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パワハラ・うつ病・精神疾患
精神疾患による労災申請
既往症があっても認定決定
2024/08/23
精神疾患による労災請求が令和6年3月27日付で無事支給決定されたと監督署より連絡をいただきました。令和4年12月に労災申請をしてから1年3か月がかりで認められました。
相談者であるMさん(相談当時35歳・男性)は平成31年2月末に会社を退職。「やっぱり労災だと思う。精神疾患が全くよくならない。ずっとモヤモヤしている。」という思いをお電話で吐露され、令和3年12月にご相談に来られました。
Mさんは大学院を卒業後、平成26年に金属加工に関する会社に入社をしました。仕事は主に、プレス加工、レーザー加工、溶接加工、板金加工、切削加工などに従事していました。平成30年5月頃以降から同僚社員の相次ぐ退職に伴う長時間労働を行ったこと、同僚とのトラブル、社長や上司、同僚等からパワーハラスメントを受けたこと、工場長からセクシャルハラスメントを受けたこと等が原因で精神疾患を発症し、同年11月14日(退職約2か月前)に病院へ父親に付き添われて入院することになり、今回の労災請求に至りました。
♦長時間労働による時間外労働の実態
Mさんの時間外労働時間数が最も多い時期は、
平成30年5月:普通残業時間81:00、休日出勤時間12:45、合計時間外労働数93:45
平成30年6月:普通残業時間134:40、休日出勤時間15:30、合計時間外労働時間数150:10
平成30年7月:普通残業時間83:55、休日出勤時間7:45、合計時間外労働時間数、91:40
これらの時間外労働の時間数は給与明細に記載があり、精神疾患による労災認定基準である発病前おおむね6か月間に「仕事内容・仕事鼠の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当する出来事として認められ、心身ともに疲弊している状態にありました。Mさんが幣事務所に相談にこられた時「パワハラが原因だと考えている。」とおっしやっていましたが、精神疾患の労災認定の基準を満たすためには、長時間労働による精神疾患発症とそれに伴う上司等によるパワーハラスメントがあったとして申請する方が妥当であると判断して申立書の作成に取りかかりました。
Mさんは平成30年5月頃以降、長時間労働を行ったこと、それに付随して同僚とトラブルがあったこと、社長等からパワーハラスメントを受けたこと、工場長からセクシャルハラスメントを受けたこと等が原因で精神疾患を発症し同年11月14日に精神科病院へ入院することになったとして令和4年12月に労災申請を行いました。
♦労災認定されるまでの道のり
今回大変だったことは以下の2点です。
①Mさんが既往症として精神疾患(統合失調感情障害)を発症しており、かつ障害基礎年金2級を受給中であった為、労災による精神疾患発症を立証することの壁が厚かった。平成20年以降に精神疾患をすでに発症しており過去入院歴も複数回あった。
②障害年金の精神疾患初診日と労災による発病日の起算日の考え方の違い、同一傷病(統合失調感情障害)における労災と障害年金の法的根拠の違い(再発ではなく新たに発症した傷病であるとの労災保険法上の立証と障害年金との違い)を鑑みながら請求する必要があった。
これら2点の課題から慎重に請求を進める必要があり、労災認定のハードルは大変高いものでした。
調査途中の監督署の調査官による聞き取り調査では、Mさんに同席して6時間を超える調査が2回ありました。認定決定されるまでの間にMさんが統合失調感情障害のため途中入院されるなど、ヒアリング当初から仕事の内容やパワハラの事実を整理していくことは大変な作業でしたが、諦めることなく「Mさんの尊厳回復、名誉回復のためにがんばりましょう」と、Mさんを都度励ましながら進めていきました。
またこれら聞き取り調査とは別に請求代理人として、監督署の調査官から電話による聞き取り調査があり、精神障害の発病前おむね6か月の間に仕事の関係で精神障害の発病の直接の原因と考えている(ストレスとなった)出来事の仕分け作業の対応にあたりました。
♦調査中に認定基準の改正
Mさんの労災認定決定後に復命書を取り寄せたところ、監督署の総合判断として、以下 3点が記載されていました。
