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地震・石綿・マスク支援プロジェクト

能登半島地震の被災地を訪問
アスベストの危険性を伝え、防じんマスクを届ける

2024/06/21
私たち「災害とアスベストー 阪神淡路30年プロジェクト」は、東京の「アスベスト・リスクコミュニケーションプロジェクト」と協同し、2024年5月6日から8日にかけて、能登半島地震の被災地へ防じんマスクを届け、現地の被災調査を行った。
被災地で活動するボランティアの方々は、被災した建物の壁材を剥がす作業や壊れた建材を片付ける作業を行う機会がある。しかし、アスベストの危険性に対する彼らの認識は、低い傾向にある。
ボランティアの方々の善意が20年後、30年後に二次被害として現れる事態は避けなくてはならない。そう感じた私たちは、彼らへの啓発活動として、防じんマスクを届ける活動を決意し、製造元である3M社の協力のもと、1600個の防じんマスクを準備した。


◆被災地の各団体へ防じんマスクを寄贈

私たちは、被災地で活動する3つのボランティア関係団体を訪問し、防じんマスクを届けるとともに、被災地の状況やアスベストに対する認識について、意見交換を行った。
訪問先である団体は、七尾市を拠点にボランティア活動を続ける「被災地NGO協働センター」、輪島市の「社会福祉協議会」、石川県庁に滞在して活動する「JVOAD(全国災害ボランティア支援団体ネットワーク)」の3つであった。
私たちは防じんマスクを車に積み込み、金沢市を拠点として、七尾市、穴水町、輪島市と北上し、能登半島を縦断する形で各被災地を訪問・視察した。


◆孤立した被災地でアスベスト調査

被災地の復興は遅れていた。特に能登半島北部に位置する輪島市の市街地では、道路や歩道が波打つように起伏しており、手付かずのまま放置された倒壊家屋が点々と並んでいた。街全体が静かで、ボランティアの姿は数人しか見られなかった。復興へのエネルギーは一切感じられない。ここだけ時が止まっているかのような気がして、被災地が孤立しているように思えた。

私たちは輪島市朝市の火災現場跡にも足を運び、視察調査を行った。火災発生から4カ月が経つというのに、焼け落ちた建材等が歩道に残っている状態であった。私たちは焼け残った瓦礫にアスベスト建材が含まれていないか確認しつつ、巡回視察を続けた。そして、歩道から見上げた先の天井や梁に、吹き付け材が残っている建物を発見した。それは複数の建物内で見つかり、アスベストかロックウールか、分析をしないと判断はできないが、野ざらしの状態であった。
その翌日、私たちは石川県庁にある環境政策課を訪問し、その事実を伝えて調査を促した。


♦心配になった災害廃棄物仮置場

視察調査では、七尾市と穴水町に設けられた災害廃棄物の仮置場2カ所を訪れた。
七尾市の仮置場においては休業日であったため受入れ作業員がおらず、閑散としていた。廃棄物は品目ごとに置場が決まっており、壁材やスレート等のアスベスト飛散の危険性があるものは、まとめて土のう袋に入れて保管されていた。私たちが土のう袋の中身を確認すると、粉砕された壁材等がぎっしり詰まっていた。

一方、穴水町の仮置場においては稼働日であり、災害廃棄物の山と山の間で重機が唸りをあげていた。この仮置場では、廃棄物は6種類に分別されることとなっていたが、土のう袋等の使用はなく、壁材や石膏ボードが野ざらしの状態で埋もれていた。すぐ周辺では作業員が廃棄物の整理を行っていたが、一般のマスクすら着用していなかった。アスベス飛散の危険がある廃棄物は、飛散しない形で保管し、作業員は防じんマスクを着用すべきだと感じた。


♦今後の被災地 アスベスト飛散が懸念

被災地では、建物の解体や撤去を行政が費用負担する「公費解体」の受付けが始まっている。しかし、NHKの報道によれば、2024年5月26日時点において公費解体が完了している件数は、申請数の約2 %にとどまっているそうだ。
公費解体が遅れている理由は、自治体での事務手続に時間がかかっていることや、解体業者の不足等が挙げられるとのことだ。復興が遅れている中、政府は事務手続の簡略化を図っており、石川県においても事業者の宿泊場所を確保する対応を進めているという。

今後は徐々に公費解体が加速し、復興が進むと期待できる。一方で、建材として倒壊家屋に含まれるアスベストの飛散が懸念される。アスベスト飛散に対する、ボランティアの方々の認識は十分とは言えない。そう肌で感じたのは、私たちが石川県庁に滞在するボランティア団体「JVOAD(全国災害ボランティア支援団体ネットワーク)」と意見交換をした時のことであった。事務局の担当者によると、公費解体が本格化するにつれ、ボランティアの必要性は高まっていくとのことだった。解体前に室内や家財道具を片づける要員が求められるからである。さらに、ボランティアの中でも技術系の方々においては、重機の取り扱い作業を担当するという。ボランティアと解体業者との境目が曖昧になっているとも話していた。

アスベストに対する認識については、正しい情報が不明で、行政が公表するアスベスト濃度値を見ても危険か判断できないという意見が聞かれた。アスベストを恐れ過ぎるとボランティア活動が鈍ると心配する担当者に、私たちは、アスベストを正しく恐れることが重要だと伝えた。


♦防じんマスクと正しい知識を被災地へ

被災地では今後、復興へ向けた家屋等の解体作業が増加することから、アスベスト吸引による二次被害の発生が懸念される。
災害によって生じるアスベスト飛散の危険性を知る私たちは、被災地へ向けた、継続的な防じんマスクの支援活動とともに、アスベストに対する正しい知識の啓発活動を進めて行く必要がある。

最後に、今回の活動に対して寄付をいただきました皆様に感謝申し上げます。
今後においても、被災地のニーズに合わせて防じんマスクを届ける活動を継続していきます。引き続き、お力添えのほどよろしくお願いいたします。