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医療用手袋の再利用作業でアスベストにばく露
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福岡県在住のMさんが発症した悪性胸膜中皮腫について、久留米労働基準監督署長は業務上の災害であると決定しました。Mさんの元に労災認定の通知が届いたのは、2月上旬でした。
Mさんとの出会いは、昨年10月27日、アスベスト患者と家族の会福岡支部が取り組んだ九州キャラバンの鳥栖会場(佐賀県)でした。ご夫婦で参加され、てっきりご主人が患者さんかと勝手に思ったのですが、実はMさんが悪性胸膜中皮腫の患者さんでした。
右田さんや小菅さんと一緒にお話を伺ったのですが、「なぜ病気になったのか分からない」と悩んでおられました。職歴を尋ねると「学校を出てから定年まで看護師をしていた」と言われるので、「手術用のゴム手袋を再利用する作業に従事されませんでしたか?」と尋ねました。すると顔色が変わり、驚かれた様子でした。就職し最初に配属されたのが中央手術室で、ゴム手袋の再利用のためタルクを使用した経験があったからでした。
さらにお話を伺っていくと、初めて病院を受診したのが2017年11月9日とわかり、療養開始から間もなく2年を迎えようとしていました。労災保険の休業補償には時効があり、2年を超えると1日1日補償を受けることができなくなります。既に、環境の認定は受けておられましたが、早速、久留米労働基準監督署に行き、時効を中断させるため書類が不備なまま休業補償請求を行いました。
◆打ち粉としてタルクを使用
以前は、医療用のゴム手袋を洗浄し、滅菌したうえで再利用している病院が多くありました。滅菌し、再利用を行うための作業工程において、「打ち粉」としてタルクを使用していましたが、タルクにはアスベストが混入しているものがありました。
タルクとは滑石ともよばれる白色をした鉱物です。産業用には原石を粉砕して非常に細かい粉にして使用することが多く、ゴム製造、製紙、農薬・医療品製造、化粧品製造など多くの分野で利用されています。また、ベビーパウダーや「おしろい」は、まさにタルクそのものです。白い色をしているので顔料などにも使用されます。
神山宣彦教授によると、1975年に、7社のベビーパウダーを分析したところ、5社から最高1.8%のアスベスト(クリソタイル)が検出されたと報告されています。さらに、1986年5月、ベビーパウダー11社19製品を分析したところ、5製品からアスベストが検出されたと報告されています。
◆懸念される医療関係者の被害
2012年7月、山口県にお住いの元准看護師のKさんが、医療用手袋を再利用する作業において、使用したタルクに混入したアスベストにばく露し、悪性胸膜中皮腫を発症し、労災認定されました。国内では、手袋に付着したアスベストにばく露し、アスベスト疾患を発症し、労災認定される医療関係者は初めてでした。
そして、翌2013年5月には、元看護士のTさん(大阪府)が発症した悪性胸膜中皮腫が、労働災害であると認定されました。Tさんも、手術用手袋を再利用するための作業において、タルクに混入していたアスベストにばく露したのでした。
厚生労働省が公表している石綿労災認定事業場一覧を検索すると、宇都宮署が「タルク等石綿含有物を使用する作業」に従事したとして、整形外科医院に勤務し中皮腫を発症した方の認定例がみつかります。タルクを使用する作業に従事した医療関係者は多数存在すると思われ、今後も医療関係者のアスベスト被害が懸念されます。
◆1日約100枚の手袋を処理
Mさんは、次のような手順で作業を行っていたと言われています。
「大きなトレーにハンカチサイズのガーゼを3,4枚重ね、ガーゼの中心に打ち粉をすくって置く」
「ガーゼを四角に持ちゴムか紐で結んで包む」
「洗って乾燥させたゴム手袋に、ガーゼでパタパタと粉を付けていく」
「次に、ひっくり返してゴム手袋の口に息を入れて膨らませ、穴が開いていないか確認する」
「更に、ガーゼでパタパタと粉を付けていく」「1日約100枚のゴム手袋の処理を、手術の合間の業務として行っていた」
また、病棟勤務の際は、ゴム製の氷嚢に、付着を防ぐためタルクを付ける作業を行っていました。
Mさんの場合は、手術室で勤務したS36年から昭和49年までの13年4ヵ月と、昭和49年から昭和62年までの10年間のうち一部の期間が石綿ばく露作業であると認定されました。山口県のKさんは、昭和56年6月から昭和60年11月までの約4年5ヵ月間の勤務が石綿ばく露作業期間と認定されました。大阪府のTさんは、昭和58年2月から平成7年までの約12年間における医療用手袋の再利用作業が石綿ばく露作業期間と認定されています。
ベビーパウダーや化粧品の原料として使用されていたタルクには、不純物としてアスベストが混入していた製品があることが指摘されています。
Mさんらと同じような作業に従事された医療関係者は、注意が必要です。