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腰痛・上肢障害・振動障害
介護労働者の外傷性頸肩腕症候群 逆転認定
2010/03/20
◆概要
伊丹市にある病院において介護作業に従事してきたAさん。
2009
(平成
21
)年
2
月
2
日、介護作業中にベッドで寝ていた患者(体重約
68kg
)を車椅子に移乗させようとして、患者を起こし抱きかかえたところ、ベッドが突然動いたため、Aさんの右腕に患者の全体重がかかり受傷するという災害が発生した。
当日の夕方から腕や肩に痛みが現れ、近院の接骨医を受診したところ「頸椎捻挫・右肩関節捻挫」と診断され、それでも痛みを治まらないため別のクリニックを受診したところ「外傷性系頸肩腕症候群」とされたのであった。また、勤めている病院で受診したところ「頸部捻挫」と診断されたのだった。
痛みの原因は患者の全体重が右腕にかかった事故によるものであると考え、
A
さんは武庫川ユニオンに相談し労災申請の手続きを行ったのであった。今回の事故の災害性は明らかであり、誰もが業務上となると考えていたのであったが、伊丹労基署は
2009
(平成
21
)年
8
月
19
日付けで不支給処分を決定したのであった。
◆災害性を全く認めない判断
そこで、武庫川ユニオンからの相談を受け、私も代理人となり、審査請求を取り組む事となったのである。Aさんともお会いしたが、災害から
6
ヶ月が経過しているにもかかわらず、首周りのハレも治まらず、腕を上げたり、首を回そうとすると痛みが走るため、体が固まっている状態であった。
さっそく、伊丹署が不支給とした理由を知るため、保有個人情報の開示請求に基づき調査結果復命書を入手した。復命書を読むと、不支給とした理由は、地方労災医員の意見を全面的に採用したことによるものであることが判明した。
問題点の第
1
は、今次災害の発生状況について、「腰への負荷ならばむしろ十分に考えられるが、頚部への負荷は余り考え難い」とし、「頚部への外圧は認めがたい」と判断したこと。
第
2
点は、
A
さんの頸肩腕症候群での既往歴を問題にし、「(頚肩腕症候群は)日常の自然経過の環境下においても一般に発症する疾病である」としたうえで、元々の持病が悪化するサイクルと今回の災害の時期がたまたま重なっただけであり、業務とは関係ないと判断したこと。
第
3
点は、「災害直後には疼痛は発生していないこと、頚部への負荷は余り考え難いこと、頚部への外傷は考え難いこと」を採用し、「今次災害により頚肩腕症候群が発症したとは認め難い」と判断したこと。
第
4
点は、「今次災害である右腕への外圧によって頚部に負荷がかかり、既往歴である頚肩腕症候群の症状が憎悪したとは判断できず」と、災害と疾病との因果関係は認められないと判断したのであった。
◆災害は、突発的な出来事として生じた
原処分において大きな見落とし、事実誤認があるのは、被災者が車椅子へと移乗させようとした患者さんの様態、及び作業動作についてである。まず、患者は、寝たきりで体を動かすのが不自由な方だという点である。
A
さんは監督署の聞き取り調査で、「(寝たきり状態で)ベッドで寝ている患者を車椅子に移乗するため、ベッドの横に車椅子を置き、患者の首の下に私の右腕を入れて、ベッドに起こし、患者の足を横に出し、私の右腕は患者の腰に、左手は患者の腰の服を持ち、右足は患者の足の間に入れて、車椅子に移乗させようとした時、…ベッドの車のゴムがすりへりストッパーの役目をしていなく、患者を右腕で持って、移乗させようとした時、急にベッドがうしろにさがってしまった」と述べ、そのためAさんの右腕に患者の全体重がかかってしまったのである。それがどうして、「腰への負荷ならばむしろ十分に考えられるが、頚部への負荷は余り考え難い」となるのであろうか。
さらに、介護労働の何よりの特色は、労働対象が人であるという点である。一般の労働作業において、突然に片腕に約
