NPO法人 ひょうご労働安全衛生センター

労災・職業病・労働環境など
お気軽にご相談ください

TEL 078-382-2118
相談無料・秘密厳守
月〜金: 9:00-18:00
  • トップ
  • < 地震・石綿・マスク支援プロジェクト

地震・石綿・マスク支援プロジェクト

阪神・淡路大震災30年
被災地から問うアスベスト対策
シンポジウムを開催

2024/09/20
関東大震災(1923年9月1日)が発生した日にちなみ、政府や地方自治体、そして国民全体が幅広く地震や台風・洪水・津波などあらゆる災害に対する認識を深め、防災を啓発することを目的に制定された「防災の日」。私たちは神戸市中央区文化センターでシンポジウム「阪神・淡路大震災30年   被災地から問うアスベスト対策」を開催しました。当日はウェブ配信も行われ、約80名の市民・関係者が参加しました。

今年は元旦から能登半島地震が発生し、8月8日には宮崎県南部で震度6弱の揺れを観測して気象庁が初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表(8月15日の解除までに大小24回の地震発生)するなど、この8か月間だけでも地震が群発しています。また8月28日に上陸した台風10号は記録的な大雨や洪水を引き起こし、各地に大きな被害をもたらしました。

日本はあちこちで災害が多発しており、倒壊した建物から危険なアスベスト粉じんが飛散する恐れがあります。司会の原口剛氏(神戸大学大学院人文学研究科准教授)は、「来年1月に30年を迎える阪神・淡路大震災で得た教訓を、今後私たちがどのように生かすべきか、様々な視点で論じ合いたい」とシンポジウムの意義について説明しました。


♦阪神・淡路大震災ーアスベスト粉じん飛散の想定無し

シンポジウムの第1部は、3名が基調報告を行いました。最初に基調報告をいただいた熊本学園大学社会福祉学部の中地重晴教授は、阪神・淡路大震災の直後から、解体・撤去現場でのパトロール活動や電話による市民相談、行政への申入行動などに取り組んだ経験とその教訓について話されました。「震災で1到壊したビルの総数は1,224棟、うち吹付けアスベストがあった建物は100を超えると思われるが、今となっては不明だ。当時は政府や自治体の誰もアスベストの飛散を想定しておらず、マスコミや市民、ボランティアが危機感を持って調査の必要性を訴え、ネットワークを作っていった」と振り返りました。

神戸市が環境調査を行ったのは、解体・撤去工事が一段落した後の95年5月から8月であり、「測定時期が遅く、役に立たなかった」と厳しく批判しました。震災から1年後、中地氏は調査や記録の保存の必要性、アスベスト建材の使用中止等について提言を行いましたが、「当時は労働安全衛生法でアスベスト含有量 5 %未満は対象外とされており、行政は問題にすらしていなかった。2004年に建材への使用禁止が決定し、2005年のクボタショックで初めて公共施設の調査が始まり、11年の東日本大震災でようやく防災計画にアスベスト対策が盛り込まれた」と語りました。しかし「倒壊建物の解体規制や被災住民への健康管理手帳の交付などの提言は、未だに実施されていない」と取り組みが遅々として進んでいないことに警鐘を鳴らしました。現在、震災関連のアスベスト健康被害は労災認定等を受けているだけで既に6件に上ります。しかし「震災のガレキ撤去現場にいた人らは、これからの影響が懸念される。今後も注視が必要だ」とコメントしました。


♦自省を込めて

次に報告をいただいた被災地NGO協働センター顧問の村井雅清氏は、「1.1の教訓、つまり能登地震の実態から、今一度1.17阪神・淡路大震災を振り返える必要がある」と参加者に厳しく問いかけました。阪神・淡路大震災発生の2日後に結成された地元ボランティア団体の連絡組織が萌芽となって結成された協働センターは、これまでも国内外を問わず大規模な災害が発生するとすぐさま現地入りし、救援活動に従事してきました。能登地震でも、1月2日には先遣隊が現地に駆けつけ、数次にわたってボランティアを派遣しています。村井氏は石川県が道路事情などの問題で「ボランティアを控えてほしい」と発信したことについて「果たして行かないことが支援になるのか。阪神・淡路大震災では、交通が不便な状態でも全国から若者が駆けつけた。そして今も『足湯ボランティア募集』だけでも200名の若者が登録している。これは何かしたいという若者たちの想いの表れであり、貴重な財産だ。またレスキュー・キッチンカーで温かい食事を提供したり簡易トイレの備蓄を行うなど、創意工夫を凝らしてボランティアをやっている人たちもいる。彼らを行政の支配下に置いて熱意を殺すようなことがあってはならない」と訴えました。

