NPO法人 ひょうご労働安全衛生センター

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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

2ヵ月間のガレキ処理で悪性胸膜中皮腫を発症 労災認定

2012/09/20
◆概要

阪神淡路大震災直後の2月~3月までの約2ヵ月間、建設会社においてアルバイトとしてガレキの撤去・片付け作業に従事され胸膜中皮腫を発症された方の労災請求について、810日付けで西宮労働基準監督署は業務上との認定を行いました。また、神戸東署においても、震災後の約3年間ガレキ処理作業に従事され、胸膜中皮腫を発症された方の労災請求について、業務上との認定を行った事が明らかとなりました。


◆どこで接触したのか解らない

宝塚市に住むAさん(65歳)は、2010年の年末に市民病院を受診したところ異常を指摘され、紹介された大学病院で悪性胸膜中皮腫であると告げられました。医師からは「アスベストが原因の病気」と言われたのですが、ご本人はどこでアスベストに接触したのか全く記憶に有りませんでした。

Aさんの娘さんから当センターに連絡が入ったのは、201127日でした。さっそくお家に伺い職歴についてお話を聞いたのですが、学校を卒業されてから約9年間は流通業で衣類の営業の仕事をされていたとのこと。その後も、独立され、自営で衣料品の販売を続けてこられたとのことでした。ただ、阪神淡路大震災で仕事ができなくなり、約2ヵ月間だけ建築会社でアルバイトとしてガレキの撤去・片付け作業に従事したとのことでした。


◆僅か2ヵ月だが高濃度ばく露

まず、流通業の会社建物の調査を始めました。長く勤められた営業所は、阪神淡路大震災により倒壊し、取り壊されていました。会社の協力を得て、設計図(仕上表等)を確認しましたがアスベストが使用されていた形跡はありませんでしたし、建築と解体を行った業者に確認してもアスベストの吹付けは無かったと証言されました。Aさんご自身も、「営業の仕事なので出勤時と退勤時以外は建物の外に居た」と話されていました。

そこで、震災後にアルバイトをされた建築会社の社長さんにお話を聞きました。Aさんの作業内容は、主に被災・破損した建物の屋根瓦や廃材の片づけ作業で、被災したマンションの部屋の補修や改修工事で出た廃材の片づけ作業や清掃作業に従事したと証言されました。

Aさんご自身も、「本職とは畑違いの職種でしたから、ほとんど現場での片付け作業が主でした。」「特に埃や粉じんが凄かったのは、マンションの改修工事でした。元々あるマンションを改造する工事でしたので、部屋内に凄い量の埃と粉が舞う状況だったことを覚えています。壁や天井を剥がして解体し、新しく作り直すという作業工事でした。」「狭い作業環境の中で、職人の方たちが、電気ノコギリを使って材料等を加工していましたので、かなりの量の埃や粉が舞う状況の中で作業したのを覚えています。」「作業現場の近くにおいて、重機を用いて倒壊した建物の解体、撤去作業が行われていたことを記憶しています。」と話されました。

調査を進める中で、本人の記憶も少しずつ蘇り、僅か2ヵ月間の作業でしたが、倒壊建造物の解体・撤去作業が、いかに大量の埃の中で行われた作業であるかが判明したのでした。


◆類似事案の補償・救済の拡大へ

昨年214日に環境保全機構に救済申請を行っていましたが、526日には認定の結果が出ていました。調査に時間を要しましたが、昨年62日に西宮署に労災申請を行いました。

西宮署の担当官は積極的に調査を行い、昨年8月末の時点ではほぼ調査を終えていました。ただ、中皮腫の労災認定基準では、石綿ばく露作業への従事期間が1年となっているため、本省での協議案件とされてきました。何回かの検討会議を経えて、今年622日の検討会において、業務上との判断が行われたのでした。その後、署内での手続きが行われ、810日付けで業務上との決定が行われたのでした。

僅か2ヵ月という短期間のガレキ処理作業での中皮腫を発症したという事実は、短期間であっても高濃度のばく露の場合は被害の拡大が懸念されます。一方、僅か2ヵ月間の作業であっても労災であると認められたことは、今後の類似事案に関しても補償・救済が拡がったといえます。


◆同時期に3名の方が中皮腫を発症

震災によるアスベスト被害では、20082月に姫路労基署が、震災後に約1年間、倒壊建造物の解体・撤去作業に従事した男性の労災を認定した事例があります。また、199510月から11月までの約2ヵ月間、倒壊建造物の解体作業において、現場監督を務めた方が胸膜中皮腫を発症した事例もあります。

そして今回のAさんの調査結果を待つ間に、明石市職員の方が中皮腫を発症したとの相談が入りました。また、神戸東署においても震災アスベストに絡む請求が、本省協議案件となっているとの情報が入っていました。

1995117日に発生した阪神淡路大震災。地震による直接的な被害の他に、地震後の大気汚染や災害廃棄物処分などの環境問題も深刻でした。特に、倒壊建物の解体・撤去工事に伴うアスベスト飛散は社会問題となり、当時からばく露した労働者の健康被害が危惧されていました。今回、同時期に3名の方が震災によるアスベスト飛散が原因で中皮腫を発症されている事実を目の当たりにし、背筋が寒くなる思いです。


