーの社員として、1959年から1978年までアスベストの吹付け作業に従事しました。そのため石綿肺を発症し、1995年に管理区分2の決定を受け、1996年に管理区分3イの決定を受け、2002年には続発性気管支炎を合併し労災と認定されたのでした。その際に、「いよいよ来たか」「アスベストで入院したら大体1年半でおわりじゃ」と言い、元気がなくなり、同時期にうつ病と診断されたのでした。
その後も石綿肺の症状は悪化し、2006年には良性石綿胸水と診断され、2007年1月には管理区分4となり、さらに肺炎と続発性気胸を発症し入院したのでした。そして5月、「もうこれ以上耐えられない。弱い父親で申しわけない」「これ以上生きていてもお母さんに大変負担をかけるばかりだ」との遺書を記し、自死されたのでした。
◆短期間の出来事で判断する指針の不備
倉敷労働基準監督署は、Aさんの遺族補償年金・葬祭料の請求に対して、「精神障害発症6ヵ月の間に、石綿肺の重症化等の変化がみられない」とし、「自殺直前まで症状の急変等の特別な出来事は認められず、自殺直前においても総合評価が「強」となる程の心理的負荷は認められない」と判断し、不支給決定処分を行ったのでした。監督署の判断は、労災と認定された2002年の時点からうつ病を発症していたが、自殺時まで治癒することなく症状も継続していたと判断し、心理的負荷の総合評価は「中」であるとしたのでした(「強」にならないと労災と認められない)。
そのため、不支給決定処分の取り消しを求め審査請求を行いましたが棄却され、再審査請求も棄却されました。そこで、過労死弁護団の松丸先生と生越先生の協力を得て、2010年2月に岡山地裁に提訴したのでした。
人間は母親の胎内から生み出された瞬間から呼吸を開始し、呼吸と共に成長してゆくと言っても過言ではありません。呼吸という人間の存在に必須の行為がおびやかされた時、人間は存在を危うくさせる病気におののき、激しい恐怖を抱きます。24時間絶えず続く呼吸に障害を持つということは、人間としての存在が危ういということの象徴であり、その状態が続けばストレス状態となって体調の不調や精神的な落ち込み、抑うつ状態を招いてもなんら不思議はありません。呼吸に不具合があると絶えず死との隣り合わせの感情を持ち、生きる希望、将来への不安感、孤独、悲哀感を持つことはじん肺患者、とりわけ中皮腫・肺がん等、死に直結する合併症を高率で発症させる石綿肺患者にとっては当然のことです。
提訴にあたりAさんは、「夫が自殺せずにそのまま石綿の病気で亡くなっていたら問題なく労災が出るのに、うつ病になって自殺したら労災が出ないということには納得がいきません。夫の自殺について労災を否定する国側の感覚は社会から見ると全く外れている」と思いを語っていました。
◆長期的な視点で総合的に判断すべき
「10年以上の期間にわたり続く咳や痰の症状や、次第に悪化していく息切れなどの症状は、心理的負荷を与え続け、かつその心理的負荷は次第に大きくなっていったものということができる。
悲惨な姿で死んでいった同僚らの姿を通じて認識せざるを得ない状況にあり、石綿肺の症状が悪化していく度に、一生続くであろう苦しみや死に対する恐怖を強く感じていたというべきである」と指摘し、「継続するだけでなく次第に悪化していく石綿肺の病状や、石綿肺が与える死への恐怖等に鑑みれば、石綿肺の短期間での顕著な重症化等がないことをもって、石綿肺の症状等による心理的負荷が強度のものでなかったということはできない」とし、「本件処分は違法であるから、取り消されるべきである」と結論付けました。
つまり、悪化し続ける石綿肺の進行性を踏まえ、石綿肺発症からうつ病発症、自殺までを一連の過程と捉え、徐々に迫る死への恐怖を長期的な視点で総合的に受け止め判断すべきとの見解が示されたのです。また、判決は事実を一つ一つ積み重ねる形で書かれており、精神疾患の認定基準に関する評価は無く、ごくごく当たり前の「シンプルな判決」文でした。闘病苦で自殺に至るケースは多くありますが、遺族が訴訟をためらうことも多く、被害の実態は埋もれていると思われます。そうしたことからも、今回の判決は救済につながりますし、精神疾患の業務上外の判断においては6ヵ月に限定せず、長期的な視点で総合的に判断することが必要であると警鐘を鳴らしています。