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宝塚市立病院 作業環境測定不正事件
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宝塚市立病院の病理検査技師がシックハウス症候群を発症し公務災害と認定された問題で、病院が設置した「病理検査室における公務災害発生事案に係る第三者調査員」が報告書をまとめた。報告書は、2020年9月から12月にかけて、有識者2名(熊谷信二・元産業医科大学教授と小野順子・弁護士)が職員への聞き取りなどの調査をおこないまとめたものである。
この問題については、本誌第204号(2020年9月号)において紹介しているが、検査室の担当者が作業環境測定において結果が低濃度となるよう操作をしていたのであった。こうした事実についても、今回の報告書で明らかとなった。
◇第三者調査員報告書を公表
病院側から調査員に依頼した調査内容は4点であった。①作業環境測定が正しい方法で行なわれていたと言えるか、②作業環境測定結果が基準内に収まるよう、何か意図的なことを行なっていたか、③2016年3月の作業環境測定で、測定結果が基準を超えた理由として、ホルマリンを溢したという理由は事実か、④作業環境にどのような不備があったのか(ハード面、ソフト面)。
調査員は、約4ヶ月間に関係者からの聞き取りを6回実施し、環境作業測定結果報告書や安全衛生委員会の議事録などの関係書類を精査し、報告書をまとめた。報告書は、宝塚市民病院のホームページの「ニュース」欄に、2021年2月18日付で「第三者調査員報告書を受領しました」との項目で掲載されており、全文を見ることができる。以下、報告書から調査結果の一部を紹介する。
◇作業の流れと作業環境
病理検査室内の切出室では、検体の検査作業においてホルマリンを使用する。毎朝9時15分頃からホルマリンの使用が始まり、作業は13時頃まで続くので、その間はホルムアルデヒドが発散し、技師及び病理医がばく露する。
病理検査室では、ホルムアルデヒドの作業環境測定を2007年11月から開始し、半年に1回のペースで、2020年8月までに26回実施している。また、切出室内には2ヵ所に外付け式局所排気装置が設置されていた。こうした点では規定を満たしていた。
労働安全衛生法第18条では、常時50人以上の労働者を使用する事業場には衛生委員会を設け、月1回以上開催するよう規定されているが、病院では安全衛生委員会を設置しほぼ毎月1回開催しており、この規定についても満たしていた。
◇実際の作業環境は
作業環境測定に関する基準は労働安全衛生法第65条2項に定められており、「作業が定常的に行なわれている時間に行なうこと」とされている。これを受けて、労働省労働基準局長通達(昭和51年6月14日)では、「一般的には、作業開始から概ね1時間を経過した時以降に行なうべきである」とされている。
調査員は、「概ね1時間と曖昧な表現であるが、作業開始から少なくとも50分経過した後に測定を開始するべきと(通達を)捉えることができる。したがって、9時15分頃からホルマリンの使用が始まる切出室においては、10時05分よりも前に開始されている場合は不適切な測定時間であったと認定せざるを得ない」と述べ、「適切な時間帯に実施されているのは5回のみであり、それ以外の作業環境測定では測定開始が10時05分よりも早い」として、「病理検査室における通常のホルムアルデヒド濃度を測定できていない」「過小評価の可能性が高い」と指摘している。
◇不正行為及び不適切な状況
では、何故この様な時間帯に測定が行なわれたのか。報告書では、「複数の技師は・・・副主幹から作業環境測定が終わってから作業をするように指示され・・・疑問に思わず指示に従った」等を聴取し、副主幹からも「切出作業をしないように指示していた」事実を確認し、「作業中止指示」が行なわれていたと認定している。
また、作業環境測定日には、「切出作業担当技師が電源を入れる前からプッシュプル型換気装置が作動していた」との証言があり、副主幹に確認したところ「作業環境測定を意識し、測定日の前日又は当日早朝にプッシュプル型換気装置の電源を入れた」事が確認され、「事前換気」が行なわれていたと認定した。
そして、「測定結果が通常時よりも低くなった可能性が高い。・・・過小評価された場合がほとんどであり・・・切出室の作業環境に問題があるとの認識が生じず、本来なら必要であった作業環境整備が進まなかったものと考える。この点は不正行為による重大な悪影響である」と指摘している。
◇「健康保持に関する意識の欠如」
報告書は結論で、副主幹による作業中止指示や事前換気が、「意図的に行なわれていた。これらについては、副主幹自身は不正行為であるとの認識が希薄で、他の職員から問題であることを指摘されても直ちには不正行為を止めなかった。また、上司である技師長は不正行為の存在を知らず、その誤りを正すことができなかった。背景には作業環境測定に対する理解不足と、職員の健康保持に関する意識の欠如があったと思われる」と述べている。
また、排気・換気装置の定期自主検査を実施していなかった点や装置の性能をハード面の不備として指摘している。さらに、専任の衛生管理者、衛生工学衛生管理者免許を受けた衛生管理者、特定化学物質作業主任者、有機溶剤作業主任者が選任されていなかったと指摘。週1回の作業場等の定期巡視や産業医の月1回の定期巡視が実施されていなかった点について、ソフト面での作業環境における不備と指摘している。
◇「過失による人災」―教訓をくみ取る
今回の問題は、病理検査室で働く人たちが改善を求める声を上げ、労働組合が取り上げたことにより明らかとなった。被災した技師は「過失による明らかな人災。一人の人生を大きくゆがめた事実を強く認識して欲しい」と述べている。
いま働いている作業環境に疑問を持つこと、それが職場改善に向けた一歩である。都合の悪いことは隠す、働く人の健康をないがしろにする姿勢は、全ての職場で改めさせなければならない。