■調査官の意見:業務上
請求人は平成30年11月頃に「統合失調感情障害(F25)を発病したと認められる。発病前おおむね6か月間に「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当する出来事が認められ、その心理的負荷の強度は「強」と判断する。以上から、本件は業務上と判断する。なお、機械処理上の発病年月日は「平成30年11月14日」(病院へ入院した日)とする。
■業務による出来事及び出来事後の状況評価
具体的な出来事:仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった。平均II、出来事が起きた時期:平成30年5月から6月頃、具体的な内容及び評価:平成30年5月頃から、繁忙期のために炊飯器関連製品の製造に追われていたところ、さらに同時期に会社同僚が退職したことでその分の作業をカバーをしていたことで時間外労働が増加し、同年5月8日から同年6月6日までの30日間において151時間41分の時間外労働を行い、前月の同年4月8日から同年5月7日までの30日間の73時間29分に比して、倍以上の増加が認められた。以上により、心理的負荷の強度は、「強」の具体例である「仕事量が著しく増加して時間外労働が大幅に増える(おおむね倍以上に増加し1月当たりおおむね100時間以上となる)などの状況になり、業務に多大な労力を費やした(休憩・休日を確保するのが困難なほどの状態となった等を含む)に該当することから「強」と判断した。
■個体側要因の内容
請求人は、平成22年11月頃、躁状態を呈していたとして00クリニックを受診し通院加療が行われていたが、請求人は、平成23年12月頃に自己中断したと申し立てている。平成25年2月20日から翌年4月19日まで「双極性感情障害」にて入院し、退院後は平成26年2月10日まで△△クリニックにて通院加療が行われている。平成28年4月6日から同年6月25日まで「統合失調感情障害」にて入院し、以降、定期的に通院加療が行われているが、病院の主治医は、上記「双極性感情障害」、「統合失調感情障害」はいずれも寛解に至っていると診断しており、平成28年6月25日の退院以降は症状が落ち着いていたと請求人は主張し、通常就労を行うことができていた。以上のように記載されており、こちらの主張する平成30年5月及び6月の長時間労働の実態が全面的に認められ業務上によるものと判断されていました。
♦主治医との連携が活きた今回の事案
Mさんは本当に絶望の中よく生きてこられ、無事支給決定されたことに大変安堵しておられました。休業補償給付と療養補償給付は時効2年のため給付されない期間があったものの、令和2年以降の補償に関しては遡及され、休業補償給付と療養補償給付についてまとまった補償を受けることができました。労災認定による所得補償が受けられることはもちろんのこと、それ以上にMさんの尊厳回復、名誉回復がなされたことが何よりうれしく思います。
またMさんの主治医へ意見書の作成を求めるにあたり、Mさんの仕事場における長時間労働と上司らから受けたハラスメント等の実態を主治医に伝えるため手紙をつけて申立書をお渡しし、Mさんの今回の精神疾患発症は過去の精神疾患とは別傷病であることの意見を求めました。主治医から今回のMさんの精神疾患は過去の精神障害は寛解後に新たに発病したものであるとの医学的根拠に基づく意見を得られて意見書を提出することができ、労災認定を勝ち取ることに大きく寄与しました。
♦精神疾患による労災認定は時間を要す
精神疾患による労災請求をするにはそれ相当な時間を要します。精神疾患による労災申請が増加しているなか、仕事が原因で精神疾患を発症した被災労働者の迅速な保護に目を向けていくことはますます重要であると今回Mさんの事案から強く感じました。しかしながら、精神疾患による労災申請は容易ではなく、被災労働者のヒアリングから入念にハラスメントや長時間労働に係る事実と心理的負荷による精神障害の認定基準に当てはまる事実の洗い出しを行う必要があり、監督署へ労災申請するにはそれ相当な時間をかけなければ簡単に認められることはありません。ハラスメントや長時間労働でメンタル疾患になってしまったと思われる場合は、残業記録や給与明細、いつどんな時に誰にどんなハラスメントを受けたか事実につながる物的証拠も可能な限り保存しておくことが重要となります。そして、一人で悩まず信頼できる専門家(社労士、弁護士、安全センター)ヘ早めの相談をすることはとても重要であると感じました。
