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労災事故・障害補償・審査請求

石綿肺がん プラークなしで労災不支給 審査請求で逆転認定

2012/06/20
◆経過

Kさんは、1956(昭和31)年7月から1970(昭和45)年7月まで、住友ゴム神戸工場において自動車タイヤ等のゴム製品製造作業に従事し、2005(平成17)年に肺がんに亡くなられた。ご家族が労働基準監督署に相談されたところ、「会社から証明をもらってくるように」との指示があり、そこで申請手続きが一旦中断していたのである。ご家族からセンターに相談があり、申請手続きを再開した事案である。

労災申請にあたり、水嶋先生に読影していただき、胸膜プラーク有りの意見書を作成していただいた。20117月に神戸東労働基準監督署に特別遺族年金の請求を行ったが、9月に不支給の決定が通知された。実に55日間での不支給決定であり、土日を除けば調査期間は僅か39日である。


◆労基署の判断

神戸東署に提出した水嶋先生の意見書は、「2004722日、胸部X線で1/1程度の不整形陰影と、1/0程度の粒状影を認める」「20041116日、胸部CTにて大陰影を認める」「右背側胸膜にプラークの存在を認める」との内容であった。

しかし、被災労働者の画像を読影した兵庫労働局地方労災医員は、「20041116日胸部X線写真では、両肺野に粒状陰影や不整形陰影は認められず、じん肺や石綿肺所見は認められない」とし、胸膜プラークに関しても「胸膜プラークを疑うわずかな隆起が認められるが、これらはいずれも造影効果を有しており、肋間動静脈の一部の陰影と判断され、プラークとは認められない」と意見を述べたのであった。

また主治医も、監督署からの問い合わせに対して、「石綿肺:なし」「胸膜プラーク:明らかなものなし」との意見を述べていたのである。


◆住友ゴム神戸工場では7件の認定

これまで住友ゴム神戸工場において、石綿関連疾患の労災認定事例はすでに7件ある。

Aさんは1945年から1990年までの約45年間作業に従事し、2000年に悪性胸膜中皮腫を発症し亡くなられ、新法による時効救済で認定されている。Bさんは、1945年から1984年までの約39年間作業に従事し、2005年に肺がんで亡くなられた。局医は「石綿肺の所見あり」との意見を述べ、労災認定された。Cさんは、1950年から1984年までの約34年間作業に従事し、2003年に肺がんで亡くなられた。局医は「胸膜プラーク有り、石綿肺1/1」との意見を述べ、新法で時効救済された。Dさんは、1948年から1977年月までの約39年間作業に従事し、2005年に間質性肺炎で亡くなられた。局医は「石綿肺管理区分4相当、胸膜プラーク有り」との意見を述べ、労災認定された。Eさんは、1948年から1984年までの約36年間作業に従事し、2000年に肺がんで亡くなられた。局医は「胸膜プラーク有り」との意見を述べ、新法による時効救済で認定された。Fさんは、1947年月から1986年までの約39年間作業に従事し、2006年に悪性胸膜中皮腫で亡くなられ、労災認定された。Gんは、1945年から1990年までの約45年間作業に従事し、2009年に肺がんで亡くなられた。局医は「胸膜プラーク有り」と意見を述べ、労災認定された。

こうしたことからも、住友ゴム神戸工場のタイヤ製造作業において大量の石綿(タルクを含む)が使用され、大量の石綿が飛散していたことが十分推認できる。


◆確定診断委員会もプラークを認める

不支給決定を受け、審査請求において再度、水嶋先生に読影をお願いした。局医は肺がん原発巣を右上葉であると意見を述べているが、水島医師は左下葉が肺がんの原発巣と思われると指摘したうえで、さらにCT画像を比較しながら、「造影効果のないCTにおいても胸膜プラークが認められる」との意見書を作成していただいた。そして当センターからは、審査官に対して、石綿確定診断委員会に意見を求めるよう強く要望した。

確定診断委員会の見解は、「20047月のX線写真では、じん肺所見である不整形陰影や、粒状影ともに認められない」としたうえで、「20046月のCTでは右前胸部及び右背部に限局性の胸膜肥厚を認め、胸膜プラークと診断できる」であった。


◆まとめ

胸膜プラークの有無に関しては、読影する医師により異なる見解が出されることが多々ある。石綿肺がんの認定率が低位で推移しているのは、胸膜プラークの有無に関する判断が、局医の読影力に左右されていることが要因としてあげられる。

今回の事案は審査請求により逆転認定となったが、通常は「不支給」の決定が出されれば、そこで泣く泣く諦めていたのではなかろうか。神戸東署は、確定診断委員会に意見を求めず、55日間の調査で不支給の決定を行い、しかも実質的な調査日数が僅か39日というのでは、あまりにもお粗末すぎる。11件の請求に対して、真摯に、そして真剣に向き合ってもらいたいものである。