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労災事故・障害補償・審査請求
急性大動脈解離 再審査請求で認定
2016/11/20
◆長時間労働による急性大動脈解離発症
IT
関連会社に勤務する
N
さんは、プロジェクトマネージャー兼技術職として転籍して間もないグループ会社で、長時間労働により急性大動脈解離を発症し、療養補償給付および休業補償給付を請求しました。
◆相談者Nさんを取り巻く状況
N
さん(当時
39
歳)はグループ会社の人材公募に応募し転籍が決まり、
2013
年
10
月から新しい職場でプロジェクトマネージャーとして働くことになりました。
8
つのプロジェクトを取りまとめ、各チームの開発メンバーの進捗管理をするのが主な役割でした。当初は
2
年後に転籍をする予定で新しい職場へ出向というかたちで働き始めましたが、転籍先の部長から「給料は上がるので早く転籍して来てほしい」と早期転籍を打診されたため、合意のもと
6
ヵ月後に転籍することになりました。転籍後、直属の上司から「マネージャー職は間接要員であり実際の売上に直接貢献していない」と言われ、
N
さん自身もアプリケーション(ソフト)を顧客先へ導入する技術者としてシステム開発を兼任することを命じられ、仕事量が
2013
年
12
月から徐々に増え始めていきました。
N
さんが担当していたプロジェクトはコスト削減のため予算がひっ迫しており、人員は常にぎりぎりで作業が行われていました。そのような状況下で
1
名の休職者が発生し、その後退職。さらには納期直前に顧客へ納品するシステムにトラブルが発生したため、顧客へのクレーム対応に加え、退職者の分の仕事をこなさなければならなくなり、年末以降仕事量が増大し睡眠時間は
3
時間ほどしか取れないという過酷な状況に追い込まれていきました。業務時間中は顧客のクレーム対応とシステムトラブルによる対策会議に時間が費やされ、業務時間内に処理しきれないシステムの検証作業やプロジェクトの予算管理や見積書の作成および全メンバーの勤怠管理等の事務作業などを自宅に持ち帰って行わなければならなくなり、“サビ残”と呼ばれるサービス残業を強いられるようになっていきました。
深夜に帰宅後も
N
さんは自宅で仕事をしなければならず、疾病発症前
1
ヵ月間における時間外労働は
152
時間を超えていました。睡眠時間は
3
時間程度の状態が続く中、遂には
2014
年月に自宅で急性大動脈解離を発症して倒れ大学病院へ救急搬送されました。
20
時間に及ぶ手術の末、
N
さんは奇跡的にも後遣症が残存することなく一命をとりとめました。
しかしながら人工血管と人工弁に置換し障害者手帳
1
級という障害等級に該当する障害が残りました。
◆争点となった時間外労働時間数
N
さんは、発症した急性大動脈解離は長時間労働の末発症したものであり業務起因性が認められるものであるとして、大阪中央労働基準監督署へ療養補償給付と休業補償給付の支給申請をおこないました。
労基署は時間外労働時間数の判断について、「平成
26
年
2
月
8
日以外の日の持ち帰り残業については請求人から上司への依頼、業務命令も特段にない。つまり、請求人自身も上司に業務命令を申し込み、その承諾を受ける必要がない程度のものと認識していたと考えるのが妥当あり、事業主の支配下にある自宅での労働時間とは認められない」とし、時間外労働時間数に算入しませんでした。勤務時間数の算定においても
N
さんが会社に労働時間を過少に修正申告している「勤務状況報告書」にほぼ間違いはないと判断。発症
1
ヵ月前における時間外労働時間は
72
時間
24
分と推計し、「
80
時間を超える時間外労働が認められないことから業務と発症の関連性は低い」と評価し不支給としました。監督署の調査段階では
N
さんが会社に提出した勤務状況報告害は
36
協定に抵触しないよう自ら終業時刻を修正し勤務時間を過少申告していたものであることの事実確認、調査するまでには至らなかったのです。
N
さんはこれを不服とし審査請求へ臨みました。審査請求において
N
さんは「持ち帰り残業は業務の繁忙によって必然だったものであり、上司による黙示の指示があったこと」また、「勤務状況報告書の勤務時間数は
36
協定に抵触しないよう終業時刻を修正し休憩時間を増大させることで労働時間を過小にしたもので実態と大きく解離している」と主張しました。これに対し、審査官は休憩時間については「事業所関係者の申述から休憩時間は問題なく取れていた」とし、休憩時間を過大に申告して労働時間を過小にしていた
N
