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パワーハラスメントによる
精神障害と労災認定の壁

2026/03/23
◆職場のハラスメントによる精神障害

近年、職場のパワーハラスメントや人間関係の問題によって精神障害を発症する労働者が増えている。厚生労働省の統計によると、仕事による強いストレスが原因で精神障害を発症し労災認定された件数は2024年度には1,055件となり、統計開始以降初めて1,000件を超えた。請求件数も3,780件と増加しており、精神障害の労災請求は年々増加している。
また、労災認定された原因として最も多いのが「上司などからのパワーハラスメント」であり、2024年度は224件がこの要因によるものとされている。このことからも、職場のハラスメントが労働者の健康に深刻な影響を与えていることがわかる。
しかしその一方で、精神障害の労災認定には依然として高いハードルがある。精神障害の労災請求は増加しているものの、すべてが認定されるわけではなく、実際の認定率は約 3割程度にとどまっている。ハラスメントによる精神障害が労災として認められるまでには、さまざまな困難があるのが現状である。本稿では、当センターに寄せられた相談を紹介しながら、ハラスメントによる精神障害の労災認定の課題について考えてみたい。


◆長期間にわたる職場のハラスメント

Aさんは会社に正社員として採用され、仕入れや納期管理、在庫管理などの業務を担当していた。しかし入社後まもなくから、同じ職場で働く複数のパート従業員による中傷や嫌がらせが続くようになった。これらのパー卜従業員はAさんより従事歴の長いベテランであり、職場内で影響力を持つ立場にあった。こうした状況は一時的なものではなく、退職するまでの約5年間にわたり続いた。同僚の陳述によれば、休憩時間にはAさんの悪口が日常的に話題になっていたという。「仕事が遅い」「仕事ができない」といった言葉に加え、「頭がおかしい」「ヒステリック女」といった人格を否定する発言も繰り返され、体型を椰楡するあだ名で呼ばれることもあった。こうした言動には同僚だけでなく管理職も加わっていたとされている。
業務上のやり取りでも、Aさんに対しては「まだできていないのか」「こんなこともできないのか」といった強い口調で叱責されることが多く、注意や指示が複数人で詰め寄る形で行われる場面もあった。また、Aさんが業務の進捗を報告しても返答をせず、後になって「聞いていない」と責めるといった出来事も繰り返されていた。
さらに、Aさんの業務量は数百から数千点の製品チェックやデータ入力、入出荷の日程調整など多岐にわたり、一人で処理するには大きな負担となっていた。同僚が手伝おうとすると「本人にやらせればいい」と止められることもあり、業務の分担はほとんど行われなかった。Aさんが上司に業務量の多さを相談しても、「残業してでもやれ」と言われるだけで、業務の調整や支援は行われなかった。
このような職場環境の中で、Aさんは次第に体調を崩していく。不眠やめまい、動悸などの症状が現れ、最終的にはうつ症状を発症するに至った。診断書でも、仕事によるストレスが継続していたことが記載されている。


◆労災申請と審査請求

Aさんは精神障害について労災申請を行ったが、労働基準監督署は療養補償給付を支給しないとする不支給決定を行った。その理由として、職場でのトラブルは認められるものの、心理的負荷は「強」とはいえないと判断されたためである。調査では、同僚とのトラブルはあったものの心理的負荷の総合評価は「中」程度であり、業務と精神障害との因果関係は認められないとされた。
当センターはAさんからの相談を受けて代理人となり審査請求を行った。審査請求では、本件は単なる同僚とのトラブルではなく、複数の従業員による継続的なパワーハラスメントであることを主張した。また、労働基準監督署の判断では出来事が「同僚とのトラブル」として整理されていたが、これは業務による心理的負荷評価表における出来事の類型の分類を誤ったものであると指摘した。
さらに、本件ではパート従業員による中傷や威圧的な言動が繰り返されていたにもかかわらず、管理職がこれを止めることなく、結果として職場全体としてハラスメントを容認するような状況があったことも主張した。
加えて、Aさんの業務量は多く、同僚から十分な協力が得られない状況の中で残業が発生していたが、時間外労働の実態が十分に調査されておらず、残業が生じた背景についても適切に評価されていない点を指摘した。
また、本件のハラスメントは約5年間という長期間にわたり継続していたものであり、個別の出来事としてではなく、一体のものとして評価されるべきであることについても主張した。
しかし審査請求の結果も棄却となり、労災とは認められなかった。


◆ハラスメントによる労災認定の課題

精神障害の労災請求は増えているものの、認定のハードルは依然として高い。精神障害の労災請求件数に比べて認定件数は限られており、労働者が被害を訴えても労災として認められないケースは少なくない。
その背景にはいくつかの問題がある。第一に、パワーハラスメントが長期間続いている場合でも、出来事が個別に評価され、心理的負荷が過小評価されることがある。第二に、パワーハラスメントが「人間関係のトラブル」として扱われてしまうことがある。第三に、パワーハラスメントは証拠が残りにくく、被害の実態を客観的に立証することが難しいという問題がある。
今回のケースでも、複数の従業員による言動が長期間にわたり繰り返されていたにもかかわらず、「心理的負荷は強いとはいえない」として労災とは認められなかった。しかし、被害の実態や職場環境を丁寧に見ていけば、この判断にはなお検討すべき点が残されていると考えられる。
現在、当センターでは再審査請求の準備を進めており、本件のハラスメントの実態や心理的負荷の評価が適切に判断されるよう、引き続き取り組んでいく。ハラスメントによる精神障害の労災認定は依然として難しい面があるが、同様の被害に苦しむ労働者の救済につながるよう、今後も支援と問題提起を続けていきたい。
 

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