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雇われたのは川崎車両の下請会社で、仕事内容は車両内部への石綿吹付け作業でした。作業手順は、石綿とセメント粉末をかくはん機に入れ、ホースで水を入れながらかくはんし、それをポンプでもって車両内の側面と天井面に吹付けます。そして、吹き付けたあと水分が残っているうちに、木の板で軽く押し付ける作業を行っていたそうです。石綿が人口雪のようにポンプから噴き出される中での作業であり、車両内はものすごい量の粉じんが舞っていたそうです。
雇われていた会社からはヘルメットだけを支給されるだけで、マスクの支給もなく、防じん対策もありませんでした。そのため、アルバイトの人たちはタオルを顔に巻きつけ、後ろで縛っていました。社員の方はマスクをしていましたが、それでもマスクを取ると鼻の穴が石綿で塞がれるほど付いていたそうで、このことが強く印象に残っているそうです。
平成19(2007)年、Aさん(60歳)が近院を受診したところ、胸水とプラークが確認され、東京医科大学病院で悪性胸膜中皮腫と診断されたのでした。アスベストセンターに相談され、斉藤さんが聞き取りを行う中で、先ほどの2週間のアスベストばく露が判明したのでした。もちろん、40年前の2週間の出来事ですからほとんど記憶がなく、一緒にアルバイトとして働いたAさんの弟さんとその友人からの聞き取りを行う中で、作業内容を色々と思い出されたのでした。
そして、平成20(2008)年12月に神戸西署に労災申請を行ったのですが、極めて短期間の石綿ばく露であるため調査に時間を要し、Aさんのもとに業務上であるとの通知が届いたのは平成21(2009)年10月でした。神戸西署は「本例は短期間ではあるが石綿の比較的高濃度ばく露があったことが、胸部CT上に存在する石灰化プラークから疑われ、昭和44年のばく露と考えて矛盾しない」と判断したのでした。
Aさんは、「会社は、アスベストの危険性を知っていて、アルバイトである私たちを使い捨てにしたのではないかと考えてしまう。私の場合、弟やその友人の協力があり労災の認定を受けたが、証明できない方が沢山いるのではないか。川崎車両では沢山の労災認定者が出ているが、その数倍の被害者が埋もれているのでは。2週間のアルバイトで中皮腫になり、あまりにも切ない。」と話され、「私の様な人間がいることを広く知らせて欲しい」と訴えておられました。