NPO法人 ひょうご労働安全衛生センター

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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

震災がれき収集で悪性腹膜中皮腫を発症
公務労災認定を求め明石市職員の遺族が提訴

2018/01/20
◆経過

阪神淡路大震災から23年を迎えました。震災後は、倒壊建物の解体・撤去作業が急ピッチで進められ、被災地は凄まじい粉じんに覆われました。そのため解体・撤去作業に従事した労働者が建材等に含まれた石綿にばく露し、中皮腫を発症して労災認定される事例が次々と明らかになっています。

明石市環境事業所の職員であったSさんも、阪神淡路大震災で発生した瓦礫の収集作業等に従事し、石綿粉じんにばく露したため悪性腹膜中皮腫を発症しました。そこで公務災害の認定申請をおこなったのですが、地方公務員災害補償基金兵庫県支部は公務外と判断しました。そのため遺族は、不当な公務外の判断に納得いかず、115日、処分の取り消しを求め、神戸地裁に提訴しました。


◆作業環境

Sさんは、19914月に明石市環境事業所の職員として採用され、主に廃棄物の収集及び運搬業務に従事しました。1995117日末明に発生した大地震は、明石市にも大きな被害をもたらし、家屋の全半壊は9,614棟に及びました。震災直後から崩れ落ちた瓦・ブロック・壁材・屋根材・壊れた家財などのガレキ類が大量に道路上等に排出され、至る所でガレキの山が築かれました。それらの震災ガレキを撤去するため、震災直後は市の職員がそれらの収集を行いました。

当時の作業状況について、被災者本人も同僚も、「収集した廃棄物は様々な物が出ていました」「配管に保温材が付いたまま大量に出ていました」「屋根とかにあるグリーンのウロコみたいな形のものを収集しましたし、波形スレートもよく出ていました」「収集車にすっと積み込めないので、パッカー車の回転板を利用し、壊しながら壊しながらの作業でした」と話しています。そして、埋立処分場での作業に関しても、「積めるだけ積むため、埋立処分場でダンプしての排出が出来ず、(パッカー車に潜り込み)手作業で掻き出すことが必要」な状況でした。また、震災時以外の粗大ごみ及び不燃系のごみ収集作業においても、「粗大ごみの排出場所には、家庭ごみだけではなく、事業系ごみも多く排出されていました」「建築廃材には、リフォームで取り替えた住宅屋根用化粧スレート、瓦、外装壁材のサイディング、内装壁材や天井材として使われるボード、床材のPタイル、ビニール床シート、風呂釜、スレート波板、煙突、ガスコンロ、上下水道の配管類、浄化槽ポンプなど、あらゆる物がありました」と、石綿ばく露の機会が有ったことを同僚らは話しています。


◆公務災害の認定申請

Sさんは発症後すぐに明石市職員労働組に相談を行い、労働組合は対策委員会を設置し、アスベストばく露の可能性について本人や家族から聞き取り調査を実施しました。そして、悪性腹膜中皮腫を発症した原因は、阪神淡路大震災で発生した瓦礫の収集作業等に従事したことにあるとして、2012816日に公務災害の認定申請を行いました。残念ながら、Sさんは懸命な闘病の末、20131015日に息を引き取りました。49歳という若さでした。

しかし、2014326日付でなされた基金支部の判断は、「公務外」という内容でした。基金支部は、Sさんが悪性腹膜中皮腫を発症したことは認めましたが、震災ガレキの収集作業や埋立処分場での作業において「大量の石綿が含まれた粉じんを吸引したと認めることはできない」と判断したのです。遺族はこの決定を不服として、基金支部審査会に対し審査請求を行いましたが、2017727日付けで、棄却と判断されました。


◆「無念を晴らしたい」

アスベストによる健康被害は、アスベスト粉じんを吸い込んでから10数年ないし40年といった長い潜伏期間を経て、中皮腫や肺がんなどの重篤な病気を引き起こします。潜伏期間の長さからすると、今後も阪神淡路大震災時の石綿ばく露による健康被害の増加が非常に懸念されます。

遺族は、「夫は一緒に作業を行った同僚や、同じ作業環境で働いた人たちのことを気遣っていました。『こんなしんどい思いをするのは自分一人で十分や。けど、今後、同じ病気を患う人が出てこないとは限らない。その時のためにも、一本の道筋をつくらなあかん』と言っていました。引き継いだ私が主人の意思と無念を晴らしたい」と語っています。

震災後の被災地で暮らし働いた多くの市民・労働者は、アスベストによる健康被害に不安を抱えています。今回の裁判は多くの人々が関心を持ち注目することとなるでしょうし、公務災害の認定の在り方そのものも問われる訴訟となります。提訴にあたり明石市職員労働組合は、「一生懸命、震災復旧に携わった結果、発症した病気が認められないのであれば、危険な現場で働く人は報われない。復旧復興の第一線で精一杯働いた人々のために全カで裁判に取り組みたい。」と語っています。