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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺
西鉄バス運転手 悪性胸膜中皮腫を発症し労災認定
2017/10/20
◆経過
2015
年秋、東京の「アスベスト患者と家族の会」に電話が入った。「父が中皮腫を発症し治療中。仕事はバスの運転手が長く、どこでアスベストと接触したのか分からない」という内容で、被災者の長男からの相談であった。被災者は佐賀市で療養されていた。
被災者
K
さんは、
2015
年
8
月頃から胸水が溜まり始め、大学病院で精密検査を受けたところ悪性胸膜中皮腫と診断された。医師からは「この病気はアスベストが原因で起こる病気です」と言われが、アスベストとの接触は思い当たらなかった。また、「この病気は国から補償されます」とも言われたので、佐賀労働基準監督署に相談に行ったが、窓口の担当者からは「バスの連転手でアスベストの労災を受けた前例はない。認定は難しい」と説明を受けた。そのため、家族会に相談が入ったのであった。
◆バスの下に潜り運行前点検
K
さんに職歴を聞くと、学校を卒業後、佐賀県の醤油会社と酒造会社に合わせて
4
年間勤務したが、仕事内容は醤油と酒の配達であった。その後、
2
種の運転免許証を取得し、
1964
(昭和
39
)年
3
月末に西鉄バスに正規社員として採用され、到津営業所(北九州市)に配属された。そして、
1969
(昭和
44
)年
12
月に佐賀営業所へと異動となり、
1997
(平成
9
)年
9
月まで一貫してバスの連転手として勤務した。退職後も再雇用されバスのハンドルを握り、最後は高校のスクールバスを担当していた。女子高生から「おじちゃんの運転が一番安心」と言われたことと、運転手として勤務した約
40
年間に無事故無違反であったことが自慢であった。
石綿との接触が解らないと言われていたので、「バスのブレーキやクラッチにアスベストが使われていたことを知っていますか?」と尋ねた。すると、「毎朝の運行前点検の際は、円管服(作業用ツナギ)に着替え、点検ハンマー持ち車両の下に潜り、点検を行っていた」と話してくれた。そして、「到津営業所の時も佐賀営業所に来てからも、車両の下に潜り点検をしていた」「数週間に一度は、工場の修理担当者が見学に来て、点検のやり方や時間についてチェックをしていた」「タイヤハウスの周りやマフラー周りを点検ハンマーで叩くと埃がよく出ていた」「車両の下回りの点検時間は、毎日約
10
分程度だった」と、昔の記憶が溢れ出した。バスの運転手が作業着に着替え、バスの下に潜り点検を行っていたとは知らなかった。
また、昔は道路事情も悪く、タイヤがパンクすることもよく有り、年に何回かは運転手がパンクしたタイヤの交換を行っていたそうである。その際に、「タイヤの内側等に触れると付着した埃が飛散していた」と記憶されていた。
◆「前例がない」西鉄バスは証明拒否
そこで、西鉄バスに労災申請の協力を依頼したが、
K
さんは「バスの運転業務に従事しており、証明は出来ません」との回答であった。厚労省の発表によるとこれまで西鉄バスでは
2
名の方が石綿を起因とする疾病を発症したとして労災認定されているが、共にバスの整備作業に従事していたため会社として証明したと説明があった。
事業主証明が無いままでの労災申請となるため、協力してもらえる同僚をさがした。すると、佐賀営業所でバス運転手として一緒に勤務した
3
名が、作業内容について話してくれることになった。佐賀営業所においても、バスに乗る際は、運転手がツナギに着替え、バスの底に潜り、点検ハンマー用いて始業点検を行っていたと
3
人が話してくれた。
K
さんは、「バスの運転手として働いた他の人にも被害が出るかもしれない。自分が労災認定を受けることで救済の道筋を付けたい」と語っていたが、
2016
(平成
28)
年
4
月末に、「誤嚥性肺炎」で亡くなられた。
83
歳であった。佐賀労働基準監督署に労災申請を行ったのは、
2016
年
6
月
1
日であった。
◆職種を拡げ健康対策を
労災申請後の佐賀署の調査と判断は早かった。
8
月
16
日付の調査結果復命書において、「西鉄よりブレーキライニング、クラッチディスク、エアコンダクトの断熱材に石綿を含む部品が使用されていたと確認した」「同僚等に確認したところ、毎朝運航前点検として点検ハンマーを使って、バスの下回りの点検を行っていたことを確認した」として、「認定要件を満たす」と判断している。ただ、死亡原因が誤嚥性肺炎であったため、本省協議事案とされ、労災と認定されたのは
2017
(平成
29
)年
5
月
12
日であった。
