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労災事故・障害補償・審査請求
石綿肺がん 石綿小体6,435本で労災不支給 審査請求で認定
2011/06/20
◆概要
2010
年の年明け、病院に入院中の患者さんから、労災申請が出来ずに困っている患者さん(Aさん)が居るとの連絡が、当センターに入った。
早速、お話をうかがいに訪問したところ、肺がんの患者さんで、胸膜プラークがあり、手術の際に摘出した組織からは石綿小体が
6,435
本検出され、病院から労災申請を薦められていることが解った。ところがご本人の記憶では、どこで石綿に接触したのかはっきりせず、申請手続きが出来ずに困っておられたのであった。石綿肺がんの認定基準では、原発性肺がん+胸膜プラーク+
10
年ばく露で業務上となる。また、石綿小体が
5,000
本を超えた場合は、ばく露期間が
10
年未満であっても本省協議のうえ業務上となる。Aさんの場合、石綿肺がんの認定基準である医学的所見を充分満たしており、ばく露作業さえ判明すれば業務上となる事案であった。
◆Aさんの作業歴
Aさんは、鉄鋼会社の構内下請けとして、約
30
年間スラグ処理の作業に従事されていた。スラグ処理の手順は以下の通りである。①固まったノロを用いて、幅約
2
m、長さ約
10
mの広さの土手を作る。土手の高さは約
80
㎝。②炉からクレーンを用いて運ばれてきたノロが、①の土手の中に流し込まれる。③炉から出てきたノロと土手を作っている固まったノロとを、ブルドーザーを用いて混ぜ合わす。④上記の③の作業中に、耐火レンガや工場内で使用されていた石綿断熱材をノロと混ぜ合わせる処理を行うこともあった。また、事前にブルドーザーを用いて粉砕した耐火レンガを混ぜ合わせることもあった。⑤冷ましたノロは、次回の作業時に土手として用いる分を残し、それ以外はブルドーザーを用いて細かく砕く。⑥以前は、処理し細かく砕いたノロは、トラック運転手が埋立地へと運んでいた。埋立地が一杯となってからは、建屋の傍にノロ処理施設が稼働することとなり、そこへAさんがブルドーザーを用いて運ぶ作業を行っていたのであった。
◆スラグ処理場における粉じん作業
Aさんは、一日平均
500
個程度の耐火レンガを、ブルドーザーを用いて細かく処理する作業に従事した。その耐火レンガにはモルタル等が付着していたのであり、モルタルには石綿が含まれていたのである。それに、事業主も「就業場所の近くでは、石綿リボン、石綿ヤーン、石綿クロスが使用されていた」と証明していたのであった。
また、耐火レンガを細かく処理する作業、固まったノロを用いて土手を作る作業、炉から出てきたノロを土手のノロと混ぜ合わす作業は、ブルドーザーを用いて行っていたが、何度も何度も前後・左右の動きを行うため、重機の移動に伴い大量の粉じんが舞う作業であった。そのため、「ブルドーザーのエアー・クリーナーは、毎日エアーを吹き付けて掃除を行っても、沢山の埃が付着し、
1
ヵ月もすると新品に交換しなければならない状態であった」と、Aさんは語ってくれた。
◆他職場での粉じん作業、石綿ばく露作業
Aさんは、それ以前に勤務していたB建装では、石綿含有建材を運搬する作業に従事していたのであった。その前の、C工業においては、ガス管の補修作業を行っていたのであった。パッキンの取り付け、取り外し作業にも従事していたのであるが、パッキンに石綿が含有されていたことは周知の事実である。さらにその前のD鉄工所においては、配管補修作業工事に従事していたのであった。配管の被覆材として石綿が使用されていたことは周知の事実である。
こうした事実について、Aさんは監督官からの
2
回の聞き取りの中で繰り返し述べており、専門的な知識を有した監督官なら、Aさんが石綿ばく露作業に従事したことはすぐに理解できるはずであった。
◆宇部署の調査
ところが宇部署は、「スラグ処理場の周辺の電気炉や連鋳機で、石綿を使用していた事実は認められるが、飛散する状況ではなかった」として、「石綿ばく露を示す医学的所見は認められるが、業務において石綿にばく露したことが認められない」との理由で不支給処分を決定したのであった。
仮に、鉄鋼でのばく露が認められない場合でも、それ以前の職場での石綿ばく露は十分考えられるのであり、他署へ移送するのが本来の手順である。宇部署は、そうしたこともせず、不支給処分を決定したのであった。
それに、主治医の所見は「両肺野に粒状影と胸膜プラークを認める」というものであり、じん肺合併症としての視点での調査も行わなければならないのであるが、そうした調査は全く行わず、二重三重の調査ミスを犯し、不支給処分を決定したのであった。
◆審査請求で不支給処分の取り消し決定
不支給処分を受け、山口局の監察官と面談し自庁取り消しを求めたのであったが、「審査請求の手続きを」ということであった。
3
月に審査請求を行い、
5
月末に決定書が届いた。「宇部署が行った療養補償給付及び休業補償給付を支給しない旨の処分を取り消す」との内容であった。特に新しい事実は何もなく、スラグ処理場の周辺において間接ばく露があった、との理由での認定である。請求から今回の決定まで
1
年強の時間を要した。石綿小体が
6,435
本もあり、プラークもあるのに、宇部署はそれでも不支給の理由を探そうとしたのであった。被災者に向き合って仕事をしているのかと問いたい。
そしてもう一言、今回の取り消し決定において、参与
4
人のうち
2
名は「棄却」、
2
名が「取消し」相当との意見であった。参与の半数が、このような明らかな案件に対しても棄却相当との意見であったことに驚いた。こうした点についても、山口における問題の根深さを感じさせられた取消し決定であった。