そして「公費解体が4%と遅々として進まない中で、無償ボランイアに重機運転の資格を与えて撤去作業に従事させ、ガレキの分別作業もさせている。安上りにしようとする意図と業者任せの無責任な行政の体質が露わになった」と怒りを込めて話しました。そして「これは阪神・淡路大震災を経験してきた私たちが、災害対応や街づくりを後世に教訓を伝えきれていない問題も大きい」と自省を込めて語られました。


♦継承される経験と対策

最後に報告をいただいたNPO中皮種・じん肺・アスベストセンター事務局長の永倉冬史氏は、水害の発生現場において「津波や浸水で倒壊した建物は湿気があるが、乾燥すると解体・撤去時にアスベスト粉じんが発生する。ガレキ置場での対策が重要になる」と説明しました。2019年10月、台風15号の影響で長野県・千曲川の堤防が決壊し、多くの建物が倒壊・浸水しましたが、熊本地震(2016年)の被災地でボランティアを経験した長野市長沼地区の住民の呼びかけで災害廃棄物の分別回収をおこなった事例を紹介しました。この活動は、その後の行政主体の撤去作業に大きな影響を与え、「市会議員や市民団体などが、被災市民や作業従事者への注意喚起、マスク配布、気中濃度測定などを行うきっかけとなる好事例となった」と話されました。一方で     2019年9月に台風15号で大きな被害が発生した千葉県では、行政から廃棄物を「袋に詰めるから粉々にしなさい」と指導を受け、作業員がマスクも着用していなかったことについて「無知としか言いようがない」といった事例も紹介されました。


♦リスク・コミュニケーションの課題

第2部では、神戸大学名誉教授で岡山大学研究員の松田毅氏から「目に見えず遅発性健康被害のアスベストの危険性をいかに伝えていくのか(リスク・コミュニケーション)」というテーマで問題提起を受けました。「津波などの差し迫る危険を伝えることが優先され、アスベストは後回しになりやすい。しかし、『誰が誰に伝えるか』を明確にし、それぞれの関係者に様々な方法で伝えることが大切だ」と強調しました。事前の対策として「学校などでアスベスト・リスク・コミュニケーションを教育に組み込み、大学生などにSNSを活用するなど訴求力ある手法の開発を諮る必要性がある」と話されました。松田氏は、学生と協力して出版した「石の綿一終わらないアスベストー」、「震災とアスベスト」などのマンガの活用や、「あなたは震災で壊れた建物の解体工事の作業員です」などのロールプレイ型のカードゲーム「クロスノート」を紹介し、その有効性と課題点について語られました。

パネルディスカッションでは、村井氏が「(アスベストが)怖いからボランティアを控えようというのはとんでもないことで、防災教育が大切だ。能登では事前通達が実践され、家財の整理などでもマスク着用が定着してきた」と話されました。永倉氏も「全ての作業をすべからくやるろいうのではなく、ボランティアの行う活動の分類は可能ではないか」とした上で、アスベストセンターとしてこれまで無料研修会を実施し「誰にでも研修を行い、リスク・コミュニケーションを軍層的に行えるようにしている」と話されました。会場からは、阪神・淡路大震災時の行政によるアスベスト粉じん調査の具体的な問題点や、最終処分の方法などについて質問が上がりました。各パネラーからは行政がNPOを上手に利用する方法も考えるべきだという意見や、技術系ボランティアの研修を制度化したり、リスク・コミュニケーションの教育カリキュラム化や、若者にどのように伝えていくのか知恵を絞らねばならない、等の意見が出ました。コーディネーターを務めた相川康子氏(NPO政策研究所専務理事)は、新聞記者として阪神・淡路大震災を取材活動に携わっていた際、「アスベストむき出しの倒壊した建物の横で、生きていくために商売をしている人に対し、どうやってリスクを伝えるべきなのか今もずっと悩んでいる」と間題提起がありました。松田氏は「回答は無い。考え続ける間題だ」と語られました。


♦アンケートヘの協力を!

主催者の南慎二郎氏(立命館大学政策科学部講師)は、「日本は過去1千万トンのアスベストを輸入してきた。台風や竜巻、地震などの災害が多発している今、アスベストは決して過去の問題ではない。しかし、危険性をなかなか意識できず、リスク・コミュニケーションは大きな課題となっている。それらを科学的に立証し、考察する一助とするためにも、プロジェクトでは災害ボランティアに携わった人々に対してアンケート活動を行っている。皆さんもぜひ協力してほしい」と訴えました。