◆大きく報道された震災アスベスト

今回の震災アスベストによる労災認定について、824日、NHKは早朝からニュース番組で繰り返し報道し、地元・神戸新聞は一面トップで大きく掲載しました。当日は、9時半から芦屋市で記者会見を行ったのですが、「阪神大震災がれき処理2ヵ月で中皮腫」(讀賣)、「阪神大震災で中皮腫がれき撤去、労災認定」(朝日)、「東日本でも注意を」(毎日)…、各紙に大きく取り上げられました。

さらに、阪神淡路大震災の被災地で約3年間ガレキ撤去などに従事した70歳代に男性が、中皮腫を発症し神戸東労基署から労災認定を受けたことも報道されました。
神戸新聞は「アスベスト公害阪神・淡路~東日本大震災」と題して、5回の特集記事が掲載されました。第1回「健康被害17年相次ぐ労災認定」、第2回「大量解体飛散想定なく対策後手」、第3回「因果関係データー基に認めぬ行政」、第4回「東北の現場 復旧優先、大量飛散も」、第5回「健康調査有害物質石綿以外も」(詳細は後掲)。

僅か2ヵ月間のガレキ処理で中皮腫を発症し、労災認定され方が複数居られ、震災時のガレキ処理で中皮腫を発症された患者さんが居られるという事実は、被災地で働き暮らした私たちにとって大変ショッキングな出来事として次々と突きつけられています。


◆震災アスベスト被害ホットラインを開設

こうした事実を受け、私たちは825日(土)~26日(日)の二日間、東京と神戸の2ヵ所で、「震災アスベスト健康被害ホットライン」を開設しました。神戸では、二日間で71件もの相談が寄せられ、その後も毎日のように電話が鳴っています。

特に、今回の労災認定を受けられた方と同じような解体・ガレキ処理に従事された方からの相談が23件にも上がりました。「震災のあおりを受けて、数ヵ月間解体やガレキ処理のバイトをしていた。また、ダンプカーを運転して処理場まで運搬していた。処理場は長蛇の列で粉じんう中で待機していた。」、「当時は大学生で、数ヵ月間ガレキ処理の手伝いをしていた。不安を抱えている。」「にわかに集められたメンバーで解体作業にあたり、社会保険に加入していない。同僚もバラバラで当時の従事証明が取れない。発症したらどうすればよいのか」等の健康不安を抱えた相談が続きました。

被災地の復旧・復興に従事された方は、解体ガレキ処理だけではありません。ガス配管取替工事に従事された方のご家族からは「神戸一帯の被災地でガス復旧するまでの3,4年間、毎日ガス配管取替工事に従事していた。今は症状がないが検査は必要か」と言った相談や、建築士の方からは「短期間被災地で仕事をしていた。今、中皮腫で入院している」、「被災地で電気工事の仕事をしていた。中皮腫の診断で余命6ヵ月と言われた。」と言った悲痛な相談も寄せられています。

また、今回のホットラインを通じて、健康不安を抱える被災者とご家族は、相談窓口の存在と正しい知識を求めていることが伺えます。東日本の被災地を含め、継続的な相談窓口の開設が求められています。


◆阪神淡路大震災の再検証が必要

現在、東日本の被災地では復旧・復興が進められているが、震災と津波により損傷を受けた建物が大量に残され、がれきの処理には数年という時間を要すると言われています。今後、これら建材の撤去と廃棄が行われる中でどのようにアスベストが飛散し、どのようにアスベストばく露の可能性が生じるのかということは、世界的にも経験したことがなく、そのような未知の領域の中で人々のアスベストばく露を予防する対策を行う必要が生じています。

阪神淡路大震災を経験した私たちが、東日本の被災地に発信しなければならない課題のひとつがアスベスト問題です。そのためにも、1995年当時に遡り、アスベスト飛散状況や作業実態など、もう一度検証する作業が求められています。
Aさんのご遺族より

「労災認定がおりた事は本当に有り難く思っていますが、主人と一緒に聞くことが出来なくて、とても淋しく悔しいです。ただ、ここに至るまでに係って下さった全ての方々に、感謝の思いで一杯です。震災の後の2ヵ月足らずのガレキの処理作業で中皮腫になり、亡くなった人がいることを認識していただきたく思います。東北大震災に遭われた方、今現場で作業されている方は、ご自分の身体はしっかりと守る、防備をされて作業に当たられる事を節に願っています。行政におきましても、防備対策を行ったうえで、指示をされることを要求いたします。阪神淡路大震災の際に、復旧・復興作業に従事された方々は、ご自分の体調に気をつけていただき、少しでも早く医療機関を受診して欲しいと思います。そして、中皮腫に関してはまだまだ手さぐり状態の医療現場ですが、病院任せにせず、色んな方面から知識を取得して治療に臨んでいただくことを願っています。