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2018年9月24日、同僚のTさんの夫Kさんが、小学校高学年を頭に一番下は3歳の3人 の子どもとTさんを残して給死されました。私は「仕事が原因では…」という気持ちが拭えず、Tさんに、ひょうご労働安全衛生センターの存在を伝えました。Tさんから「相談してみようと思う」と聞いたのをきっかけに、労災申請の代理人に名を連ね微力ながら関わることとなりました。
2020年9月15日、ようやく労災申請にこぎつけましたが2021年4月に不支給決定。2021年7月に審査請求しましたが2023年2月に棄却。2023年3月に再審査請求を行いましたが 2023年11月に棄却という結果になりました。
♦ Tさんの一番の願い
当初より、Tさんの願いは「労災認定を、というより、子どもたちに夫の働き方が当たり前の働き方ではないということを伝えたい」というものでした。少しでも詳しくKさんの労働実態を明らかにし、「お父さんは大切な子どもたちを置いて勝手に旅立ったのではない。大変な働かされ方を強いられる中で病気になり亡くなったのだ」という事実を子どもたちのために残せたらという一心だったと思います。
再審査請求の際に彼女が語った陳述のなかに「私が一番悲しかったのは、夫が亡くなってからも、子どもたちにとって日常生活は変わらなかったということです」という言葉がありました。配偶者が長時間労働とストレスにさらされる中、「絶望」を感じながらギリギリのところで家庭生活の24時間を成り立たせてきた様を傍らで聞き、審査会はこの言葉をしつかりと受け止めてほしい、Kさんの働き方がどんなに過酷だったかをきちんと審議してほしいと強く思いました。
♦私たちの訴え
過労自殺の労災認定基準においては、いかに長時間労働であったかということと、精神にいかに大きなダメージを与える出来事があったかという点が重視されます。
最初に労災が不支給決定された理由は、「労働時間について平日はすさまじく長いが、士・日は出勤していないためトータルの時間では1ヵ月160時間を超えていない。 うつ病を発症する原因になった『出来事』が明らかでない」という事でした。
「出来事」を明らかにすべく、自宅で使用していた仕事用のパソコンの使用記録や社内メールの記録について会社に提供を依頼しましたが実現しませんでした。審査請求においては、審査官の権限により会社に対して会社貸出のノートパソコンの使用履歴やメールのやり取りについて提供を求めましたが、審査官はKさんの自殺の原因となる「出来事」を確認することはできませんでした。
そんなおり、脳・心臓疾患の労災認定基準において、勤務間インターバルが11時間未満であれば残業80時間以上の過労死ラインを越えずとも認定の要因とする旨、改正がされました。私たちは、精神疾患の労災認定においても即時適用すべきと考え、審査請求においてその事を訴えました。
Tさんは、子育て、引っ越し、仕事をしながら、Kさんのパソコンやスマホの記録を見るためにパスワードを探したりプロバイダーにかけあったり、PiTaPaの改札時間の記録を取り寄せたり、Kさんの上司や元同僚と連絡をとり話しを聴いたり、文章を書いたりと、頑張りぬきました。私たちはTさんが集めた情報をもとに「帰宅時間一覧表」や「労働時間集計表」を作成していきました。
しかし、審査請求においても、「仕事内容・仕事量の大きな変化(時間外労働としては概ね20時間以上増加し、 1ヵ月当たり概ね45時間以上となるなど)が生じたとして心理的負荷は「中」、それ以外の負荷要因は認められない」とされ、棄却となりました。
審査請求が棄却と判断された頃、厚生労働省では精神障害の労災認定基準改正の検討会が行なわれていました。私たちは、出来事が証明できずとも、睡眠時間や休息時間をも削られる実態が過労自殺のベースになったことを主張し再審査請求に臨むことにしました。
♦裁決の問題点
結果としては再審査請求も棄却となりました。
難しいとは感じつつも、私自身は、やはり訴えを認めてもらいたい気持ちが強かったのは事実です。そして、棄却という結果以上に「勤務間インターバルは特に短いと評価できない」という裁決の文面に落胆と怒りを正直感じました。
