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石綿肺がん 医学的資料なしで労災認定

2010/12/20
◆概要

石綿肺がんの労災認定基準は、10年間のばく露作業と石綿ばく露を示す医学的所見となっている。石綿健康被害救済法の時効救済(死亡後5年が経過)においても、カルテやフイルム等の保存期限を経過しているため医証が全くない場合が多いにも関わらず、医学的所見が確認できない場合は不支給決定とされる。ただし、同僚が認定されている場合や、高濃度ばく露が認められる場合は、本省協議となっている。

今回、こうした手順により、石川島播磨重工で働き肺がんで亡くなった方の事案が、医学的所見が全くないなかで業務上災害としての認定が行われた。


◆「カルテもフイルムも残っていない」

石川島播磨重工において船舶の電装及び溶接作業に35年間従事したAさんは、退職後の19868月に肺がんで亡くなられました。68歳でした。200811月、Aさんのご家族から、「2007年度の石綿労災認定事業所名に、父が勤めていた会社名が入っていた」との相談がありました。相談の電話の前に、ご家族はAさんが入院されていた病院にも問い合わせをされたそうで、「カルテもフイルムも残っていないが、どうしたらいいか」とのことでした。


◆救済されない時効救済法

労災の時効を迎えているという事案は、既に本人が無くなってから最低でも5年を経過しているため、病院におけるカルテやレントゲンフイルムの保存期限を既に超過しています。20063月末に新法が制定され、時効の壁が取り除かれ、多くの被害者家族が時効救済の申請を行ったのですが、労基署は「医学的所見が確認できない」として、肺がんの申請については多くが不支給扱いとなりました。時効救済をうたいながら、労災と同じ扱いで調査を行おうとする厚生労働省の事務手続きずさんさが表面化したのでした。

こうしたことから、2006103日に開催された臨時全国労災補償課長会議において、「石綿による疾病事案の事務処理に関する質疑応答集」が配布され、事務処理手続きに関する対応が統一化されたのでした。


◆法制定と事務処理の意思統一に半年のズレ

特別遺族給付金に係る肺がん事案で、医証が全くない場合の取り扱いについて、以下のように示されています。まず、「医療機関に診療録等の医証が全くない場合は、不支給決定を行う」としたうえで、「過去に同一事業場で、同一時期に同一作業に従事した同僚労働者が労災認定されている場合や、相当高濃度の石綿ばく露作業が認められる場合には、本省あてに相談されたい」と記されています。更に、「肺がんに限らず、中皮腫、石綿肺等の事例がある場合のほか、例えば他の構内下請け(元請け)等に認定事例がある場合を含むものである」とされています。

「医証が全くない場合は、不支給決定を行う」とする事務処理は、救済法の趣旨に反すると考えますが、それでも過去の認定事例に基づき決定を行うとする処理方法は裁量権の範ちゅうであり、大いに行使すべきものです。ところが、新法制定の直後に時効救済の申請が集中したのに、事務処理現場における手続きの統一との間に約半年のブランクがあったため、医証がないとしての不支給処分が多発したのでした。


◆労災認定者の複数存在あり―業務上疾病

Aさんの家族から相談を受け、お宅を訪問した際、床の間に飾られていたAさんの賞状が目にとまりました。電気技術に関するものと、溶接技能に関する賞状でした。そこで、この2枚の賞状と、先ほどの質疑応答集、そして2008年夏に岡山の三井造船において同種事例で業務上災害の認定を取った際の復命書及び新聞記事を、相生労基署に提出しました。相生署の担当官は、質疑応答集の存在と医証なしの事例に関する事務手続きについて知らず、一から説明するという状態でした。

その後、事務手続きに沿って本省あてに相談した結果、「被災労働者は、357ヵ月の石綿ばく露作業従事期間が認められ、当該事業場で同一時期、同一作業に従事した労働者に石綿による肺がんで労災認定されている者が複数存在していることから、業務上の疾病と認められる」との判断により、支給が決定したのでした。事務手続きに沿った当たり前の調査、決定なのですが、当たり前のことが行われていないだけに、喜びもひとしおでした。

新法施行後の半年間に申請した方の中で、こうした事務手続きにより本来救済されるべき方が不支給となり、何ら補償を受けられずにいるのではないかと思われます。厚労省は、新法施行後に医証なしとの理由で不支給処分とした全事例を再調査すべきです。また、医証が残っていたケースについても、「高濃度の石綿ばく露作業が認められる場合」については認定すべきであり、こうした事例についても早急に再調査を行うべきであると考えます。