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相談者であるMさん(相談当時35歳・男性)は平成31年2月末に会社を退職。「やっぱり労災だと思う。精神疾患が全くよくならない。ずっとモヤモヤしている。」という思いをお電話で吐露され、令和3年12月にご相談に来られました。
Mさんは大学院を卒業後、平成26年に金属加工に関する会社に入社をしました。仕事は主に、プレス加工、レーザー加工、溶接加工、板金加工、切削加工などに従事していました。平成30年5月頃以降から同僚社員の相次ぐ退職に伴う長時間労働を行ったこと、同僚とのトラブル、社長や上司、同僚等からパワーハラスメントを受けたこと、工場長からセクシャルハラスメントを受けたこと等が原因で精神疾患を発症し、同年11月14日(退職約2か月前)に病院へ父親に付き添われて入院することになり、今回の労災請求に至りました。
♦長時間労働による時間外労働の実態
Mさんの時間外労働時間数が最も多い時期は、
平成30年5月:普通残業時間81:00、休日出勤時間12:45、合計時間外労働数93:45
平成30年6月:普通残業時間134:40、休日出勤時間15:30、合計時間外労働時間数150:10
平成30年7月:普通残業時間83:55、休日出勤時間7:45、合計時間外労働時間数、91:40
これらの時間外労働の時間数は給与明細に記載があり、精神疾患による労災認定基準である発病前おおむね6か月間に「仕事内容・仕事鼠の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当する出来事として認められ、心身ともに疲弊している状態にありました。Mさんが幣事務所に相談にこられた時「パワハラが原因だと考えている。」とおっしやっていましたが、精神疾患の労災認定の基準を満たすためには、長時間労働による精神疾患発症とそれに伴う上司等によるパワーハラスメントがあったとして申請する方が妥当であると判断して申立書の作成に取りかかりました。
Mさんは平成30年5月頃以降、長時間労働を行ったこと、それに付随して同僚とトラブルがあったこと、社長等からパワーハラスメントを受けたこと、工場長からセクシャルハラスメントを受けたこと等が原因で精神疾患を発症し同年11月14日に精神科病院へ入院することになったとして令和4年12月に労災申請を行いました。
♦労災認定されるまでの道のり
今回大変だったことは以下の2点です。
①Mさんが既往症として精神疾患(統合失調感情障害)を発症しており、かつ障害基礎年金2級を受給中であった為、労災による精神疾患発症を立証することの壁が厚かった。平成20年以降に精神疾患をすでに発症しており過去入院歴も複数回あった。
②障害年金の精神疾患初診日と労災による発病日の起算日の考え方の違い、同一傷病(統合失調感情障害)における労災と障害年金の法的根拠の違い(再発ではなく新たに発症した傷病であるとの労災保険法上の立証と障害年金との違い)を鑑みながら請求する必要があった。
これら2点の課題から慎重に請求を進める必要があり、労災認定のハードルは大変高いものでした。
調査途中の監督署の調査官による聞き取り調査では、Mさんに同席して6時間を超える調査が2回ありました。認定決定されるまでの間にMさんが統合失調感情障害のため途中入院されるなど、ヒアリング当初から仕事の内容やパワハラの事実を整理していくことは大変な作業でしたが、諦めることなく「Mさんの尊厳回復、名誉回復のためにがんばりましょう」と、Mさんを都度励ましながら進めていきました。
またこれら聞き取り調査とは別に請求代理人として、監督署の調査官から電話による聞き取り調査があり、精神障害の発病前おむね6か月の間に仕事の関係で精神障害の発病の直接の原因と考えている(ストレスとなった)出来事の仕分け作業の対応にあたりました。
♦調査中に認定基準の改正
Mさんの労災認定決定後に復命書を取り寄せたところ、監督署の総合判断として、以下 3点が記載されていました。
■調査官の意見:業務上
