NPO法人 ひょうご労働安全衛生センター

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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

石綿肺がんと振動病を発症
日本冷熱に対して損害賠償を求め提訴

2021/06/25
◇労働組合を嫌悪し団体交渉拒否

日本冷熱天草工場(熊本県)に採用されたYさんは、電動サンダー等の振動工具を長期間使用していたため、2005(平成17)年8月から業務による振動障害と認定されました。また、造船所における保温作業に従事したことにより、2016(平成28)年3月に石綿肺がんを発症され、労働災害と認定されました。
Yさんは、二つの業務上災害により治療を余儀なくされたのですが、会社からは企業補償に関して、何ら説明がないままでした。そのため、退職労働者の安全衛生問題と企業補償についての会社の見解を求めるために、アスベストユニオンに加入し、2020年6月に会社に対して団体交渉を申し入れました。
しかし、会社は団体交渉に応じようとしないため、神奈川県労働委員会に対して、団交ルールの策定を求め、2020年7月30日にあっせん申請を行いました

◇交渉は行うが、補償は一切行わない

神奈川県労働委員会の第1回期日が開かれたのは2020年1015日でした。そしてその日、労働委員会の仲介により、団体交渉を行うことが確認されたのでした。
しかし、第1回期日の終了後の廊下で、会社側代理人からいきなり呼び止められ、何かと思えば「交渉は行うが、補償については一切行わない」と言うのです。ほんの数分前に、労働委員会において団体交渉を行なうことを確認したばかりなのに、「舌の根も乾かぬうちに」とは真にこのことです。団体交渉の席には着くが、結論だけを伝え、話し合いにより解決を図ろうとする意思が全くみられませんでした。

◇「訴訟が考えられているため回答できない」

ユニオンの要求には補償問題もありますが、作業環境の開示や退職労働者の健康管理問題も含まれているため、会社側と調整をおこない1112日に会社側代理人の事務所において第1回団体交渉を行なうことになりました。
熊本県にお住まいの組合員のYさんにも、会社側代理人の事務所がある長崎まで来ていただき、ユニオン側は3名が出席しました。会社側は代理人の2名の出席でした。ユニオンから「作業実態を知る会社の役員がなぜ出席しないのか」と問うと、「会社側の対応と考え方は決まっている。Y氏が在職中であるならば、会社の然るべき人が出席して回答する必要があるが、Y氏は退職しているので出席する必要はない。会社としては、裁判において認められたことについては対応するという考えであり、それ以外の事については履行することはできないと考えている」との回答でした。
ユニオンは各要求項目について回答を求めましたが、会社側は同趣旨の回答の繰り返すのみでした。そして、「将来訴訟が考えられているため、団体交渉における回答はできない」と言い切るため、交渉において何ら合意点を見いだすことができませんでした。

◇不当労働行為の救済申立を

退職労働者の団体交渉権をめぐっては、最高裁での判断が確定しています。ひょうごユニオンが、石綿健康被害の問題について住友ゴム工業に対して団体交渉を申し入れたが、会社側がそれを拒否した事件です。
「使用者が、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争として、当該紛争を適正に処理することが可能であり、かつ、そのことが社会的にも期待される場合には、元従業員を『使用者が雇用する労働者』と認め、使用者に団体交渉応諾義務を負わせるのが相当であるといえる」と判示されています。そして、「石綿の使用実態を明らかにしたり、健康被害の診断、被害発生時の対応等の措置をとることが可能であり、かつ、それが社会的にも期待されている」とされています。
アスベストユニオンは、日本冷熱の交渉対応が不誠実であるとして、20201215日、神奈川県労働委員会に対して、不当労働行為の救済申立をおこないました。それ以降調査が開始され、6月4日には第3回目の調査が行われました。

◇損害賠償を求め提訴

Yさんの体調を考えると、これ以上会社の不誠実な対応に時間を費やすことはできず、2021年5月10日、石綿肺がんと振動障害に対する損害賠償を求め、熊本地方裁判所天草支部に提訴しました。今回の案件は、アスベスト被害救済訴訟九州弁護団の先生方にご協力いただくことになりました。請求額は、損害金と弁護士費用を合わせた3,300万円です(提訴後に本庁回付が決定し、裁判は熊本地方裁判所で行われることになりました)。
提訴後の12日、熊本県弁護士会館において、原告と弁護団そしてユニオンも同席して記者会見を行いました。原告は、「会社は労働組合と誠実に話し合おうとせず、裁判決まったことには応じるという態度でした。会社のために一生懸命働き、その結果、体を壊したのに、この間の会社の対応は残念でしかたありません。私と同じような仕事をした人は沢山います。体を壊しても労災の申請もしていない人もいると思います。一緒に働いた同僚らのためにも、シッカリ訴えていきたいと考えています」と訴えました。
労働組合を嫌悪し、誠実に団体交渉に応じない日本冷熱の対応を許すことはできません。日本冷熱の関連では、各事業場を合わせると23名が石綿関連疾患で労災認定を受けています。日本冷熱はアスベスト被害者に、そしてアスベスト被害の実相から目をそらさず、しっかり向き合うべきです。

(「アスベストユニオン」機関紙より)