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中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会

石綿救済法の改正は待ったなし

2022/02/18
2005年夏のクボタショックを契機にアスベストが社会問題化しました。アスベスト被害は労働者だけではなく、工場周辺に居住されていた住民や作業着等を家庭に持ち帰った事による家族にも及んでいることが明らかとなりました。また、労災保険を受けられない事業主や一人親方にも被害が拡がっていることや、労災保険の時効により補償を受けられない遺族が多く存在していることも問題となりました。

全国の被害者、遺族、労働組合らが声を上げ行動したことで、国は石綿健康被害救済法(以下、救済法)を制定し、2006年3月27日から施行されるようになりました。この救済法が制定されたことは被害者救済の立場から大きな前進ですが、救済法には「すき間」や「格差」が存在するため、私たちは何度も改正を求めてきました。

救済法は、制定から5年ごとに中央環境審議会環境保険部会石綿健康被害救済小委員会(以下、小委員会)が開催され、見直しの必要性について検討が行なわれてきました。この小委員会が201612月に取りまとめた「石綿健康被害救済制度の施行状況及び今後の方向性について」では、同制度の5年以内の見直しが必要であるとされました。しかし、この報告書が取りまとめられてから既に5年が経過していますが、見直しの動きはみられません。


◆救済法改正は待ったなし

アスベストによる健康被害は拡大しており、アスベスト特有の癌である中皮腫による死亡者数は2020年には全国で1600人を超え、石綿肺がん(中皮腫の2倍と推計)を加えるとアスベストによる年間死亡者数は約5,000人と推定されます。日本に輸入されたアスベストの量から推測すると、残念ながら健康被害はこれから更に数年間続くと考えられます。

救済法が制定された2006年以降、201410月には大阪・泉南アスベスト国賠訴訟の最高裁判決が出され、2021年5月には建設アスベスト訴訟の最高裁判決が出され、国の損害賠償責任が認められました。救済法についても、「救済」ではなく、補償へと制度を抜本的に改正する必要があるのです。

また、治療に関する環境も変化し、中皮腫の治療薬として2018年にオプジーボが承認されました。先月には、広島大学が、中皮腫の根治を目指す抗がん剤の治験を開始したと報道されました。中皮腫は根治が難しく、いまだに予後は約2年といわれている悪性腫瘍です。患者と家族が中皮腫を克服できるために、有望な治療研究に資金を投入し、「命の救済」にむけた具体的な支援が必要になっています。そのためにも、救済法の目的に、「治療研究の推進」を加える必要があるのです。

そして、急がれるのは請求権の延長の問題です。労災保険が時効となった遺族は、救済法により特別遺族給付金が請求できますが、2016年3月27日以降に死亡した遺族の一部には既に請求権が無くなっており、2022年3月28日以降は死亡から5年が経過した全ての遺族の請求権が無くなってしまいます。さらに、救済法が施行される以前に亡くなられた遺族(労災保険の対象外)の請求権も、今年の3月28日以降に無くなってしまいます。請求権の無期限延長に関する法改正は、待ったなしです。


◆3つの緊急要求

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会(以下、患者と家族の会)では、「石綿健康被害救済法改正への3つの緊急要求」をまとめ、国や国会議員への要請を行なっています。

1点目は、「格差」のない療養手当と「すき間」をなくす認定基準の見直し、です。労災補償等の対象にならない方には医療費と療養手当が支給されますが、療養手当は年齢等に関わらず一律103,870円となっています。とても健康で文化的な生活が保障される額ではありません。また、中皮腫の2倍とされる石綿肺がんの認定者数が増えないのは、厳しすぎる認定基準に問題があり、見直しを求めています。

2点目は、治療研究促進のための「石綿健康被害救済基金」の活用、です。救済法では認定者への給付の支払いのために「石綿健康被害救済基金」を設置していますが、2020年度までの残高は約800億円のまま推移しています。そこで、石綿健康被害救済法第1条の目的に、「治療研究の推進」を加え、基金から治療研究分野への積極的な支出を行なうよう求めています。

3点目は、待ったなしの時効旧制制度の延長、です。前項でも触れましたが、2022年3月28日以降に請求権が無くなってしまう問題が迫っています。救済法を改正し、請求権を無期限に延長する必要があります。


◆国会議員、兵庫県への要請行動

患者と家族の会では、3つの緊急要求への賛同を求め、国会議員への要請を行なっています。衆議院と参議院の全ての全国会議員に対して賛同署名を呼掛け、議員事務所への訪問や電話をかけて協力を求めています。

また、患者と家族の会ひょうご支部は、1月24日、齋藤元彦兵庫県知事宛てに要望書を提出しました。要望書の内容は、①全国知事会を通じて、環境省に対し、中央環境審議会環境保険部会石綿健康被害救済小委員会を至急開催するよう要請して下さい。②「3つの緊急要求」(別紙)への賛同をお願いします、の2点です。
当日は、兵庫県会議員の北上哲仁さんにご協力いただき、兵庫県健康福祉部の方と意見交換を行なうことができました。今回、兵庫県に要請を行なったのは、全国でもアスベスト被害者が多い県であるという点と、前回の石綿健康被害救済小委員会に兵庫県の健康福祉部長が委員として加わっていたという理由からでした。
世話人の福田靖美さんは、「行政や病院からの周知が足りておらず、気付けていない人はまだまだ多い。給付金と労災の補償では格差があり、法改正をすべきだ」と訴えていました。

今年1月16日の神戸新聞朝刊は、「(中皮腫)平均死亡率兵庫が最高」と報じました。神鋼記念会新神戸ドッグ健診クリニックの西川晋史医師が、中皮腫について人口100万人あたりの死亡数を調べたところ、2016年~20年の平均死亡率は大阪17.3人、東京9.7人に対して兵庫は22.3人と最も高い事がわかったと報じています。兵庫県は中皮腫の死亡者数でも全国で4番目と多く、県としてアスベスト被害者・家族の声に真摯に向き合い、政策に反映すると共に国にも強く要請する必要があります。


◆急がれる請求期限の延長

救済法の請求期限を延長する法改正は、これまで2008年と2011年に行なわれました。しかし、労災保険の時効救済は2016年3月27日以降に死亡した事例には適用されないため、死亡から5年が経過すると労災保険も労災時効救済も請求できなくなっています。2021年3月27日以降に亡くなった方で、そうした事例が発生しているのです。
救済法の請求権延長問題は待ったなしの課題です。
 
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