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医療用手袋に付着したアスベストが原因で中皮腫を発症したとして、山口労働基準監督署に労災申請を行っていたKさんの元に、7月末労災認定の通知が届いた。医療従事者が手袋に付着したアスベストにばく露し、労災認定されたのは全国初である。
◆医療用ゴム手袋を再利用
山口県に住む准看護師のKさんは、1980年から2009年までの約16年間に4つの病院で勤務しました。その中の一つの産婦人科では、手術用ゴム手袋をガス滅菌して再利用していました。新任の看護師であったAさんは、様々な雑用も指示され、ゴム手袋の洗浄と滅菌作業もその一つでした。
以前は、医療用のゴム手袋をガス滅菌したうえで、再利用している病院が多くありました。再利用するための作業工程において、「打ち粉」としてタルクが使用されており、そのタルクにはアスベストが混入していたのです。
◆タルクに混入していたアスベスト
タルクとは滑石ともよばれる白い石です。産業用には原石を粉砕して非常に細かい粉にして使用することが多く、ゴム製造、製紙、農薬・医療品製造、化粧品製造など多くの分野で利用されています。また、ベビーパウダーや「おしろい」は、まさにタルクそのものです。白い色をしているので顔料などにも使用されています。
1986年10月、NHKがベビーパウダーに用いられるタルクにアスベストが混入していることを報じ、当時社会問題化しました。1975年の神山宣彦教授の報告によると、7社のベビーパウダーを分析したところ、5社から最高1.8%のアスベスト(クリソタイル)が検出されています。主要な輸入元である中国のタルク8種中5種類に、また韓国・朝鮮産のタルク5種中3種類からもクリソタイルが検出されたと報告されていました。
そのため厚生省(当時)は、1987年11月に「ベビーパウダーに用いられるタルク中のアスベスト試験法」を公表し、タルクにアスベストが混入しないための対策を取ってきました。しかし、それ以前のタルクには、アスベストが混入して可能性が高いのです。
◆「どこで吸ったのか分からない」
2010年11月、山口県宇部市で開かれた「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の集いに参加されたKさんは、「どこでアスベストを吸ったのか分からない」と訴えられ、その時から家族の会と一緒に労災申請の準備を進めたのでした。「粉っぽいものを使ったことは有りませんでしたか?」との問いかけに、Kさんは産婦人科で働いていた時に手袋を再利用する作業に従事した記憶がよみがえったのでした。
大阪府内で開業している医師に相談したところ、「1982年にE大学病院に入った当時、タルクは医療材料として使用されていた。胸水貯留した患者にはタルクを使用して胸水の増幅を防いだ。その際は高熱を発する事も有ったが、効果的手法として一般的に行われた。」「医療用ゴム手袋を再利用する際に、手袋を洗浄・乾燥した後にタルクを散布していた。その頃使用したタルクは紙袋に入っていた。一袋は500g位だったと思う。」「必要な時は“タルク粉末”といって注文していた。タルクは多くの医療現場で使用されていた。」との証言を得ることができました。Kさんは看護師としての仕事以外には就いておらず、居住歴を調査しても近隣にアスベスト製品を製造・加工する工場もなく、調査を進めた結果、タルクに混入していたアスベストにばく露したことが判明し、昨年(2011年)月に山口労働基準監督署に労災申請を行ったのでした。
今回の事例は全国でも初めてのケースであり、山口署は厚労省の専門検討会に判断をゆだねることとなり、数回の検討会を経て、6月22日の検討会において業務上との判断が行われたのでした。日本において、手袋に付着したアスベストにばく露し、アスベスト疾患を発症し、労災認定される医療者は初めてです。
◆ゴム手袋のガス滅菌作業の手順
労災認定を受け、8月27日に関西労働者安全センターにおいて記者会見を行いました。会見ではKさん自らが、ゴム手袋にタルクをまぶす作業を再現しました。手順は以下のとおりです。①使用済みのゴム手袋を水洗いする。②乾燥させる(吊るして干す)。③手袋を大きなビニール袋(家庭用ゴミ袋)に入れ、その中に大さじ3杯程度の「打ち粉」を入れ、ビニール袋の口を閉じ、打ち粉が万遍なくビニール手袋に付着するように大きく振って混ぜる。④ビニール袋の口を開けて手袋を取り出す。
記者会見の場でも、大きく振ったビニール袋を空けたとたんに白い粉がぶわっと顔に向かい舞いあがる様子がハッキリと分かりました。また、Kさんの手も真っ白になっており、この作業を小さな部屋でおこなうと、室内に粉が充満していた様子が手に取るようにわかりました。タルクをまぶした手袋は、ビニール袋にいれて2~3ヵ月程度ガス滅菌を行っていたそうです。こうした作業は、1週間に2回ぐらい行っていたとのことで、手袋が5・6組~10組程度溜まった都度行っていたそうです。
◆医療関係者の石綿労災認定事例
Kさんは、「労災と認定され、これまでの『なぜ』という疑問が解けて、胸がいっぱいです。」「タルクで顔が真っ白になる状態で仕事をしていましたが、中皮腫になるまで、石綿の存在もこの病気も、自分に関わりがあるとは思っていませんでした。」
「私の労災認定をきっかけに、多くの人がアスベストや中皮腫に関心を持って欲しい。私と同じ状況にいる人がタルクの使用に気づき、労災認定につながればと思います。」と話されていました。
日本の医療関係者の労災事例は、厚生労働省が公表した石綿労災認定事業所名においても、10数例が既にあります。歯科技工士・歯科医では、義歯作成時の石綿リボンやタルクの使用によるアスベストばく露です。吹付けのある部屋の作業とされている事例は、機械室等で勤務された職員と思われます。
世界では外科医が手袋のタルクで中皮腫となった報告は過去にあったとのこと。日本の医療者が手袋のタルクにより中皮腫を発症し労災認定されたのは今回初めてです。今回の手袋のタルク以外に、歯科の石綿リボン・タルク、その他の石綿製品からの飛散もあるので、今後医療関係者もアスベスト被害の対象者であることを認識し、是非注意してほしいと思います。そして、過去にタルクを使用した方々についても、注意をして欲しいと思います。