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何年も生き続けたい!
日本石綿・中皮腫学会学術集会/市民公開講座

2025/10/24
10月4日から2日間、神戸大学医学部で日本石綿・中皮腫学会の第6回学術集会が開かれました。学会は長年、石綿健康被害に関心を持つ医療関係者の研究の発展と相互交流を図り、患者や一般市民に石綿健康疾患に関する知識の普及に取り組んでいます。
学術集会では、中皮腫の治療・研究に携わる全国の専門医らから発表がありました。中皮腫の病理診断に関する発表や、中皮腫の薬物療法に関する発表、中皮腫のTNM分類の変更点に関する講演もおこなわれました。
また、MARS2試験において、胸膜中皮腫の手術をおこなっても生存期間の延長には寄与しないとの報告がされており、外科手術の存在意義に関する発表や意見交換が活発におこなわれていました。
一般社団法人中皮腫治療推進基金の中川和彦氏(近畿大学病院)からは、「基金」の紹介と学術研究助成プログラムの進捗状況、そして受賞者の発表がおこなわれました。この「基金」は、「中皮腫を治せる病気に!」との思いで患者団体である「中皮腫サポートキャラバン隊」の呼びかけで設立されたものです。多くの方からの寄付金を基に、第1回目の助成金受賞者が選ばれ、20254月より臨床研究や基礎研究に活用されていることが報告されました。


◆市民公開講座-中皮腫を学ぼう!
最終日である5日には市民公開講座「中皮腫を学ぼう!」が開催され、専門家による最新の情報提供や治療技術の紹介、中皮腫を患った方々の体験談などが行われました。
病理医学が専門の河原邦光教授(神戸大学大学院医学研究科)は、2003年頃まで中皮腫は確定診断において「肺がんと誤診しているのではないか」と迷うほどくらい稀な病気でした。症例が増え診断の精度は上がった現在でも、「確定診断は難しい」と言われました。
内科の祢木芳樹教授(兵庫医科大学)は最新の免疫療法を紹介し、2018年に厚労省の承認を受けた抗がん剤・オプジーボの投与により、データでは患者の生存率が上がりつつあると話されました。
また外科の竹中賢医師(産業医科大学)は、かつて中皮腫は肺の全摘術が主流でしたが、近年はがんの部分だけを取り除くための中皮を剥がす胸膜剥離術が主流になりつつあり、この方法だと患者の身体的負担が軽減され、予後の生活の質がより高まると話されました。現在も、手術中の負担を減らす医療技術の開発が進行中とのことです。竹中教授は「少しでも長生きできるように、あきらめず信念をもって取り組んでいきたい」と語られました。


◆石綿の恐ろしさを広めたい
中皮種・アスベスト疾患・患者と家族の会連絡会からは西中秀夫さんが登壇され、ご自身の体験を語りました。2020年、仕事中に呼吸困難に陥って病院に行くと右肺に2リットルの胸水が溜まっていることが判明し、胸膜中皮腫と診断されたのです。コロナ禍の真っ最中のため当初は入院もできず、免疫療法の副作用で激しい痒みや両手指の皮膚障害に襲われ、歩行が困難になるほどの痛みに悩まされ続けました。現在は日常生活の支障は無くなりましたが、医療機関を通じて患者と家族の会と出会い、アドバイスを受けたりすることができて本当に助かったと話されました。
中西さんは「世界では戦争により建物が破壊されて石綿が飛散している。また日本でもズサンな解体工事が行われている。石綿の怖ろしさを広めていくための資料館を設置することが目標だ」と訴えました。


◆落とし穴から這い上がれた力
そして、8月25日に中皮腫が原因で亡くなり、今回の登壇が叶わなかった中皮腫サポートキャラバン隊の世話人である廣瀬武利さんの、病床からのビデオメッセージが上映されました。廣瀬さんは202312月、自転車に乗っている最中に突然息が全くできなくなりました。肺の3分の2に胸水が溜まっていたのです。しかし病院側は「胸開いたら原因が分かるやろ」と言い放ったのです。このままでは殺されると感じた廣瀬さんは、身内の医療従事者に相談して専門医を尋ね、中皮腫と診断されたのでした。免疫治療を続けて症状は落ち着いたものの、8月から再び悪化したのです。廣瀬さんは「中皮腫は希少な症例ゆえ、患者自身が情報を集めて治療方針を判断するしかない」と訴えます。廣瀬さんの実家は石綿を使ったパッキンを製造する工場を営んでおり、「石綿は静かな時限爆弾と言うが、子どものときに吸い込んだ影響が64歳になって爆発し、人生を狂わせて落とし穴に落ちるとは思いもしなかった」と話しました。死を待つだけの絶望の日々を過ごし、現実を受け入れられず、何か希望は無いかと手探りを繰り返す中でキャラバン隊と出会い、「最初はただ泣くだけだった自分が、いつの間にか仲間を励ます側になっていた」と嬉しそうに話されていました。


◆来年は9月に兵庫医大で開催
先に登壇した中西さんも亡くなった廣瀬さんも、「石綿の健康被害を知らない人がまだまだ多い、新たな患者を出したくない。そして何年も生き続けたい」と訴えていました。石綿による健康被害を無くし、新薬の開発など中皮腫を根絶する治療方法の確立を目指す活動をこれからも続けていかなければならないと強く感じた公開講座でした。
昨年は岡山大学病院がホストに、今回は神戸大学病院がホストに、そして来年は兵庫医科大学がホストになり、2026年9月5日から6日にかけて開催されることが発表されました。来年も兵庫県内での開催ですので、ぜひ皆さんもご参加下さい。
 

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