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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

アスベスト(石綿)労災 時効救済制度
支給決定をめぐる状況

2022/12/23
石綿による疾病により死亡した労働者の遺族で、時効(5年)によって労災保険の遺族補償給付を受ける権利が消滅した人については、2006年3月に施行された石綿健康被害救済法に基づき、「特別遺族給付金」が支給される制度が設けられている。
私たちはこの救済法の請求期限延長を求めてきたが、本年3月27日に打ち切られる事態を迎えた。
そのため3月18日から3日間、全国一斉緊急ホットラインを開設した。東京・名古屋・大阪・愛媛・福岡の5ヵ所に相談窓口を設けたところ合計で750件を超える相談が寄せられた。その結果、2021(令和3)年度の特別遺族給付金の請求件数は546件となり、前年度の40件を大きく上回った。
申請から8か月が経過し、業務上・外の決定がほぼ出つつある。今回、特徴的な決定内容について紹介する。


♦迅速な調査、決定例

旧国鉄職員の方が石綿関連疾患を発病した場合は、国鉄清算事業本部(神奈川県横浜市)が申請を受付け、調査をおこなう。時効により請求権が消滅した方については、特別殉職年金や特別遺族一時金が支給される制度が設けられている。
旧国鉄鷹取工場において車輌の電気工事を担当し、2014年に肺がんで亡くなったAさん (89オ)のご遺族から相談を受けたのは、本年の2月末だった。請求期限が迫っていたため、受診した医療機関に問い合わせたところ、カルテや画像が残っていた。水嶋医師に画像を読影していただき、プラーク所見が確認できたため、3月23日に申請をおこなった。作業内容を確認するために同僚らの聞き取りを進めていたのだが、国鉄清算事業本部の調査は医学的所見を重視するため、4月20日付けで「災害認定通知書」が遺族の元に届いた。請求から1カ月未満での認定決定であった。

ホットラインに電話があったBさんから、「父が三井造船(岡山県王野市)に30年以上勤務し、2014年に肺がんで亡くなった」という相談があった。作業内容も造船所での勤務としか分からず、死亡診断書も医療記録も何も無かった。申請を行ない時効の進行を止めたうえで、岡山監督署が発行した「死亡届書記載事項証明書交付依頼文」を持ち法務局に行ったところ、死亡原因が肺がんであることが確認できた。その後の岡山署の調査は迅速で、三井造船玉野事業場において石綿労災が多発している点を考慮し、5月17日付で特別遺族一時金の支給決定の判断を行なった。


♦医療関係の資料がなくても支給決定

中皮腫発症の原因は90%以上がアスベスト曝露によるとされている。3月のホットラインには中皮腫を発症し亡くなられた方の遺族からの相談も多く寄せられた。

Cさんは、約30年間、新日本製鐵八幡製鉄所において動力関係の仕事に従事し、2009年に悪性胸膜中皮腫で亡くなった。発症時85オだったため手術も生検もできない状態だったが、珍しい病名だったため遺族が死亡診断書を保管されていた。そして、「壁にアスベストが使用されていた」との言葉を覚えていたので、「動力全般の保守・点検作業に従事したため保温剤・断熱材として使用されていた石綿に接触したと思われる」と申立てたところ、北九州'|西署は9月29日付で支給を決定した。

また、熊本県のDさんからは、「父が鉄工所で働き、2004年に悪性胸膜中皮腫を発症し 87オで死亡した。2006年に環境保全機構から弔慰金をもらったが、仕事が原因ではないだろうか」と相談を受けた。職歴を確認すると、鉄工所勤務の後に、電気工事を行なう会社で3年間勤務したことがあり、NTTの建物を専門に電気工事を行なっていたことが分かった。建築基準法では壁や床をケーブルが貫通する場合は、その貫通部分に防火措置が必要とされている。防火措置がとられていないと、火災が起きたときにケーブルを伝って全体に拡がる危険性があるからである。そのためケーブル貰通部分には各種のアスベスト製品が使用されいるのである。その事を示す論文を提出したところ、熊本署は8月9日付で特別遺族一時金の支給を決定した。