「出張後の土日は休日として確保されていた」「会社関係者からの聴取では休日においても多少の業務関係のメールは送ることはあるが業務指示と評価できない」「勤務間インターバルは6か月間に11時間未満は33回(1か月に最多9国・最少3図)、最も短いのは8時間53分。8時間台、9時間台は連続しておらず、勤務間インターバルが特に短い勤務と評価することはできない」「業務による心理的負荷は『中』」「研究職から営業職への配置転換、新規事業の担当、他社業務の兼任は6か月以内の出来事でないので評価の対象外」。これらの記述は、負荷表に照らし合わせた判断を淡々と書いたものでしょう。
しかし、実際に毎日6時には起床し、7時に自宅を出て長い通勤時間、寄り道すらせず自宅に帰るのが夜中という日々でした。しかも海外への出張や県外への出張が続くなかでの毎日でした。
「土日も社内メールが届くから確認をしないと仕事が成り立たない」と言い、子どもたちとのキャンプ中ですら仕事をする姿を家族はみています。Kさんがどんなに疲弊していったか、家族的責任や権利がどんなに侵害されていったかを考えるとき、これを正しい審理といえるのか、睡眠時間・休憩時間すら削られ連日働くことが当たり前の働き方として扱われていいのか、我慢強い人が被災者となっていいのかという疑問を私は拭うことができません。
♦長時間労働は当たり前ではない
開示請求をした書類の中に勤務評定の評価シートがありました。そこからは、上司からの指導や支援、フォローの姿勢は感じられず、仕事は本人任せで、結果のみを問い、仕事への執念や気概を強く求める会社の体質が感じられました。
同僚の証言はみんなが口を合わせた印象しか持てなかったのも事実です。研究職から営業職に配置換えされる際に退職を選ぶ社員も多い会社において、Kさんは二つの職務を兼任させられました。Kさんの死亡退職後の後任者は業務が減ったと聞きます。他社の業務まで兼任することが決まった年の年賀状には、同僚からの心配の言葉が多数書かれていました。Kさんは亡くなる3ヵ月ほど前から、以前にも増して中国への出張が増えており、きっと「出来事」はあったと私は確信します。私たちが作成した「帰宅時間一覧表」や「労働時間集計表」からも、審査会が認定した以上に長時間の労働にさらされていたのが真実だと確信します。
しかし、現在の基準では仕事が原因だとは認められませんでした。知りたかった真実を掴みきることもできませんでした。Kさんの労働実態を明らかにする作業は私ですら胸が苦しくなるものがありました。被災者遺族が大変な思いをして証明していかなければならないという道の険しさを思い知りました。
Kさんの労働は、決して当たり前の働き方ではなかったということを明らかにできたのではないかと思います。これはTさんがKさんの名誉と子どもたちの未来のために頑張ったからこそです。Tさんを誇らしく思うと同時に、私たちの訴えを皆さんに知っていただきたくこのたび執筆させていただきました。
裁決結果を受けてTさんは「今の日本はまだまだ長く働いて当たり前の国なんだなと改めて感じさせられました」と言っています。
「子どもたちが理解できるようになったら、意見書などを読ませます。体を壊さない程度に楽しく働ける大人になってほしいと思います」というTさんの言葉を私自身もう一度かみしめたいと思います。
人間らしく働き暮らすとは?共同労働とは?長年そのことを考え取り組んできたつもりですが、ますます儲けが最優先され労働者が大切にされないこの社会が残念でなりません。でも、声をあげたことが未来につながると信じます。大変であっても、被災者を出さない、労働者の生命、尊厳、権利が大切にされる社会に近づけていきたいと思っています。
遺族 Tさんの思い
夫が亡くなってあっという間の5年間でした。会話の多い夫婦で、仕事の事も含め夫のことを理解しているつもりでいましたが、全く理解できていなかったんだと実感しています。
夫の仕事が忙しくなり、顔を合わせる時間が殆どなくなってしまったときに、なんとかして時間を作る努力をすればよかったあのときに無理矢理にでも病院に連れていけばよかった、と後悔することばかりです。
労災申請について、現在の認定基準を満たしていないのであれば、不支給の結果は仕方がないことなのでしょう。
しかし、夫の勤務先の同僚数名に当時の夫について伺ったときに、「部署が違うのでよくわからない」「特に変わったところはなかった」「仕事は特に大変なものでなかった」という返答ばかりでした。
家庭での疲れた様子とのギャップにきっと何か夫を苦しめる「できごと」があったのだと思っています。
家族のために一生懸命働いていたのに、家族と過ごす時間が非常に少なかったことは残念でなりません。
働くお父さんも、仕事だけでなく、家庭やプライベートの時間を持てて当たり前の世の中であってほしいという思いでいっぱいです。