68kg
の負荷がかかった場合、その負荷を片腕で支えきれず、支えることを放棄することにより自らへの危険を回避する行動をとると考えられる。しかし、介護労働において、自らの危険を回避するため、片腕で支えることを放棄するという行為は、患者をベッドの高さから床に落とすことにつながるのである。
それに、患者が寝たきり状態ではない方であったならば、車椅子に移乗させようとした時に急にベッドが後ろに下がったなら、自らの手・足を利用し危険を回避する行動がとれたと考えられる。今回の災害発生時にAさんが介護していた患者は寝たきり状態であり、被災者の片腕に約
68kg
の負荷がかかるという突発的な出来事が生じたわけである。
こうした事実に目をむけず、地方労災医員の意見に合わせて事実を作り上げるから、悲劇が起るのである。
◆局医の意見による弊害
審査請求において、田島診療所の三橋徹先生にご協力いただいた。何度も受診し、
A
さんの疾病について「頸肩腕症候群、
CRPS
(複合性局所疼痛症候群)」であると診断していただき、「災害発生時に通常の動作と異なる動作を行わざるを得ず、頸部に急激な力の作用が業務中に突発的な出来事として生じたことにより発症した」との意見書を作成していただいたのであった。現在も
A
さんは通院を続けており、田島診療所と三橋先生の存在は、とても心強い。
災害の発生から、業務上であると認められるまで丸
1
年かかかったわけである。痛みが激しくなると、
A
さんは「あの時片手で支えなければ…」と思うこともあるそうである。しかし、支えなければどうなるか判るからこそ、
A
さんは片腕で約
68kg
の体重を支えたわけである。その優しさに目を向けない労働行政のあり様に怒りを覚える。主治医の意見よりも地方労災医員の意見を重要視しすぎる傾向があるためにこうした悲劇を生みだすのであり、地方労災医員の意見で業務上・外が決定するのであれば、監督官も、調査も必要なくなる。もっと災害現場を、そして被災者と向き合って欲しいものである。
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伊丹市にある病院において介護作業に従事してきたAさん。2009(平成21)年2月2日、介護作業中にベッドで寝ていた患者(体重約68kg)を車椅子に移乗させようとして、患者を起こし抱きかかえたところ、ベッドが突然動いたため、Aさんの右腕に患者の全体重がかかり受傷するという災害が発生した。
当日の夕方から腕や肩に痛みが現れ、近院の接骨医を受診したところ「頸椎捻挫・右肩関節捻挫」と診断され、それでも痛みを治まらないため別のクリニックを受診したところ「外傷性系頸肩腕症候群」とされたのであった。また、勤めている病院で受診したところ「頸部捻挫」と診断されたのだった。
痛みの原因は患者の全体重が右腕にかかった事故によるものであると考え、Aさんは武庫川ユニオンに相談し労災申請の手続きを行ったのであった。今回の事故の災害性は明らかであり、誰もが業務上となると考えていたのであったが、伊丹労基署は2009(平成21)年8月19日付けで不支給処分を決定したのであった。
◆災害性を全く認めない判断
そこで、武庫川ユニオンからの相談を受け、私も代理人となり、審査請求を取り組む事となったのである。Aさんともお会いしたが、災害から6ヶ月が経過しているにもかかわらず、首周りのハレも治まらず、腕を上げたり、首を回そうとすると痛みが走るため、体が固まっている状態であった。
さっそく、伊丹署が不支給とした理由を知るため、保有個人情報の開示請求に基づき調査結果復命書を入手した。復命書を読むと、不支給とした理由は、地方労災医員の意見を全面的に採用したことによるものであることが判明した。
問題点の第1は、今次災害の発生状況について、「腰への負荷ならばむしろ十分に考えられるが、頚部への負荷は余り考え難い」とし、「頚部への外圧は認めがたい」と判断したこと。
