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石綿肺がん労災不支給事案 死亡後に労災と認定
2016/03/20
◆「不支給の通知が届いた」
事の始まりは
2013
年
12
月に実施した石綿健康被害ホットラインでの相談でした。肺がんで療養中の
O
さん(
69
歳)から、「労災申請したのですが、不支給の通知が届いたので、これからどうすれば良いのか」との相談でした。
早速自宅を訪問し被災者
O
さんとご家族からこれまでの経過や職歴、居住歴などについて聞き取りを行いました。
O
さんは約
40
年のキャリアを持つ左官一筋の職人で、在職中は石綿含入の資材とセメント等を撹拌するなどの作業において石綿粉じんを吸入したこと。退職前から咳は出ていたが数年前からひどくなり、地元の市民病院で受診したところ肺がん(ステージⅢの後半)と診断されたこと。がんの発生部位が生検をするには不適切な部位であり、積極的な治療はしていないことなどが分かりました。
◆不支給理由は、「プラークがない」
さっそく原処分庁の西宮労働基準監督署の担当者に会い、不支給になった理由を聞いたところ、「肺がんの確定診断がされていない」「肺に胸膜プラークがないとの局医の見解などに基づき、現行の認定基準に照らして処理した」「もし今後新たな物証が出てきたら再度検討する余地はある」との説明を受けました。
とりあえず、審査請求手続きをすることと、セカンドオピニオンとしてアスベスト疾患に詳しいみずしま内科クリニック(東大阪市)を受診することをアドバイスしました。水嶋医師によればじん肺の管理区分申請が可能な程度の症状とのことで、診断書を作成してもらい、
2014
年
1
月に兵庫労働局へ管理区分申請(随時申請)をすると同時に、審査請求の手続きを行いました。その間に、不支給処分に関わる復命書を入手するため、個人情報の開示諸求を労働局に行い資料収集に努めました。
◆「管理Ⅰ」と「棄却」決定
その結果は、
4
月に労働局から「管理
I
」とする管理区分決定の通知が、そして
6
月には審査請求「棄却」の決定書が届きました。結果としては何も変わらなかったのですが、その決定書によれば、審査官が新たに依頼した専門医の意見書では、監督署段階よりも踏み込み、肺がんであると判断しました。認定の可能性もない訳ではないので再審査請求を行い、対策を考えることにしました。
8
月に水嶋医師から「胸膜プラークあり」との意見書をもらい、再審査請求書類と共に提出しました。ところが、
9
月に本人の容体が急変し、病院に救急搬送され、そのまま亡くなられたとの連絡がご家族から入ってきました。これまでの経験を踏まえ、ご家族に解剖についての説明と今後の対応を話し合いました。
2015
年
1
月、再審査請求に基づく口頭審理が大阪労働局においてテレビ会議システムにより行われました。安全センターは代理人として出席し、「本人は死亡したが解剖して肺の臓器の一部が病院に保管されているので肺組織の分析をして欲しい」旨を陳述しました。
◆石綿小体16,583本 自庁取消しへ
2015
年
6
月、ご遺族から肺の組織分析の結果報告が届いたとの連絡が入りました。それによれば本人の肺から検出された右綿小体の数値は、石綿による肺がんの労災認定基準である
5,000
本を遥かに超える
16,583
本が検出されました。
そのため、アスベスト(石綿)小体計測検査報告を原処分庁である西宮監督署に提出し、「新たな物証が出たので不支給処分を取り消し、早急に労災認定すること」を要求しました。しかし、「監督署としては現時点ではまだ再審査請求の途中なので関係機関と協議しないといけないので暫らく時間が欲しい」との説明を受けました。
その後
8
月に、「監督署としては
O
さんの事例については、現行の石綿による肺がんの労災認定基準を満たしていると判断し、不支給処分を取り消し、労災と認定することにした」との連絡が入りました。
◆アスベストを疑え!
