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地震・石綿・マスク支援プロジェクト

アスベスト対策の現状を調査するため
能登半島地震の被災地へ

2024/09/20
能登半島地震の被災地のアスベスト(石綿)対策を調べるため、ひょうご労働安全衛生センターと東京労働安全衛生センターの呼びかけに応じた7人が8月16~18日、石川県輪島市、珠洲市、七尾市、能登町、穴水町をめぐり、行政関係者、ボランティア、解体事業者と意見交換をした。今年1月1日の発生から8カ月が過ぎているというのに、被災直後かと思わせるような風景。輪島朝市は焼野原のまま、倒壊した建物の撤去も遅々として進んでいない。市民の暮らしのにおいがまるで感じられない町もあった。建物の解体は今後本格化し、石綿飛散の対策はこれから正念場を迎える。


♦県庁  遅れている復興作業と石綿対策

被災地入りしたのは、東京労働安全衛生センター・飯田勝泰さん、中皮腫・じん肺・アスベストセンター・永倉冬史さん、アスベスト問題市民ネットさいたま・斎藤宏さん、立命館大学・南慎二郎さん、ひょうご労働安全衛生センター・西山和宏さん、神戸新聞社・加藤正文さん、社会保険労務士・中部剛。金沢市の石川県庁で合流した。

県庁での意見交換会では、生活環境部カーボンニュートラル推進課と資源循環推進課の担当者2人が対応し、被災建物の公費解体に焦点が当たった。当初の実行計画では解体対象を2万2499棟とし、訪問時の解体率はわずか6. 8%。この低さについては、被災地までのアクセス、道路状況の悪さを強調していた。石綿対策については、飛散防止のオンライン研修を実施しており、飛散の測定濃度が低いことなどを説明していた。

右綿対策を丁寧にすれば、解体に時間がかかる。しかし、6.8%とは…という思いが私たちに募った。また、被災地と県庁の距離が温度差を生じさせているのか、早期復興への切迫感も薄い。この訪問の後、8月26日、石川県と環境省は「公費解体加速化プラン」を公表し、当初の解体見込み数を大幅に上回る3万2410棟に修正し、解体完了は引き続き来年10月を目標とした。降雪期もあるため、今後急ピッチで進むことになり、ヒ゜ーク時は1か月あたり最大2,400棟を解体するという。石綿飛散が懸念されるところだが、この加速化プランに石綿対策は触れられていない。県庁も輪島市の職員も「解体完了は来年10月には難しい」というニュアンスで話していただけに、現場へのしわ寄せが気がかりである。

もう少し、加速化プランを説明したい。災害廃棄物の発生推計量は332万トン。中間目標として今年12月末で、1万2000棟の解体完了を掲げた。解体業者を全国から集めて大幅に拡充し、ピーク時の今年11月から来年2月は1,120班が稼働する。徹底した石綿対策を講じてもらいたい。


♦輪島市 未だ見えない復興

県庁を後にした一行は車2台に分乗して輪島市役所に向かった。能登半島を縦断する「のと里山海道」を北上したのだが、被災地に近づけば近づくほど、悪路になっていく。路面の凹凸が激しくなり、道路わきが崩れていたり、士嚢が積んでいたり。改修工事の少なさが気になった。地元の人たちに聞くと、業者を滞在させる宿がないことや、道路事情を含めたアクセスの悪さが足かせになっているようだ。輪島市役所を訪間する麒、輪島朝市やその周辺を視察すると、時が止まったような現状に言葉を失った。テレビ報道でよく見た「五島屋」と書かれたビルは倒れたまま。がれきを重ねて、つつかえ棒代わりにしているような状態だ。その横を車が行き交いする。朝市は焼野原で、「がんばろう輪島!」の看板が寒々しく見えた。石綿含有の恐れがあるがれきが見つかり、散水しないまま重機で家屋を壊す様子もうかがえた。