第2点は、Aさんの頸肩腕症候群での既往歴を問題にし、「(頚肩腕症候群は)日常の自然経過の環境下においても一般に発症する疾病である」としたうえで、元々の持病が悪化するサイクルと今回の災害の時期がたまたま重なっただけであり、業務とは関係ないと判断したこと。
第3点は、「災害直後には疼痛は発生していないこと、頚部への負荷は余り考え難いこと、頚部への外傷は考え難いこと」を採用し、「今次災害により頚肩腕症候群が発症したとは認め難い」と判断したこと。
第4点は、「今次災害である右腕への外圧によって頚部に負荷がかかり、既往歴である頚肩腕症候群の症状が憎悪したとは判断できず」と、災害と疾病との因果関係は認められないと判断したのであった。
◆災害は、突発的な出来事として生じた
原処分において大きな見落とし、事実誤認があるのは、被災者が車椅子へと移乗させようとした患者さんの様態、及び作業動作についてである。まず、患者は、寝たきりで体を動かすのが不自由な方だという点である。
Aさんは監督署の聞き取り調査で、「(寝たきり状態で)ベッドで寝ている患者を車椅子に移乗するため、ベッドの横に車椅子を置き、患者の首の下に私の右腕を入れて、ベッドに起こし、患者の足を横に出し、私の右腕は患者の腰に、左手は患者の腰の服を持ち、右足は患者の足の間に入れて、車椅子に移乗させようとした時、…ベッドの車のゴムがすりへりストッパーの役目をしていなく、患者を右腕で持って、移乗させようとした時、急にベッドがうしろにさがってしまった」と述べ、そのためAさんの右腕に患者の全体重がかかってしまったのである。それがどうして、「腰への負荷ならばむしろ十分に考えられるが、頚部への負荷は余り考え難い」となるのであろうか。
さらに、介護労働の何よりの特色は、労働対象が人であるという点である。一般の労働作業において、突然に片腕に約68kgの負荷がかかった場合、その負荷を片腕で支えきれず、支えることを放棄することにより自らへの危険を回避する行動をとると考えられる。しかし、介護労働において、自らの危険を回避するため、片腕で支えることを放棄するという行為は、患者をベッドの高さから床に落とすことにつながるのである。
それに、患者が寝たきり状態ではない方であったならば、車椅子に移乗させようとした時に急にベッドが後ろに下がったなら、自らの手・足を利用し危険を回避する行動がとれたと考えられる。今回の災害発生時にAさんが介護していた患者は寝たきり状態であり、被災者の片腕に約68kgの負荷がかかるという突発的な出来事が生じたわけである。
こうした事実に目をむけず、地方労災医員の意見に合わせて事実を作り上げるから、悲劇が起るのである。
◆局医の意見による弊害
審査請求において、田島診療所の三橋徹先生にご協力いただいた。何度も受診し、Aさんの疾病について「頸肩腕症候群、CRPS(複合性局所疼痛症候群)」であると診断していただき、「災害発生時に通常の動作と異なる動作を行わざるを得ず、頸部に急激な力の作用が業務中に突発的な出来事として生じたことにより発症した」との意見書を作成していただいたのであった。現在もAさんは通院を続けており、田島診療所と三橋先生の存在は、とても心強い。
災害の発生から、業務上であると認められるまで丸1年かかかったわけである。痛みが激しくなると、Aさんは「あの時片手で支えなければ…」と思うこともあるそうである。しかし、支えなければどうなるか判るからこそ、Aさんは片腕で約68kgの体重を支えたわけである。その優しさに目を向けない労働行政のあり様に怒りを覚える。主治医の意見よりも地方労災医員の意見を重要視しすぎる傾向があるためにこうした悲劇を生みだすのであり、地方労災医員の意見で業務上・外が決定するのであれば、監督官も、調査も必要なくなる。もっと災害現場を、そして被災者と向き合って欲しいものである。