これら一連の流れのなかで石綿による肺がんの認定基準の見直しが進むことを願うものですが、今回の
O
さんの事例からの教訓として、現在石綿による肺がんで療養中の方や家族の方には酷な表現でお許し願いたいのですが、認定の決め手・物証は被害者の身体のなかに残っているということを忘れないで欲しいということです。イザという時に慌てない為にも、解剖の有無の意思表示を家族や主治医との普段の会話の中で確認しておくことが大切ということを伝えたいと思います。
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事の始まりは2013年12月に実施した石綿健康被害ホットラインでの相談でした。肺がんで療養中のOさん(69歳)から、「労災申請したのですが、不支給の通知が届いたので、これからどうすれば良いのか」との相談でした。
早速自宅を訪問し被災者Oさんとご家族からこれまでの経過や職歴、居住歴などについて聞き取りを行いました。Oさんは約40年のキャリアを持つ左官一筋の職人で、在職中は石綿含入の資材とセメント等を撹拌するなどの作業において石綿粉じんを吸入したこと。退職前から咳は出ていたが数年前からひどくなり、地元の市民病院で受診したところ肺がん(ステージⅢの後半)と診断されたこと。がんの発生部位が生検をするには不適切な部位であり、積極的な治療はしていないことなどが分かりました。
◆不支給理由は、「プラークがない」
さっそく原処分庁の西宮労働基準監督署の担当者に会い、不支給になった理由を聞いたところ、「肺がんの確定診断がされていない」「肺に胸膜プラークがないとの局医の見解などに基づき、現行の認定基準に照らして処理した」「もし今後新たな物証が出てきたら再度検討する余地はある」との説明を受けました。
とりあえず、審査請求手続きをすることと、セカンドオピニオンとしてアスベスト疾患に詳しいみずしま内科クリニック(東大阪市)を受診することをアドバイスしました。水嶋医師によればじん肺の管理区分申請が可能な程度の症状とのことで、診断書を作成してもらい、2014年1月に兵庫労働局へ管理区分申請(随時申請)をすると同時に、審査請求の手続きを行いました。その間に、不支給処分に関わる復命書を入手するため、個人情報の開示諸求を労働局に行い資料収集に努めました。
◆「管理Ⅰ」と「棄却」決定
その結果は、4月に労働局から「管理I」とする管理区分決定の通知が、そして6月には審査請求「棄却」の決定書が届きました。結果としては何も変わらなかったのですが、その決定書によれば、審査官が新たに依頼した専門医の意見書では、監督署段階よりも踏み込み、肺がんであると判断しました。認定の可能性もない訳ではないので再審査請求を行い、対策を考えることにしました。
8月に水嶋医師から「胸膜プラークあり」との意見書をもらい、再審査請求書類と共に提出しました。ところが、9月に本人の容体が急変し、病院に救急搬送され、そのまま亡くなられたとの連絡がご家族から入ってきました。これまでの経験を踏まえ、ご家族に解剖についての説明と今後の対応を話し合いました。
2015年1月、再審査請求に基づく口頭審理が大阪労働局においてテレビ会議システムにより行われました。安全センターは代理人として出席し、「本人は死亡したが解剖して肺の臓器の一部が病院に保管されているので肺組織の分析をして欲しい」旨を陳述しました。
◆石綿小体16,583本 自庁取消しへ
2015年6月、ご遺族から肺の組織分析の結果報告が届いたとの連絡が入りました。それによれば本人の肺から検出された右綿小体の数値は、石綿による肺がんの労災認定基準である5,000本を遥かに超える16,583本が検出されました。
そのため、アスベスト(石綿)小体計測検査報告を原処分庁である西宮監督署に提出し、「新たな物証が出たので不支給処分を取り消し、早急に労災認定すること」を要求しました。しかし、「監督署としては現時点ではまだ再審査請求の途中なので関係機関と協議しないといけないので暫らく時間が欲しい」との説明を受けました。
その後8月に、「監督署としてはOさんの事例については、現行の石綿による肺がんの労災認定基準を満たしていると判断し、不支給処分を取り消し、労災と認定することにした」との連絡が入りました。
◆アスベストを疑え!
これら一連の流れのなかで石綿による肺がんの認定基準の見直しが進むことを願うものですが、今回のOさんの事例からの教訓として、現在石綿による肺がんで療養中の方や家族の方には酷な表現でお許し願いたいのですが、認定の決め手・物証は被害者の身体のなかに残っているということを忘れないで欲しいということです。イザという時に慌てない為にも、解剖の有無の意思表示を家族や主治医との普段の会話の中で確認しておくことが大切ということを伝えたいと思います。