市役所では担当職員のほか、驚いたことに解体業者が同席した。業者に自由に話させるということは、よく言えば情報開示、悪く言えば行政のコントロールが効いていない、ということだろう。大変、興味深い意見交換ではあった。解体業者は解体に時間がかかっているのは、丁寧な解体・分別も一因だという。阪神・淡路大震災のときに見られたような、なんでも一緒に処分するような「ミンチ解体」はなく、散水しながら取り組んでいるという。ここでも、被災地までのアクセスの悪さ、宿泊施設の少なさから、「採算がとりにくく、遠方から業者が集まりにくい」といった事情を明かしていた。市役所庁舎も地震の被害を受けており、玄関先は亀裂が入った状態。被災者でもある職員に疲労の色がにじんでいた。

続いて災害廃棄物の仮置き場にしているソフトボール場を視察。夕方だったので人気は少なく、整然と分別されていた。回収業者が集めた廃棄物を運び込んでおり、可燃粗大ごみ、木くず、ガラス・陶磁器くず、コンクリート、瓦、壁材(スレートなど)など9種類に分けられており、石綿含有の恐れがある建築材はフレコンパックに収められていた。


♦ボランティアに届いていない石綿対策

視察2日目は、主に能登町、珠洲市へ。能登町のボランティアセンター担当者と意見交換すると、ボランティア活動は収束方向と聞いて驚いた。個人ボランティアの受け入れも制限していたが、つぶれたままの家はたくさんあり、生活再建できていないような人も大勢いる。家の中の片付けなどボランティア活動を限定的に見ており、被災者のニーズの掘り起こしが十分ではないようにも思えた。また、ボランティアが石綿を吸い込む可能性についても「それはないでしょう」と否定的だった。石川県庁が「住民・災害ボランティアの皆様へ       石綿(アスベスト)にご注意ください!」と記したリーフレットを作成しているが、ボランティアセンターはその存在を知らず、石綿被害の危険性が十分に理解されていない。このリーフレットには「むやみに倒壊・損壊建物や解体現場に近づかない。」と注意喚起しているが、倒壊・損壊建物は町中にあり、今後、解体現場も急増する。


♦技術系ボランティアの補償は?

珠洲市の沿岸部に行くと、災害被害はさらにひどい。地震発生から8カ月が過ぎているというのに、土砂が入り込んだままの住居が沿岸に続き、激しい上砂崩れで通行止めになっている箇所もいくつもある。岸部の海底が隆起し、「海が遠くなった」と住民ら。人影は少なく、生活の復興はほど遠い。国は国民の生命・財産を守る役割を果たせているのだろうか。行政の手が届きにくい沿岸部では、ボランティアが重機を扱い、空き家の解体を進めていた。公費解体は申請が必要になり、空き家は放置されているケースが多い。しかし、生活復興の支障になり、地元住民がボランティアに依頼して解体を進めている。奈良県から来たボランティアリーダーの男性に話を聞くと、空き家で寝泊まりしながら作業を進めているといい、「解体ボランティアでけがをしても、補償の対象にならない」と漏らしていた。

解体に伴って粉塵が舞う。暑くて、長くはマスクを着けておられない。彼にも、石川県がつくった石綿への注意を呼び掛けるリーフレットについて聞いてみたが、首を振るばかりだった。
能登町の仮置き場でも、整然と作業が進んでおり、右綿含有の疑いがある廃棄物がまとめられていた。ここにいたのは外国人労働者。日本人の責任者は「石綿はありません。水を撒いています」と説明していたが、石綿のリスクを理解しているようには見えなかった。


♦求められる石綿対策の浸透

今回の調査を概括すると、現状では災害廃棄物は整理され、阪神・淡路大震災時に比べると分別、飛散防止策は進んでいる。しかし、今後、解体作業が急ピッチで進むため、飛散リスクが一気に高まる。問題なのは、業者、ボランティア、住民のいずれも石綿リスクが浸透しておらず、行政の働きかけも十分ではない。将来の石綿による健康被害を防止するためには、これからの対策が鍵になる。