請求人は平成30年11月頃に「統合失調感情障害(F25)を発病したと認められる。発病前おおむね6か月間に「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当する出来事が認められ、その心理的負荷の強度は「強」と判断する。以上から、本件は業務上と判断する。なお、機械処理上の発病年月日は「平成30年11月14日」(病院へ入院した日)とする。
■業務による出来事及び出来事後の状況評価
具体的な出来事:仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった。平均II、出来事が起きた時期:平成30年5月から6月頃、具体的な内容及び評価:平成30年5月頃から、繁忙期のために炊飯器関連製品の製造に追われていたところ、さらに同時期に会社同僚が退職したことでその分の作業をカバーをしていたことで時間外労働が増加し、同年5月8日から同年6月6日までの30日間において151時間41分の時間外労働を行い、前月の同年4月8日から同年5月7日までの30日間の73時間29分に比して、倍以上の増加が認められた。以上により、心理的負荷の強度は、「強」の具体例である「仕事量が著しく増加して時間外労働が大幅に増える(おおむね倍以上に増加し1月当たりおおむね100時間以上となる)などの状況になり、業務に多大な労力を費やした(休憩・休日を確保するのが困難なほどの状態となった等を含む)に該当することから「強」と判断した。
■個体側要因の内容
請求人は、平成22年11月頃、躁状態を呈していたとして00クリニックを受診し通院加療が行われていたが、請求人は、平成23年12月頃に自己中断したと申し立てている。平成25年2月20日から翌年4月19日まで「双極性感情障害」にて入院し、退院後は平成26年2月10日まで△△クリニックにて通院加療が行われている。平成28年4月6日から同年6月25日まで「統合失調感情障害」にて入院し、以降、定期的に通院加療が行われているが、病院の主治医は、上記「双極性感情障害」、「統合失調感情障害」はいずれも寛解に至っていると診断しており、平成28年6月25日の退院以降は症状が落ち着いていたと請求人は主張し、通常就労を行うことができていた。以上のように記載されており、こちらの主張する平成30年5月及び6月の長時間労働の実態が全面的に認められ業務上によるものと判断されていました。
♦主治医との連携が活きた今回の事案
Mさんは本当に絶望の中よく生きてこられ、無事支給決定されたことに大変安堵しておられました。休業補償給付と療養補償給付は時効2年のため給付されない期間があったものの、令和2年以降の補償に関しては遡及され、休業補償給付と療養補償給付についてまとまった補償を受けることができました。労災認定による所得補償が受けられることはもちろんのこと、それ以上にMさんの尊厳回復、名誉回復がなされたことが何よりうれしく思います。
またMさんの主治医へ意見書の作成を求めるにあたり、Mさんの仕事場における長時間労働と上司らから受けたハラスメント等の実態を主治医に伝えるため手紙をつけて申立書をお渡しし、Mさんの今回の精神疾患発症は過去の精神疾患とは別傷病であることの意見を求めました。主治医から今回のMさんの精神疾患は過去の精神障害は寛解後に新たに発病したものであるとの医学的根拠に基づく意見を得られて意見書を提出することができ、労災認定を勝ち取ることに大きく寄与しました。
♦精神疾患による労災認定は時間を要す
精神疾患による労災請求をするにはそれ相当な時間を要します。精神疾患による労災申請が増加しているなか、仕事が原因で精神疾患を発症した被災労働者の迅速な保護に目を向けていくことはますます重要であると今回Mさんの事案から強く感じました。しかしながら、精神疾患による労災申請は容易ではなく、被災労働者のヒアリングから入念にハラスメントや長時間労働に係る事実と心理的負荷による精神障害の認定基準に当てはまる事実の洗い出しを行う必要があり、監督署へ労災申請するにはそれ相当な時間をかけなければ簡単に認められることはありません。ハラスメントや長時間労働でメンタル疾患になってしまったと思われる場合は、残業記録や給与明細、いつどんな時に誰にどんなハラスメントを受けたか事実につながる物的証拠も可能な限り保存しておくことが重要となります。そして、一人で悩まず信頼できる専門家(社労士、弁護士、安全センター)ヘ早めの相談をすることはとても重要であると感じました。