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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

宝塚市職員 中皮腫を発症し労務災害と認定される
アスベストが吹き付けてある建物への立ち入りでばく露

2024/03/22
定年まで宝塚市役所の技術職員として勤務してきた真方明さん(68歳)は、2022年12月の健康診断で胸部に異常陰影を指摘され、20 23年1月に市立病院を受診し検査をおこなったところ、悪性胸膜中皮腫と診断された。
真方さんは、職場の天井や壁にアスベスト(石綿)が吹き付けられていた場所があったことや、アスベストが劣化して舞い上がっていたことを思いだし、2023年2月に地方公務員災害補償基金兵庫県支部へ公務災害の認定請求をおこなった。その結果、本年1月、公務上の災害であるとの認定通知が届いた。


♦同僚も中皮腫を発症していた

宝塚市の浄水課職員として働いてきたAさんも、2005年12月に悪性胸膜中皮腫を発症し、浄水場で勤務した際にアスベストにばく露したとして公務災害認定請求を行なった。
Aさんは、1973年4月から1984年3月まで  B浄水場で勤務し、その後他の浄水場でも勤務した。B浄水場のポンプ室の壁面と天井にはアスベストが吹き付けられていた。そのため、「ポンプ室においては、施設見学者も多く出入りしており、清掃時にはほこりが舞っていて、キラキラ光っていた」と本人や同僚の職員が証言した。
Aさんの場合は、公務外の災害であるとされ、審査請求及び再審請求を行なったが、兵 庫県支部長の公務外認定が維持された。ただ Aさんは、宝塚市役所に採用される前の民間企業在職中でのアスベストばく露が認められ、労災保険の認定を受けることができた。
B浄水場のポンプ室は、1990年12月にアスベスト除去工事が実施されたが、工事前に計測された石綿粉じん濃度は、最高で2. 74本/ Qであった。基金支部はこの数値を根拠として、「大気汚染防止法の定める敷地境界基準 (10本/Q)を明らかに下回っている。(最高10. 0本/Qを記録した) C浄水場の空調機械室に本人が滞在していたのは月10回程度で 1回10~20分程度であり、長時間滞在していたなどとする事実は認められない。」として公務外の判断をおこなったのであった。


♦真方さんの石綿ばく露

真方さんは、1982年4月から1991年3月までの約9年間、B浄水場で勤務した。B浄水場は地下1階、地上3階建てで、1階と地1階部分が大型ポンプ室、2階が事務室、3階が水質検査室であった。建物の1階と地下1階部分は、防音対策として全ての壁面と天井部分にアスベストが吹き付けられていた。真方さんが日常的に作業を行っていたのは3階の検査室であった。
当時、水道局では、小学4年生の社会見学として、市内の20校を超える学校の約9割をB浄水場で受け入れていた。そのため、管理室の職員だけでは対応できず、真方さんたち水質検査の職員も社会見学の案内係を担当していた。
見学は各クラスを職員一人が担当し、浄水場内を引率し説明をおこない、ポンプが設置してある地下室も案内をしていた(ある時期 から地下へは降りないようになった)。ポンプ室の1階部分には、延長12芦X幅0. 7位の管理用通路があり、そこに約40人の子供達を入れ、ポンプと自家発電機の説明をおこなっていた。ポンプ室での滞在時間は約10分であったが、児童が通路に入っただけで床に堆積していたアスベストが巻き上がる状態であった。狭い通路は児童でぎゅうぎゅう詰めの状態で、子供達はアスベストが吹き付けてある壁面に身体を擦りながら動かざるを得ず、なかにはわざと壁のアスベストを面白がって剥がす児童もいた。

真方さんがポンプ室に立ち入ったのは、1回の引率で約10分、年間15~20回で9年間、アスベストにばく露した時間数は約22時間から30時間であった。アスベストにばく露した地下のポンプは24時間稼働しているため、児童に説明を行う際は、ポンプの音に負けないように大きな声を出す必要があった。この様な社会見学時の様子について、同僚二人も証言し、陳述書を作成して基金支部に提出した。


♦吹付け材は青石綿27%含有

過去にAさんの事案が公務外と判断された経緯があるため、真方さんが如何に狭い空間で高濃度にアスベストにばく露したのかを示すことが重要であった。市がアスベストばく露に関して基金支部に提出した資料は、ポンプ室の石綿除去工事(1990年12月実施分)に関する物だけであったので、Aさんと同じ結果が基金支部から出るのではないかと懸念された。

しかし、Aさんの公務災害認定の取組みにおいて、大変貴重な資料が数多く集取され残されていた。その資料の提供を受け、検討し活用した。
その一つは、2007年に行われたB浄水場の電気室の石綿除去工事の資料である。そのエ事の際の「分析結果報告書」には「クロシドライト27%含有」と記載されていた。浄水場の地下ポンプ室と電気室は同一建屋内にあるため、ポンプ室の壁面や天井に吹付けられていたのはクロシドライト(青石綿)含有のトムレックス(石綿吹付材)であったとして資料を提出した。
また、1990年12月に行われたポンプ室の石綿除去工事の際に計測された石綿粉じん濃度に関して、文献や実際のシミュレーションに基づく資料を基に、正確な数値でないことの証明を試みた。
さらに、厚生労働省が公表している資料を基に、吹き付けアスベストのある部屋で働いていただけで、2021年度までに182人が労災認定を受けている事実を資料として提出した。
また、1995年の震災時に、神戸市内の警察署に勤務していた元警察官が、発生直後から約1ヶ月間、長田署に派遣され、がれきが広がる被災地を昼夜交代で巡回した際にアスベストにばく露し悪性胸膜中皮腫を発症した事例がある。この事例では、ばく露期間が約1ヶ月で、屋外での救護活動や犯罪警戒という作業内容であったが公務災害と認定された。この事実についても資料として提出した。


♦ 「石綿にばく露した蓋然性は高い」

基金兵庫県支部は、資料を収集したうえで基金本部に意見を伺った。基金本部の回答は「公務上の災害として取扱われたい」であった。基金本部の専門医師は「吹き付け石綿がある環境下に出入りしていれば、普段からある程度のばく露があったと考えられ、B浄水場建物内からクロシドライトが検出されていることからも、本人が従事した業務により石綿にばく露した蓋然性は高く、業務以外でのばく露状況も確認できない。以上のことから総合的に判断すると、公務で石綿にばく露したことにより悪性胸膜中皮腫を発症したものと考えられる。」と見解を示し、基金本部はこの意見に沿って公務上と判断した。
今回の基金本部の判断をAさんの事案に当てはめるならば、Aさんも公務災害と認定されるべきである。


♦求められる元職員らの健康対策

石綿関連疾患に係る公務災害の申請・認定件数について、基金本部は集計し公表している。現在、令和3(2021)年度までの分が公表されているが、総請求件数は269件で、そのうち中皮腫の請求は184件となっており、中皮腫の認定率は51.0%である。2012年度から2016年度の5年間では68. 1%で、2017年度から2021年度の5年間では67. 3%となっている。
一方で、労災保険における中皮腫の認定率をみると、平成25  (2013)年度から令和4 (2022)年度までの10年間で、最低が94. 5%で最高が97. 8%となっている。今回の事例のように「石綿にばく露した蓋然性が高い」場合は公務上と判断するように今後も調査を行うべきである。
同僚のお一人は、自分がばく露した証として、ポンプ室に吹き付けてあった青石綿を瓶に入れ保管しておられた。元職員らへの健康対策が求められる。