さんの主張は認められず、また持ち帰り残業についても「明らかに事業場からの業務指示があったと認められるもの(
10
時間程度)についてのみ、労働時間としてではなく、負荷要因のひとつとして評価と行う。」とし、時間外労働時間数には算入しませんでした。
勤務時間については本人よって修正申告されたと認められ、入出退勤記録は客観的なデータとして打刻端末記録が存在することから打刻端末から始業、終業時刻を採用するとしました。そして発症前
1
ヵ月における時間外労働時間が
78
時間
34
分であったと推計。しかし「業務と発症との関連性が強い
100
時間には至っておらず、仮にリモートアクセス作業時間(会社のサーバーに遠隔操作してアクセスすること)を労働時間として評価したとしても、発症前
1
ヵ月における時間外労働時間は
100
時間には至っていないものと認められる」とし棄却しました。
N
さんは請求代理人と共に再審査請求に臨み、「監督署段階で休憩時間を過大にして勤務時間を過少申告していた事実を確認しておらず算定された時間外労働時間には誤りがあること」「持ち帰り残業は上司からの黙示の指示があり時間外労働時間とみなされるべきであること」「打刻端末に記録された始業終業時刻が唯一動かざる客観的な入退勤記録であり、そこから勤務実態を把握するべきである」ことを証拠資料として積み重ね、審査会において主張しました。
◆審査会の判断
N
さんの急性大動脈解離発症について労働保険審査会は
N
さんの持ち帰り残業について「会社が業務指示のあった作業時間として
10
時間を認めており、当審査会においてはこれに加え
7
時間は業務に従事していたもの」と判断。しかしながらこの持ち帰り残業については、「行政実務上、必ずしも事業主の指揮命令下に置かれているとは言えないことから、直ちに業務負荷として評価することは適切ではなく、当審査会においても業務の過重性の評価に当たっては、負荷要因の
1
つとして評価する」とし、時間外労働時間には参入しませんでした。休憩時間については
N
さんの主張がほぼ全面的に認められ、最終的には
N
さんの発症
1
ヵ月前の時間外労働時間は
92
時間
18
分であったと推計しました。
疾病発症は業務上の事由によるものと認め、「監督署長が請求人に対してなした療蓑補償給付及び休業補償給付を支給しない旨の処分は失当であり、取消しを免れない。」と裁決しました。
自宅で倒れてから
2
年半経過してようやく勝ち取った
2016
年
9
月の裁決でした。
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◆長時間労働による急性大動脈解離発症
IT関連会社に勤務するNさんは、プロジェクトマネージャー兼技術職として転籍して間もないグループ会社で、長時間労働により急性大動脈解離を発症し、療養補償給付および休業補償給付を請求しました。
◆相談者Nさんを取り巻く状況
Nさん(当時39歳)はグループ会社の人材公募に応募し転籍が決まり、2013年10月から新しい職場でプロジェクトマネージャーとして働くことになりました。8つのプロジェクトを取りまとめ、各チームの開発メンバーの進捗管理をするのが主な役割でした。当初は2年後に転籍をする予定で新しい職場へ出向というかたちで働き始めましたが、転籍先の部長から「給料は上がるので早く転籍して来てほしい」と早期転籍を打診されたため、合意のもと6ヵ月後に転籍することになりました。転籍後、直属の上司から「マネージャー職は間接要員であり実際の売上に直接貢献していない」と言われ、Nさん自身もアプリケーション(ソフト)を顧客先へ導入する技術者としてシステム開発を兼任することを命じられ、仕事量が2013年12月から徐々に増え始めていきました。
Nさんが担当していたプロジェクトはコスト削減のため予算がひっ迫しており、人員は常にぎりぎりで作業が行われていました。そのような状況下で1名の休職者が発生し、その後退職。さらには納期直前に顧客へ納品するシステムにトラブルが発生したため、顧客へのクレーム対応に加え、退職者の分の仕事をこなさなければならなくなり、年末以降仕事量が増大し睡眠時間は3時間ほどしか取れないという過酷な状況に追い込まれていきました。業務時間中は顧客のクレーム対応とシステムトラブルによる対策会議に時間が費やされ、業務時間内に処理しきれないシステムの検証作業やプロジェクトの予算管理や見積書の作成および全メンバーの勤怠管理等の事務作業などを自宅に持ち帰って行わなければならなくなり、“サビ残”と呼ばれるサービス残業を強いられるようになっていきました。
