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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

石綿肺がん不支給処分取消訴訟 新たな闘いへ

2013/11/20
◆概要

アスベストにより肺がんを発症したとして労災申請を行ったが、労働基準監督署が労災と認めなかったため、労災不支給処分の取り消しを求め争っていた訴訟の判決が、115日に神戸地裁で言い渡された。

今回の裁判は、アスベスト特有の肺内変化である胸膜プラークの有無を、司法がどのように評価するのか大いに注目されていたが、工藤涼二裁判長は「胸膜プラークを認めることはできない」との理由で、請求を棄却した。


◆事件の経過

造船所において約23年間に渡り溶接作業や船内での組立作業に従事してきたMさんは、平成1532日に肺がんで亡くなられました。ご遺族は、生前にMさんから聞いた作業状況から、死亡の原因は石綿ではないかと考え、平成1711月に神戸東労働基準監督署に遺族補償年金の支給を請求しました。

神戸東署は平成183月に不支給処分を決定しましたが、その理由は「被災者に発症した肺がんは、石綿ばく露を示す医学的根拠に乏しく、またじん肺所見も認められない」ということです。つまり、画像上で「石綿ばく露を示す胸膜プラークがない」ということでした。その後、不服を申し立てましたが兵庫労働者災害補償保険審査官は平成1812月に請求を棄却し、再審再請求についても労働保険審査会は平成204に請求を棄却しました。


◆石綿肺がんの労災認定基準と認定率

石綿による肺がんの認定基準(20062月基準)は、①石綿肺、②胸膜プラーク+石綿ばく露作業10年以上、③石綿小体又は石綿繊維+石綿ばく露作業10年以上、④10年未満であっても胸膜プラーク又は一定量以上の石綿小体(5,000本以上)・石綿繊維(1μm500万本以上、5μm200万本以上)が認められるものは本省協議、となっていました。世界の医学界においては、「石綿肺がんは中皮腫の2倍」とのコンセンサスが確立しています。しかし、日本では労災として認められている人数は中皮腫より少ないという傾向が続いています。データーから考えると、石綿肺がんについては約7人に一人しか労災認定されておらず、私たちはその大きな原因として認定基準のハードルの高さにあると考えています。労災の認定基準に示されている「胸膜プラークが認められること」という点においても、読影する医師により大きな幅があるからです。


◆神戸地裁へ提訴

M事案は、再審査請求が棄却された後、東京・芝病院の藤井医師にレントゲン・CTフイルムを読影していただいたところ、「胸膜プラークあり」の所見をいただき、ご遺族が不支給処分の取り消しを求め提訴することとなったのでした。20081010日、ご遺族は神戸東監督署の不支給処分の取り消しを求め、神戸地裁へ提訴しました。Mさんの提訴を契機として、Hさん・Kさん・Fさんと石綿肺がん不支給処分取り消し訴訟が続くこととなりました。その意味で、石綿肺がん訴訟の先駆けとなる裁判でした。

この裁判は、神戸東監督署の不支給処分の取り消しを求めるものですが、石綿肺がんの認定のあり方、認定基準や、胸膜プラークの読影について争うこととなりました。そうした意味においても、石綿肺がんの患者・家族の方々の救済に大きな影響を与える裁判でした。


◆「10年ばく露要件は満たすが、プラーク無し」

今回の判決は、争点を①石綿肺がんの認定基準(20062月基準)の合理性、②Mさんの石綿ばく露作業への従事歴、③肺内に胸膜プラークが認められるか否かの3点とし、判断が行われました。
まず、①の認定基準について、10年ばく露及び医学的所見とする認定基準は、医学的知見に基づくものであり合理性があると判断しました。争点の②について裁判所は原告の主張の全て認め、「ばく露濃度は低いものであったと認められるが」「ばく露を受ける作業に約26年間従事したと認められる」と判断しました。ところが、③については、鑑定人の中野医師(兵庫医大)の「信用性を疑わせる事情は認められない」として、Mさんの「肺内に胸膜プラークがあるとは認められない」と判断したのでした。そして、10年ばく露要件は満たすものの、胸膜プラークが認められないため、業務起因性を認めることはできないとし、請求を棄却したのでした。


◆引き続き、争いは高裁へ

胸膜プラークは画像での診断が難しく、画像に写っていない場合でも手術や解剖において確認される事もあります。そのため、石綿にばく露する作業内容を重視し認定するようにと訴えていた訳ですが、裁判長は「国の基準は合理性が認められる」「胸膜プラークはない」と結論付けました。原告のMさんは、「泣き寝入りしている被害者のためにも控訴する」と決意を語り、1119日に控訴しました。石綿肺がんの被災者の救済に向け、争いの場は大阪へと移りましたが、引き続きご支援をお願いします。