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給付基礎日額定額問題 岡山地裁で原告勝訴判決

2010/04/20
◆概要

労働者の期間と特別加入の期間の双方で石綿にばく露した方の給付基礎日額の問題点については、これまでにも機関紙で報告してきました。給付基礎日額の算定に当たっては、最終の石綿ばく露作業を行った保険関係により決定されることから、低額の給付となる事例が多発しているのです。

そのため、国を相手に、現行法制度の矛盾の解消を訴え、支給額に関する決定処分の取り消しを求めていた裁判の判決が、225日、岡山地裁で言い渡されました。主文は、本件訴えを却下する、訴訟費用は被告の負担とする、という内容で実質的に勝訴判決が言い渡されたのでした。

というのも、昨年623日の提訴以降、岡山労基署が再調査を進め1111日付けで給付日額の変更を行っていたからでした。つまり、原告の訴えを認め、岡山署が給付日額について、特別加入時の3,500円から労働者時代の10,151円へと、約3倍となる変更を行ったため、岡山地裁はすでに原告の訴えが認められているのであるから「訴えを棄却する」との判断を行ったのでした。しかし、訴訟を行うに至ったのは国側の取り扱いの誤りが原因であるから「訴訟費用は被告の負担とする」と判断したのでした。


◆特別加入していたがために低額給付

被災者Mさんは、昭和302月から昭和529月までの211ヵ月間、山陽断熱において熱絶縁工事に労働者として従事しました。その後、被災者は、昭和5210月に倉敷保温工業所を設立し、平成812月までの193ヵ月間、会社の代表取締役として保温工事や保温材の撤去作業に携りました。しかし、労災保険の特別加入者であった(実質働いた)期間は、その内の僅か59ヵ月間だけでした。山陽断熱及び倉敷保温工業所における保温工事作業において石綿にばく露したことにより、被災者は平成15220日に肺がんで亡くなられました。

そこでご遺族が、倉敷労働基準監督署へ遺族補償年金の請求を行い、平成1949日に支給が決定されたのでした。しかし、倉敷労働基準監督署長が遺族補償年金の給付基礎日額の算定にあたり、特別加入時の給付基礎日額を基に算定したことにより、労災保険の給付基礎日額の最低保障額にも満たない3,500円という給付日額となりました。そのため、労働者であった期間の平均賃金を基に、遺族補償年金の給付基礎日額が算定されるよう求めていたのでした。


◆あまりにも不合理な現行制度

労災保険の給付においては、給付基礎日額の最低補償額が決められおり、算定した給付基礎日額がその額に満たないときは、最低保障額が給付基礎日額として適用になるとされています。被災者が特別加入していなければ、労働者としての最後の時期の賃金水準をもとに平均賃金が算定されます。すると、その額は3,500円を遥かに上回るはずです。これではあまりにも不合理なのです。

さらに、石綿健康被害の特殊性に鑑み、2006327日に「石綿健康被害者救済法」が施行され、労災の時効により補償を受けることなく亡くなった被害者に対して特別遺族年金が支給されることとなりました。その給付額は、遺族の人数により異なりますが、最低でも月20万円となっています。

被災者は平成15220日に肺がんで亡くなり、請求人は平成1812月末に居族補償年金の請求を行いました。請求人が平成202月に労災の時効を迎えるのを待ち、特別遺族年金の請求を行っていたならば、年間270万円(月22.5万円)の補償を受けることができたのです。これもあまりにも不合理です。こうした点からも、いかに現行制度に矛盾があるかが明らかです。


◆現行制度の見直しは急務

岡山労基署が再調査を行った復命書をみると、「倉敷保温工業を設立した昭和5210月から昭和63年頃までの間においては、被災者は石綿ばく露作業が認められるものの、被災者が特別加入であった平成3510日から平成15220日の間においては石綿ばく露作業がなかったことが判明しました。」と記載されていました。

平成1949日に倉敷署が決定を行ってから、審査請求、再審査請求、そして提訴し争ってきた約210ヵ月の時間と労力は何だったのか。「石綿ばく露作業がなかったことが判明しました」と片付けられていいものなのか。業務上であると認定すればいいというものではなく、被災者・遺族の最低限の生活保障という観点からも、現行法制度の矛盾点について見直しを行うべきです。

一方、見たかによれば、原告完全勝訴の判決が言い渡され、現行法制度の見直しを迫られる前に、自庁取消しの形で判決を残さないようにしたとも取れます。労働者の期間と特別加入の期間の双方で石綿にばく露した方で、低額の給付となる事例が多発しています。他の事例でも、「労災(給付日額3,800円)を取り消してもらって、生活保護をもらった方がまし」と言われている方も居ますし、若年ばく露の方の給付日額についても同じ矛盾が起こっています。ばく露から発症までの潜伏期間が長い石綿問題について、給付日額の算定方法を被災者救済の立場での見直しが急務となっています。