NPO法人 ひょうご労働安全衛生センター

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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

カレドリアとアスベストペーストからのばく露
石綿肺がんと振動病を発症

2025/08/30
♦経過

(株)日本冷熱(本社は長崎市)に対する損害賠償訴訟は、最高裁が6月18日付で会社側の上告を棄却し、原告の勝訴が確定した。

日本冷熱の元従業員であるAさんから、初めて連絡を受けたのは2020年3月であった。日本冷熱に勤務し、振動障害と石綿肺がんを発症し、両方の疾病とも労働災害と認定されたが、会社から謝罪も補償についても何ら説明がないという相談だった。
Aさんはアスベストユニオンに加入し、日本冷熱に対して団体交渉を申し入れたが、会社及び代理人は労働組合を嫌悪する姿勢に終始した。そのため労働委員会において会社の不当性を争いながら、アスベスト被害救済訴訟・九朴I弁護団の協力を得て、2021年5月に熊本地裁へ損害賠償を求め提訴した。

熊本地裁の判決は2024年4月に言い渡され、原告の主張をほぼ認める内容であった。会社側は控訴したが、福岡高裁判決も2024年11月に原審の判決を支持した。さらに会社側が上告したため時間を要したが、ようやく争いは終結することになった。
今回、熊本地裁が示した2772万円の賠償命令が確定した。会社側からは原本に加えて、 Aさんが肺がんを発症した2016年3月から年 5%の遅延損害金を合わせた賠償額が支払われた。

♦石綿肺がん   監督署の判断内容

Aさんは、昭和46年2月に天草工場に入社したが翌年の47年4月までの間、長崎市内の三菱造船工場の構内下請として保温工事に従事した。長崎での仕事以降も、各地の造船所ヘ短期に出張し保混作業に従事した。出張は入社後3年ほど続いたが、年間に3ヵ月くらいで、それ以降は造船所への出張もなくなった。

天草工場に戻ったあとはFRP製品の製造作業に携わることとなった。工場にはFRPを乾かすための乾燥室があり、その出入り口にアスベストを含んだ遮熱カーテンが付いていた。乾燥室の中に入るときはそれをくぐって作業していた。

Aさんは2016年3月に肺がんを発症し、造船所での作業と遮光カーテンが病気の原因だと考え天草労働基準監督署に労災申請をおこなった。天草署は、「昭和46年2月から昭和 47年4月の期間、造船現場での保温工事において、アスベストを使用していたことが確認された」  「また、昭和47年5月から平成4年  12月までの期間、FRP製造工程で使用する硬化炉入口にアスベスト製の遮熱カーテンがぶら下げられており、硬化炉への搬入出時にアスベストに接触していたことも確認された」と石綿ばく露作業への従事を認定した。熊本局のじん肺審査医は、「当患者の職業性アスベスト曝露歴は昭和46年2月から昭和47年4月の14ヵ月間と1年以上あり、胸部CTで広範囲の胸膜プラーク所見が存在し、石綿肺がんの業務上疾病の認定要件を満たしている」と判断し、Aさんが発症した肺がんについて天草署は業務上であると判断した。

♦FRP製品製造と石綿ばく露

Aさんが三菱長崎造船所で作業を行ったのは日本冷熱に入社して直ぐの14ヵ月である。本人に確認したところ「船内での作業に従事したが補助的な作業であった」とのことであった。ではなぜ広範囲の胸膜プラークが存在するのか。

以前にFRP製品を製造する作業に従事し、肺がんを発症した方から相談を受けたことが ある。「アメリカから輸入されたカレドリアという白い粉を使っていたが、その袋に石綿100%と書いてあるので、肺がんは石綿が原因なのかもしれない」とう内容であった。カレドリアは短繊維のクリソタイルである。その方は自動車のボンネットやバンパーに使用しているエアロパーツを製造する仕事に従事し、パーツ同士を貼り合わせる接着パテ剤を作る際に「カレドリア」を混入していた。そこでAさんに、「カレドリアを使用したことはありませんでしたか?」と尋ねると、「ある」と即答があった。

さらに、日本冷熱は、昭和46年頃からヤマハ天草製造(株)の委託を受け、船舶の強度を高めるためのフレームや船舶に使用される大小様々なハッチ(蓋)などのFRP製部品を製造していた。さらに昭和47年頃には、同社からFRP製ボート本体の製造も受託するようになった。アスベスト患者と家族の会の会員さんに元ヤマハの社員が居られ作業内容を聞くことができた。すると、「昭和46年ころから昭和55年ころまでの間、船のFRP製部品の成型やその部品を船の本体に接着する際などに、アスベストペーストと呼ばれるアスベストが含まれたFRP接着用パテを使用していた」との証言を得た。さらに「アスベストペーストは、船舶の製造にあたり、ヤマハから日本冷熱に有償支給されていた」と話された。

♦労基署が調査しなかった石綿ばく露

Aさんは、ヤマハの小型船舶のハッチ(蓋)や物入れなどのFRP製部品の切断・研磨作業を行っていたほか、船舶本体における部品の接着部分等の研磨作業にも従事することがあった。ヤマハがアスベストペーストの使用を中止してからも、日本冷熱はFRP製品の製造にカレドリアを使用していたのであった。
 
Aさんは、FRP製品の切断作業では小型丸ノコを使用し、研磨作業では電気サンダーを使用していた。そのため電動工具の使用により振動病を発症し、飛散した粉じんにより石綿肺がんを発症したのであった。Aさんも他の従業員も気付かなかったアスベスト曝露。そして監督署も調査しなかったアスベストばく露。訴訟をつうじて明らかになった新たな事実を伝える必要がある。