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2010年の年明け、病院に入院中の患者さんから、労災申請が出来ずに困っている患者さん(Aさん)が居るとの連絡が、当センターに入った。
早速、お話をうかがいに訪問したところ、肺がんの患者さんで、胸膜プラークがあり、手術の際に摘出した組織からは石綿小体が6,435本検出され、病院から労災申請を薦められていることが解った。ところがご本人の記憶では、どこで石綿に接触したのかはっきりせず、申請手続きが出来ずに困っておられたのであった。石綿肺がんの認定基準では、原発性肺がん+胸膜プラーク+10年ばく露で業務上となる。また、石綿小体が5,000本を超えた場合は、ばく露期間が10年未満であっても本省協議のうえ業務上となる。Aさんの場合、石綿肺がんの認定基準である医学的所見を充分満たしており、ばく露作業さえ判明すれば業務上となる事案であった。
◆Aさんの作業歴
Aさんは、鉄鋼会社の構内下請けとして、約30年間スラグ処理の作業に従事されていた。スラグ処理の手順は以下の通りである。①固まったノロを用いて、幅約2m、長さ約10mの広さの土手を作る。土手の高さは約80㎝。②炉からクレーンを用いて運ばれてきたノロが、①の土手の中に流し込まれる。③炉から出てきたノロと土手を作っている固まったノロとを、ブルドーザーを用いて混ぜ合わす。④上記の③の作業中に、耐火レンガや工場内で使用されていた石綿断熱材をノロと混ぜ合わせる処理を行うこともあった。また、事前にブルドーザーを用いて粉砕した耐火レンガを混ぜ合わせることもあった。⑤冷ましたノロは、次回の作業時に土手として用いる分を残し、それ以外はブルドーザーを用いて細かく砕く。⑥以前は、処理し細かく砕いたノロは、トラック運転手が埋立地へと運んでいた。埋立地が一杯となってからは、建屋の傍にノロ処理施設が稼働することとなり、そこへAさんがブルドーザーを用いて運ぶ作業を行っていたのであった。
◆スラグ処理場における粉じん作業
Aさんは、一日平均500個程度の耐火レンガを、ブルドーザーを用いて細かく処理する作業に従事した。その耐火レンガにはモルタル等が付着していたのであり、モルタルには石綿が含まれていたのである。それに、事業主も「就業場所の近くでは、石綿リボン、石綿ヤーン、石綿クロスが使用されていた」と証明していたのであった。
また、耐火レンガを細かく処理する作業、固まったノロを用いて土手を作る作業、炉から出てきたノロを土手のノロと混ぜ合わす作業は、ブルドーザーを用いて行っていたが、何度も何度も前後・左右の動きを行うため、重機の移動に伴い大量の粉じんが舞う作業であった。そのため、「ブルドーザーのエアー・クリーナーは、毎日エアーを吹き付けて掃除を行っても、沢山の埃が付着し、1ヵ月もすると新品に交換しなければならない状態であった」と、Aさんは語ってくれた。
◆他職場での粉じん作業、石綿ばく露作業
Aさんは、それ以前に勤務していたB建装では、石綿含有建材を運搬する作業に従事していたのであった。その前の、C工業においては、ガス管の補修作業を行っていたのであった。パッキンの取り付け、取り外し作業にも従事していたのであるが、パッキンに石綿が含有されていたことは周知の事実である。さらにその前のD鉄工所においては、配管補修作業工事に従事していたのであった。配管の被覆材として石綿が使用されていたことは周知の事実である。
こうした事実について、Aさんは監督官からの2回の聞き取りの中で繰り返し述べており、専門的な知識を有した監督官なら、Aさんが石綿ばく露作業に従事したことはすぐに理解できるはずであった。
◆宇部署の調査
ところが宇部署は、「スラグ処理場の周辺の電気炉や連鋳機で、石綿を使用していた事実は認められるが、飛散する状況ではなかった」として、「石綿ばく露を示す医学的所見は認められるが、業務において石綿にばく露したことが認められない」との理由で不支給処分を決定したのであった。
仮に、鉄鋼でのばく露が認められない場合でも、それ以前の職場での石綿ばく露は十分考えられるのであり、他署へ移送するのが本来の手順である。宇部署は、そうしたこともせず、不支給処分を決定したのであった。
それに、主治医の所見は「両肺野に粒状影と胸膜プラークを認める」というものであり、じん肺合併症としての視点での調査も行わなければならないのであるが、そうした調査は全く行わず、二重三重の調査ミスを犯し、不支給処分を決定したのであった。
◆審査請求で不支給処分の取り消し決定
不支給処分を受け、山口局の監察官と面談し自庁取り消しを求めたのであったが、「審査請求の手続きを」ということであった。3月に審査請求を行い、5月末に決定書が届いた。「宇部署が行った療養補償給付及び休業補償給付を支給しない旨の処分を取り消す」との内容であった。特に新しい事実は何もなく、スラグ処理場の周辺において間接ばく露があった、との理由での認定である。請求から今回の決定まで1年強の時間を要した。石綿小体が6,435本もあり、プラークもあるのに、宇部署はそれでも不支給の理由を探そうとしたのであった。被災者に向き合って仕事をしているのかと問いたい。
そしてもう一言、今回の取り消し決定において、参与4人のうち2名は「棄却」、2名が「取消し」相当との意見であった。参与の半数が、このような明らかな案件に対しても棄却相当との意見であったことに驚いた。こうした点についても、山口における問題の根深さを感じさせられた取消し決定であった。