NPO法人 ひょうご労働安全衛生センター

労災・職業病・労働環境など
お気軽にご相談ください

TEL 078-382-2118
相談無料・秘密厳守
月〜金: 9:00-18:00

アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

石綿被害 山陽断熱・クラレへの損害賠償裁判 
山陽断熱に賠償命令 岡山地裁

2013/06/20
◆概 要

断熱工事会社「山陽断熱」で働き、石綿肺や石綿肺がんを発症した元従業員とその遺族が、山陽断熱とクラレを相手に損害賠償を求めた訴訟の判決が、416日に岡山地裁で判決が言い渡された。

提訴は2009年1月、クラレの各工場(岡山・倉敷・玉島・西条)において熱絶縁作業に従事した株式会社山陽断熱の元従業員と遺族の4家族が、工事を発注したクラレと山陽断熱に対し、損害賠償を求める訴えを岡山地裁に起こした。その後、さらに被害者が増え、元従業員と遺族の2家族が原告に加わり、雇用主である山陽断熱と工事を発注したクラレの責任が争われてきた。


◆労災不支給をきっかけに被害者の掘り起し

当センターと山陽断熱の元従業員との関わりは、石綿救済法が制定された2006年からである。山陽断熱に18年間勤め、1992年に肺線維症で亡くなられたNさんが新法の特別遺族年金を申請したのだが、不支給となったことがきっかけで当センターに相談が寄せられたのである。同僚の健康被害を調査したところ、石綿による疾病で労災認定されたFさんとMさんの存在が明らかになり、同僚証言等を資料提出することにより、Nさんの審査請求は、「石綿肺管理区分4相当である」として不支給処分が取り消されたのである。こうした中で、労災申請、石綿手帳の申請が進み、現在当センターが把握している労災及び新法による認定者は7名となっている。


◆高濃度ばく露による被害の拡がり

山陽断熱の従業員は、クラレの玉島・倉敷・岡山・西条工場等において、34名が一組になり、蒸気管等のパイプの保温断熱加工作業、管の点検・修理の際の断熱材撤去と復旧の作業を行っていた。パイプに石綿含有保温材を取付けた後、「石綿ダンゴ」(石綿と珪藻土に水を加えて混合した水練り保温材)を、手でつかみ取り、保温材の上に大まかに塗りつけ「上塗り作業」を行い、箇所によっては二重に塗る場合もあり、下層を塗る「中塗り作業」も行っていた。

また、石綿含有保温材では、凹凸のある部分を覆うことができないため、それらの部分には石綿布団(作成するのも従業員)をかぶせて巻く作業にも従事していたのでる。元従業員のFさん、Nさん、Mさんは石綿肺の中でも一番重篤な「管理区分4」であるとして労災認定されている。また、原告であるTさんのご主人は、約28年間勤務し肺がんで亡くなられたのであるが、石綿小体の数を測定したところ158,095/g(乾燥肺)という数字が出てきた。原告で肺がんの治療中のHさんの肺内からも、石綿小体が32万本も検出されている。こうした事実からも、山陽断熱における保温断熱工事が、いかに高濃度の石綿ばく露があったかが伺える。


◆山陽断熱に賠償命令、クラレへの請求は棄却

判決では、「山陽断熱は遅くとも旧じん肺法が制定された1960年ごろまでには、石綿の危険性を知ることができ必要な対策を取るべきだった」と、予見可能性と安全配慮義務違反を認め、1億3,200万円の支払を命じた。一方、クラレについては「原告ら従業員に直接工事の指示を与えたとは認められず、実質的な使用従属関係にあったとはいえない」と退けた。また、元従業員のうち1人については「損害賠償請求の時効(10年)が成立している」として請求が認められなかった。

裁判において、クラレの社員が山陽断熱の従業員に作業指示を行っていた事実を立証したが、結果的に採用されなかった。クラレの工場内での粉じん作業において、仕事を受けた山陽断熱の判断で、局所排気装置を設置したり散水を行うなどの対応ができるはずがなく、クラレの責任を強く求めていたのである。

また、喫煙歴のある肺がん被害者は、損害額が一律10%カットされており、個々の事情等が考慮されていない点も納得がいかない。そして、時効問題についても、石綿関連疾患は遅発性の疾患であり、退職後の発症する等の特異性を考慮せず、10年という年限だけで簡単に切り捨てている点も大いに不満である。