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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

死亡原因は心臓疾患 労災申請し石綿関連疾患で認定

2018/05/20
◆相談のきっかけ

2016年の夏、「アスベスト疾患・患者と家族の会」の世話人の方から、「知人の兄妹の事で…」と相談があった。知人の兄(Aさん)は「大阪のスレート製造会社に勤務し、2008年に石綿健康管理手帳を取得し定期的に検診を受けているが、最近特に呼吸困難を訴えている」とのこと。労災として補償を受けることができないだろうか、という相談であった。そこでまず、じん肺健康診断を受けることを勧めた。管理区分の決定状況や肺機能の状態によっては補償を受けられる可能性があることを伝えた。

ところが数ヵ月後に、Aさん方が亡くなられたとの連絡が入った。ご家族や兄妹が呼吸器内科への受診を何度も奨めたが、Aさんは拒まれたそうである。亡くなる1ヵ月前に転倒し骨折・入院されたが、自宅に戻られ療養されている中、201612月に突然死された。自宅での死亡のため警察による調査が行われ、死亡原因は「心臓疾患疑い」と検案されたのである。


◆労災請求に向けて準備を開始

Aさんの場合、亡くなられるまで期間の休業補償の請求が可能かと思われた。しかし、遺族年金と葬祭料の請求に関しては、さらにハードルがあると考えられた。また、大阪のスレート製造会社には昭和36年から約5年間、勤務実績があったことが年金記録から確認されたため、労災請求手続きを通じて石綿肺の診断が行われれば、泉南型の国賠訴訟を提起し、国から損害賠償を受けることができる可能性もあった。

そこでご遺族と相談し、労災請求の準備を始めることにした。まず、受診していた労災病院のカルテと画像を入手した。20167月に呼吸困難を訴え受診した際のカルテには、「画像では著変なし」とされたが、「%肺活量42.1%1秒率96.1%と数値的には著しい機能低下が見られ、Sp0296%で6分間歩行試験後87%へ低下」と記載されていた。その後も受診が続き、びまん性胸膜肥厚と診断され、呼吸機能の検査結果も著しく悪い状態を示す数値がカルテに記載されていた。

早速、みずしま内科クリニックの水嶋医師にカルテと両像を観てもらったところ、びまん性胸膜肥厚の広がりも厚みも、労災認定基準を満たしているとの意見を得た。そこで労災請求手続きを進めることにしたが、やはり気がかりだったのは、死亡原因とびまん性胸膜肥厚との因果関係であった。


◆天満署の調査と大阪・労災医員の意見

ご家族の記憶から、最終ばく露職場は大阪のスレート製造会社であると判断し、20173月に大阪・天満署に申請を行った。この後の調査内容については、開示された復命書に基づき報告する。天満署は、調査において労災医員に意見を聞いている。医員は、「遅くとも287月時点では、著しい肺機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚として、労災上因果関係が認められ、管理区分4に相当すると思われた。死亡との因果関係性については、高度認知症状があり適切な検査が行えておらず、突然死が想定されるような検査成績もみられず、終末期は腰椎骨折による症状が強く、突然死とびまん性胸膜肥厚との間に相当因果関係があると判断するには至らなかった。」と意見を述べている。

天満署の調査では、大阪のスレート製造会社を退職後に宇部市で勤務した会社において、建物の補修・修理作業を行っていた事実をもって、最終石綿ばく露事業場は宇部市の会社と判断した。そのため、最終の認定調査は宇部署が行うこととなった。


◆宇部署の調査と山ロ・労災医員の意見

宇部署の調査においても労災医員に意見を聞いている。医員は、「石綿ばく露者によるびまん性胸膜肥厚の臨床的検討」(岡山労災病院の医師らによる論文、平成26129日受付)と題する論文を引用しながら、「%VC42.1%と極めて著しい呼吸機能障害を呈した場合、診断から5ヵ月後に死亡に至ったとしても決して不自然ではない」、「拘束性障害と動脈壁の硬化との間には強い正の相関が認められ本労働者に拘束性肺障害による動脈硬化があったことも考えられる」、「本労働者の死亡には極めて著しい肺機能障害を呈するびまん性胸膜肥厚が関与した可能性は十分高いと考えられる」と、びまん性胸膜肥厚と死亡との因果関係について肯定的な意見を述べている。

宇部署は、まず業務上外の検討を行い、Aさんの石綿ばく露作業期間について17年以上と推定し、発症したびまん性胸膜肥厚についても「認定要件を充足する」と判断した。そのうえで、死亡の業務上外の判断を行い、山ロ・労災医員の意見を採用し、「当該労働者の死亡は業務上の疾病であるびまん性胸膜肥厚に起因したものと認め、業務上の死亡として取り扱って差し支えないものと思慮する。」と判断した。

Aさんのご遺族に、業務上認定の通知が届いたのは、2018年の年明けであった。


◆まとめ

死亡原因と石綿関連疾患との関係について、大阪と山口の労災医員の意見が分かれた。最終ばく露事業場が山口となり、天満署から宇部署に調査が移送されたことにより、業務上の判断を得る結果となった。

現在、Aさんのご遺族は、広島アスベスト弁護団の協力を得ながら、泉南型国賠訴訟にむけて準備を進めている。今回の事例を通じ、被災者とその家族が少しでも補償を受けることができるよう、粘り強く取り組むことの大切さを改めて実感している。当センターに寄せられる相談は今後も困難事例が増えることが想定されるが、ネットワークを活用した取り組みの必要性がますます重要になっている。