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2020年度 石綿による疾病の労災補償状況

2021/08/20
◆2020年度の支給決定状況
 
2021年6月25日、厚生労働省は2020(令和2)年度の「石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況まとめ」を発表した。請求件数は1,088件(前年度に比べ116件減)、支給決定件数は1,014件(前年度に比べ79件減)、認定率は92.7%であった。

 
なお、石綿肺はじん肺として労災認定された事案のうち石綿肺として判断したものを抽出し集計したもので、2020(令和2)年度は、45件(前年度52件)であった。業種別の支給決定状況では、多い順から建設業54.6%、製造業35.6%、運輸業1.7%、鉱業0.5%、電気・ガス・水道又は熱供給事業0.4%、その他の事業7.3%となっている。


また、石綿による疾病により死亡した労働者の遺族で、時効(5年)によって労災保険の遺族補償給付を受ける権利が消滅した人については、「石綿救済法」に基づき、「特別遺族給付金」が支給される制度が設けられている。2020(令和2)年度の特別遺族給付金の請求件数は40件(前年度43件)で、支給決定件数は20件(前年度23 件)であった。

※決定件数は当該年度以前に請求があったものを含む

◆兵庫県の支給決定状況
 
2020(令和2)年度における兵庫県の労災請求件数は77件で、支給決定件数は75件であった。疾病別にみると、中皮腫は請求件数48件で支給決定件数44件、肺がんは請求件数25件で支給決定件数27件、良性石綿胸水は請求件数0件で支給決定件数1件、びまん性胸膜肥厚は請求件数4件で支給決定件数3件となっている。請求件数の多い都道府県をみると、東京154件、大阪120件、北海道79件、兵庫県77件、神奈川県70件、広島県70件の順となっている。

 
また、2020(令和2)年度における兵庫県の特別遺族給付金の請求件数は5件で、支給決定件数は2件となっている。都道府県別にみると兵庫県の請求件数が最も多かった。


◆救済率は依然として低率
 
厚生労働省は毎年9月に、人口動態統計に基づき、「都道府県別にみた中皮腫による死亡数の年次推移」を公表している。2020年度分は未だ公開されていないが、2019(令和元)年度は1,466人となっており、過去5年の結果をみると約1,500人で推移している。これに対し、2020(令和2)年度の中皮腫の労災請求件数は617件(前年度677件)、支給決定件数は608件(前年度641件)であり、中皮腫の死亡数と支給決定件数を比較すると、労災補償を受けている件数は約4割と少ない状況である。


さらに、石綿肺がんは中皮腫の2倍といわれているが、2020(令和2)年度の石綿肺がんの労災請求件数は407件(前年度443件)、支給決定件数は337件(前年度375件)で、中皮腫より200件以上も少ない件数となっている。また、中皮腫の認定率が95.9%であるのに対して、肺がんの認定率は88.2%と9割を下回り、認定率も低い。石綿肺がんの支給決定件数が中皮腫より少ない原因は、石綿肺がんの労災認定基準が厳しすぎることにあると考えられている。

このことから、石綿による疾病を発症していても、救済に繋がっていない被災者が多くいることが推察される。

◆補償に関する請求期限の問題

特別遺族給付金の請求期限は2022(令和4年)年3月27日までで、支給対象者は2016(平成28)年3月27日までに死亡した労働者の遺族とされている。

2016(平成28)年3月28日以降に死亡した労働者の遺族においては、労災保険の遺族補償給付の請求期限(死亡後5年)を過ぎると何の補償も受けられない状態になっている。

2020年度には、特別遺族給付金の請求件数が40件、支給決定件数が20件(中皮腫8件、石綿肺がん10件、石綿肺2件)あることから、救済措置存続の必要性は高い。本年度は中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会が開催される年となっている。まだまだ多くの被害が埋もれていることが考えられ、被災者救済のためにも至急法改正をすすめ補償の隙間を無くす必要がある。