石綿労災認定事業場の情報を確認しても、バス連転手の認定は初めてと思われる。
K
さんと同じ様に働いていた他の連転手もアスベストを吸い込んでいる可能性があり、企業側は労働者の健康管理を徹底する必要がある。
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2015年秋、東京の「アスベスト患者と家族の会」に電話が入った。「父が中皮腫を発症し治療中。仕事はバスの運転手が長く、どこでアスベストと接触したのか分からない」という内容で、被災者の長男からの相談であった。被災者は佐賀市で療養されていた。
被災者Kさんは、2015年8月頃から胸水が溜まり始め、大学病院で精密検査を受けたところ悪性胸膜中皮腫と診断された。医師からは「この病気はアスベストが原因で起こる病気です」と言われが、アスベストとの接触は思い当たらなかった。また、「この病気は国から補償されます」とも言われたので、佐賀労働基準監督署に相談に行ったが、窓口の担当者からは「バスの連転手でアスベストの労災を受けた前例はない。認定は難しい」と説明を受けた。そのため、家族会に相談が入ったのであった。
◆バスの下に潜り運行前点検
Kさんに職歴を聞くと、学校を卒業後、佐賀県の醤油会社と酒造会社に合わせて4年間勤務したが、仕事内容は醤油と酒の配達であった。その後、2種の運転免許証を取得し、1964(昭和39)年3月末に西鉄バスに正規社員として採用され、到津営業所(北九州市)に配属された。そして、1969(昭和44)年12月に佐賀営業所へと異動となり、1997(平成9)年9月まで一貫してバスの連転手として勤務した。退職後も再雇用されバスのハンドルを握り、最後は高校のスクールバスを担当していた。女子高生から「おじちゃんの運転が一番安心」と言われたことと、運転手として勤務した約40年間に無事故無違反であったことが自慢であった。
石綿との接触が解らないと言われていたので、「バスのブレーキやクラッチにアスベストが使われていたことを知っていますか?」と尋ねた。すると、「毎朝の運行前点検の際は、円管服(作業用ツナギ)に着替え、点検ハンマー持ち車両の下に潜り、点検を行っていた」と話してくれた。そして、「到津営業所の時も佐賀営業所に来てからも、車両の下に潜り点検をしていた」「数週間に一度は、工場の修理担当者が見学に来て、点検のやり方や時間についてチェックをしていた」「タイヤハウスの周りやマフラー周りを点検ハンマーで叩くと埃がよく出ていた」「車両の下回りの点検時間は、毎日約10分程度だった」と、昔の記憶が溢れ出した。バスの運転手が作業着に着替え、バスの下に潜り点検を行っていたとは知らなかった。
また、昔は道路事情も悪く、タイヤがパンクすることもよく有り、年に何回かは運転手がパンクしたタイヤの交換を行っていたそうである。その際に、「タイヤの内側等に触れると付着した埃が飛散していた」と記憶されていた。
◆「前例がない」西鉄バスは証明拒否
そこで、西鉄バスに労災申請の協力を依頼したが、Kさんは「バスの運転業務に従事しており、証明は出来ません」との回答であった。厚労省の発表によるとこれまで西鉄バスでは2名の方が石綿を起因とする疾病を発症したとして労災認定されているが、共にバスの整備作業に従事していたため会社として証明したと説明があった。
事業主証明が無いままでの労災申請となるため、協力してもらえる同僚をさがした。すると、佐賀営業所でバス運転手として一緒に勤務した3名が、作業内容について話してくれることになった。佐賀営業所においても、バスに乗る際は、運転手がツナギに着替え、バスの底に潜り、点検ハンマー用いて始業点検を行っていたと3人が話してくれた。Kさんは、「バスの運転手として働いた他の人にも被害が出るかもしれない。自分が労災認定を受けることで救済の道筋を付けたい」と語っていたが、2016(平成28)年4月末に、「誤嚥性肺炎」で亡くなられた。83歳であった。佐賀労働基準監督署に労災申請を行ったのは、2016年6月1日であった。
◆職種を拡げ健康対策を
労災申請後の佐賀署の調査と判断は早かった。8月16日付の調査結果復命書において、「西鉄よりブレーキライニング、クラッチディスク、エアコンダクトの断熱材に石綿を含む部品が使用されていたと確認した」「同僚等に確認したところ、毎朝運航前点検として点検ハンマーを使って、バスの下回りの点検を行っていたことを確認した」として、「認定要件を満たす」と判断している。ただ、死亡原因が誤嚥性肺炎であったため、本省協議事案とされ、労災と認定されたのは2017(平成29)年5月12日であった。
石綿労災認定事業場の情報を確認しても、バス連転手の認定は初めてと思われる。Kさんと同じ様に働いていた他の連転手もアスベストを吸い込んでいる可能性があり、企業側は労働者の健康管理を徹底する必要がある。