♦資料が破棄され不支給決定

広島県のEさんからは、「父が日立造船で約45年間働き、肺気腫を発症し、2013年に死亡した。弁護士に相談したら死亡診断書を取るように言われたが、残っていない」と相談があった。そこでまず特別遺族一時金の請求を行い、法務局から死亡診断書を入手することをアドバイスしたところ、死亡原因が肺がんであることは分かった。日立造船因島工場は、右綿関連疾患の労災認定者が多く確認されている事業場である。支給決定が行なわれるものと思っていたら、6月27日付で不支給決定が通知された。Eさんの場合、約2ヶ月間入院した病院に、カルテと亡くなる2週間前に撮影した画像が残っていたのであった。それらを広島労働局石綿関連疾病協議会が検討し、石綿所見が確認できないと判断したのであった。45年間も造船所で働き、肺がんを発症して亡くなったのに、認定されないののである。現在、労働保険審査請求を行なっている。

長崎県のFさんのご遺族からは、「父が石綿を取り扱う会社で働き、1990年に肺がんを発症し、死亡した」と相談があった。職歴を確認すると、長崎県の日本石綿株式会社に昭和44年から51年までの約7年間勤務、それ以前には約18年間に渡り三菱長崎造船所の構内下請け会社で働いていたことが分かった。長崎署に申請を行ない、法務局に死亡診断書を取りに行ったのだが、「保存期間を経過したため令和元年12月14日に廃棄済みである」との回答であった。死亡原因を証明する資料がないのだが、遺族は被災者が死亡した日に主治医から「解剖をさせて欲しい」と依頼され解剖したことを覚えていた。しかし、受診した全ての医療機関に確認しても解剖記録も医療記録も残っていなかった。長崎署は8月26日付で「死亡原因を確認することができない」として、不支給の決定を行なった。厚生労働省は、人口動態調査に基づく「死亡票」の情報を保有しており、監督署が調査において情報を請求し、厚労省が開示すれば死亡原因が明らかになるのである。しかし、「目的外使用」との判断で活用ができない状態となっている。全ての右綿被害者の救済を真剣に考えるならば、厚労省が保有する情報を監督署の調査に活用すべきである。この件も、労働保険審査請求を行なっている。


♦同一事業場の判断について

今年1月、福岡県のGさんから、「父が2003年9月に肺がんで死亡した。父は保温工事作業に23年以上従事し、同居していた母と弟もその後亡くなっており、遺族は長男の自分だけ。生計を一にしていなかったが補償の請求は可能だろうか?」という相談があった(詳細は、本年3月号参照)。
福岡中央署は、死亡診断書において肺がんで死亡したことが認められるが、医学的所見を確認できる資料がないと判断し、本省に伺いを行なった。特別遺族給付金の調査においては、「過去に同一事業場で、同一時期に同ー作業に従事した同僚労働者が労災認定されている場合や、相当高濃度の石綿ばく露作業が認められる場合には、本省あて相談されたい」となっているからである。

その結果、「被災労働者は建築物の配管の保温・熱絶縁工事に23年間以上従事しており、石綿製品を用いた被覆作業を行っていたこと を事業主も認めていることから、業務による石綿ばく露があったものと判断できる。また、被災労働者の所属していた事業場と元請事業場が同一である別の下請事業場において被災労働者と同一時期に同一の石綿ばく露作業に従事した労働者が、右綿による肺がんを発症し労災認定を受けているところ、被災労働者も肺がんの発症リスクを2倍以上に高めるだけの石綿ばく露を受けていたものと推認される」として、9月6日付で特別遺族一時金の支給を決定した。

「同一事業場」という考え方を、「元請事業場が同一である別の下請事業場」と判断したことは、事業場の枠を広く捉えることであり、他の被害者の方の補償に繋がると考える。


♦全てのアスベスト被害者の救済を

本年3月27日に時効救済の請求期限は打ち切られたが、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が総力を挙げて、国会議員や各種団体の要請を行なった結果、本年6月に請求期限が再延長される法案が国会で成立した。
労災保険の遺族補償は死亡後5年が経過すると時効を迎えるため、2016年3月27日以降に死亡した遺族の中には、既に完全時効を迎えていた方も居た。法改正により、完全時効を迎えていた方についても、6月以降、特別遺族給付の請求手続きを開始している。一人でも多くの遺族が補償を受けられるように引き続き支援を行なっていく必要がある。

死亡後5年が経過すると、医療機関は医療記録を保存する義務はない。また、戸籍法では「死亡診断書」の保存期間は27年間とされている。救済法は、死亡後5年以上が経過した被災者遺族を救済するために成立した法である。それならば、法の趣旨に則り、関係書類が保存されるように国は措置をとるべきである。そして、記録が破棄されたことによって不支給となる事案が出ないように調査・判断のあり方を検討すべきである。

冒頭に述べたが、2021年度の特別遺族給付金の請求件数は急増し、546件であった。 1件1件の調査結果がどうだったのか、どの様に判断されているのかを検証する必要がある。