深夜に帰宅後もNさんは自宅で仕事をしなければならず、疾病発症前1ヵ月間における時間外労働は152時間を超えていました。睡眠時間は3時間程度の状態が続く中、遂には2014年月に自宅で急性大動脈解離を発症して倒れ大学病院へ救急搬送されました。20時間に及ぶ手術の末、Nさんは奇跡的にも後遣症が残存することなく一命をとりとめました。
しかしながら人工血管と人工弁に置換し障害者手帳1級という障害等級に該当する障害が残りました。
◆争点となった時間外労働時間数
Nさんは、発症した急性大動脈解離は長時間労働の末発症したものであり業務起因性が認められるものであるとして、大阪中央労働基準監督署へ療養補償給付と休業補償給付の支給申請をおこないました。
労基署は時間外労働時間数の判断について、「平成26年2月8日以外の日の持ち帰り残業については請求人から上司への依頼、業務命令も特段にない。つまり、請求人自身も上司に業務命令を申し込み、その承諾を受ける必要がない程度のものと認識していたと考えるのが妥当あり、事業主の支配下にある自宅での労働時間とは認められない」とし、時間外労働時間数に算入しませんでした。勤務時間数の算定においてもNさんが会社に労働時間を過少に修正申告している「勤務状況報告書」にほぼ間違いはないと判断。発症1ヵ月前における時間外労働時間は72時間24分と推計し、「80時間を超える時間外労働が認められないことから業務と発症の関連性は低い」と評価し不支給としました。監督署の調査段階ではNさんが会社に提出した勤務状況報告害は36協定に抵触しないよう自ら終業時刻を修正し勤務時間を過少申告していたものであることの事実確認、調査するまでには至らなかったのです。
Nさんはこれを不服とし審査請求へ臨みました。審査請求においてNさんは「持ち帰り残業は業務の繁忙によって必然だったものであり、上司による黙示の指示があったこと」また、「勤務状況報告書の勤務時間数は36協定に抵触しないよう終業時刻を修正し休憩時間を増大させることで労働時間を過小にしたもので実態と大きく解離している」と主張しました。これに対し、審査官は休憩時間については「事業所関係者の申述から休憩時間は問題なく取れていた」とし、休憩時間を過大に申告して労働時間を過小にしていたNさんの主張は認められず、また持ち帰り残業についても「明らかに事業場からの業務指示があったと認められるもの(10時間程度)についてのみ、労働時間としてではなく、負荷要因のひとつとして評価と行う。」とし、時間外労働時間数には算入しませんでした。
勤務時間については本人よって修正申告されたと認められ、入出退勤記録は客観的なデータとして打刻端末記録が存在することから打刻端末から始業、終業時刻を採用するとしました。そして発症前1ヵ月における時間外労働時間が78時間34分であったと推計。しかし「業務と発症との関連性が強い100時間には至っておらず、仮にリモートアクセス作業時間(会社のサーバーに遠隔操作してアクセスすること)を労働時間として評価したとしても、発症前1ヵ月における時間外労働時間は100時間には至っていないものと認められる」とし棄却しました。
Nさんは請求代理人と共に再審査請求に臨み、「監督署段階で休憩時間を過大にして勤務時間を過少申告していた事実を確認しておらず算定された時間外労働時間には誤りがあること」「持ち帰り残業は上司からの黙示の指示があり時間外労働時間とみなされるべきであること」「打刻端末に記録された始業終業時刻が唯一動かざる客観的な入退勤記録であり、そこから勤務実態を把握するべきである」ことを証拠資料として積み重ね、審査会において主張しました。
◆審査会の判断
Nさんの急性大動脈解離発症について労働保険審査会はNさんの持ち帰り残業について「会社が業務指示のあった作業時間として10時間を認めており、当審査会においてはこれに加え7時間は業務に従事していたもの」と判断。しかしながらこの持ち帰り残業については、「行政実務上、必ずしも事業主の指揮命令下に置かれているとは言えないことから、直ちに業務負荷として評価することは適切ではなく、当審査会においても業務の過重性の評価に当たっては、負荷要因の1つとして評価する」とし、時間外労働時間には参入しませんでした。休憩時間についてはNさんの主張がほぼ全面的に認められ、最終的にはNさんの発症1ヵ月前の時間外労働時間は92時間18分であったと推計しました。
疾病発症は業務上の事由によるものと認め、「監督署長が請求人に対してなした療蓑補償給付及び休業補償給付を支給しない旨の処分は失当であり、取消しを免れない。」と裁決しました。
自宅で倒れてから2年半経過してようやく勝ち取った2016年9月の裁決でした。