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長時間労働 新認定基準で労災認定 

2013/04/20
◆経緯

六甲アイランドにある(株)ザ・グルメワールドの倉庫内の業務を請負っている(有)サージェントで雇用されるTさんは、コンビニに配送する商品の出し入れの仕事をしていました。長時間労働からうつ病を発症して出勤できなくなり、すでに退職してからの相談でした。


◆過重労働

1ヵ月の労働時間が300時間超Tさんは、201011月にサージェントで働き始め、労働契約の勤務時間は830分~1750分、休憩80分の実働8時間、休日は週1日でした。仕事は、冷凍冷蔵食品の入出庫および管理の業務でした。仕事は「やりじまい」であり、定められた勤務時間内で仕事が終わることはほとんどなく、残業をせざるを得ない状況にありました。そのため入社当時から、毎月60時間程度の残業を強いられてきたのです。

201111月、現場監督が突然退職したため“玉突き人事”で、副監督が監督に、Tさんが副監督となりました。そのため、これまでの仕事に加えて、当日休んだ者の仕事の穴埋めをせざるを得なくなり、残業時間が一気に増え、11月の労働時間が319.5時間、翌12月も307.5時間と、月100時間を超えるようになりました。朝、7時すぎに出勤し、日付を超えて帰宅することが多く、めまいや立ちくらみなど、体調に異常をきたすようになったのです。

20121月になると、今度は11月に監督なった人が会社を辞めてしまったため、副監督になってからわずか2ヵ月足らずでTさんが監督になりました。超スピード出世です。しかし、増えるのは倉庫会社との打ち合わせや報告書の作成、事故の応対などの仕事だけで、慢性的な人員不足は解消されませんでした。当然、これまで同様に当日休んだ者の穴埋めも行わなければならなかったため、1月は体調不良から3日間の欠勤と1日の早退となりました。それでも1ヵ月の労働時間は279時間でした。2月に入るとさらに体調が悪化し、6日間も欠勤せざるを得なくなったのです。それでも出勤した日には残業せざるを得ず、2月の残業時間は95.5時間でした。

37日も深夜まで働き、仕事が終わったのは日付が変わった8日の030分ごろで、バイクで自宅に帰ろうとしましたが、激しいめまいと吐き気に襲われ、六甲アイランド大橋のたもとで1時間以上うずくまり、めまいと吐き気が収まるのを待ち、やっとの思いで帰宅したのが深夜2時。翌朝、起き上がることも出来ない中で、同居者から会社に「出勤できない」と伝えると、社長は「それはどう言うこと」「出勤しないということは辞めると言うことか」を迫られ、同居者は「辞めます」と言ってしまったのでした。

Tさんがようやく体を起こすことができ、病院に行けるようになったのは319日でした。10日以上も寝込み、JR住吉駅北にあるメンタルクリニックを受診し、「うつ状態」と診断されました。主治医から「これは長時間労働による労災ではないか」とアドバイスがあり、Tさんは電話帳の「労働相談センター」を頼って全港湾神戸支部につながったのです。

定時分と残業時間分を別会社で支払う調べていくと、昼間(定時)は「(有)サージェント」で働き、時間外は「株式会社S・T・G」で働いていたことになっていたのです。タイムカードは1枚だけですが、別々の会社で雇用したことにして、1社分(サージェント)の給料だけで社会保険料を計算し、給料の振り込みは2社分まとめて行う。社会保険料を安くするための違法行為を行っていたのです。また、給与振り込みにかかる手数料を労働者の賃金からさっ引くという、労基法違反も行っていました。これだけでも社長がいかに金に汚いことがわかります。交渉には、社会保険労務士も同席し、「36協定はある」といいながら、ユニオンに見せもせず、上限時間についても「7080時間だ」とあやふやな回答で、実際はそれを大幅に上回る残業をさせていたのですから、労働時間管理をまったくしていなかったと自白しているのも同じでした。

また、十分な人員を配置せず、慢性的な人員不足で労働者が潰れるまでこき使い、Tさんと同様に精神的に追い込まれて退職している人も多くおり、そうした元労働者が「2ちゃんねる」で会社を罵っているほどです。交渉でユニオンから、傷病手当の手続きが行えるよう退職日について再検討を求めると「それをしたら、ウチにとってのメリットは?」と、Tさんがどれほど会社に貢献してきたかとか、Tさんの健康や今後の生活などまったく配慮せず、そんなことしか言えないお粗末な社長でした。

認定までの生活を生活保護でつなぐ会社を退職しているので傷病手当がもらえず、治療中なので雇用保険も出ない中、当面の生活をつなぐため区役所で生活保護の手続きを行い、事情を説明するとすぐ支給決定が行われました。会社が労災申請に非協力だったため、会社の証明なしで6月に労災申請を行いました。認定までの期間本当に厳しい状況でしたが、今年2月にようやく労災認定の決定がされました。新しい認定基準(月80時間以上の残業が3ヵ月以上で心理的負荷が強)に沿って判断されたものでした。この調査段階でも会社が非協力的で、「忙しい」を理由に監督署の聞き取りになかなか応じなかったため、認定まで8ヵ月を要しました。さらには、監督署の調査で最低でも24万円の未払い賃金があることがわかり、監督署から支払うよう会社を指導していますが、「金がないので月1万円ずつしか支払えない」と言っているそうです。

Tさんは、体調不良の兆候が出だした26日に欠勤しており、当初、監督署はその日を“発症日”としていましたが、後日、初診日が傷病発症年月日とされたことから、平均賃金が1,500円もダウンしてしまいました。体調の異変を感じたら、病院に行っておくことが必要です。

現在も休業を続けながら体と心のリハビリを行っています。今後、会社への責任追及を行うため、損害賠償請求訴訟(未払い賃金の支払いも含め)を視野に入れているところです。